■佐藤克文『巨大翼竜は飛べたのか―スケールと行動の動物学』平凡社新書、2011年。
データロガーという装置があります。動物の体に取り付けて、向いている方角や動きのスピードなどを記録するもの。水棲哺乳類とか鳥といった、直接行動を観察するのが困難な動物をふん捕まえて装置を取り付け、放して、機器をまた回収。そこに入っているデータを解析すれば、一体かれらが海や空で何をしているのかがわかる、というシロモノ。
著者とそのお弟子さんたちは、ペンギンだのウミガメだのミズナギドリだの、いろいろな動物にデータロガーをつけてその体のスケールと行動の関係を考察してきました。その成果のひとつとして、空に生きている動物たち(鳥)には、持続的に飛び続けられる「体型」にある制限があることがわかってきます。
さらに、それを既に滅びてしまった中生代の空飛ぶ爬虫類「翼竜」にあてはめてみると、現在推定されている体重と翼開長が正しかったとすれば、長い時間飛ぶことができない体だったという結論が必然的に導かれてしまう。
2009年にそうした論文を発表すると、ネット界隈でものすごく叩かれたらしい。それじゃあ解説いたしやしょう、というのがこの本。
恐竜の姿とかって、化石などの手掛かりをもとに、現生生物を参考にしながら「うーん、こんなもんだろう」と復元していくしかないわけです。少し時代をさかのぼるとその方法もかなり適当だったこともあるようですが、最近の古生物学者の中には、足いっぽんでも正確に復元するため、機能と形態について徹底的に研究している人たちが多い。
「飛び続けられない翼竜」説についても、それは完全に正しいかもしれないし、現在推定されている体重や翼長が間違っているのかもしれない。あるいは古代の環境のほうが何か違ったのかもしれないし、ひょっとしたらこの説を支えている前提を堀崩す何らかの発見されていない事実があるのかもしれない。いずれにしても、筆者らの研究が古生物の復元にあたって考えなければならない一つの面を提示しえたといえると思います。
徹頭徹尾、法則に従いながら、しかしその法則をなかなか明らかにしてくれない自然の謎掛けに挑戦する。そんな科学者のお仕事。