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2010年02月 アーカイブ

2010年02月28日

ピアニストになりたい!

■岡田暁生『ピアニストになりたい!―19世紀 もうひとつの音楽史』春秋社、2008年。

ピアノ演奏技法の19世紀。

ピアノは職人が一台一台注文に応じて作り上げる上流階級の贅沢品から、工場で生産される製品に。木製の枠に金属の弦をものすごい緊張力で張り巡らせたグランドピアノは、19世紀初頭のフォルテピアノに比べて鍵盤が8倍(!)重くなった。

こうした道具の変化とも絡まりあいながら、ピアノ「作品」からは「練習曲」が分離し、さらに曲としてのまとまりさえ捨象された「テクニック」が生まれてくる。全体(曲)を部分(テクニック)の集積に落とし込み、そのひとつひとつを徹底的に鍛え上げることで全体の完成に迫っていく。
そこに必要とされるのは師匠から盗む霊感ではなく、ストイックな指の教練課程を通じて鍛え上げられたマッチョな手だ。まるで、ピンの製造過程を要素に分解し、工場労働者には個別の要素についての習熟だけを要求することで、結果的にピンの生産力を飛躍的に向上させようとするように。

ピアノ教育も、家庭教師がつきっきりで良家の子女を教育するスタイルから、音楽学校で”それなり”の家の子供たちを大人数のクラスに詰め込み、カリキュラムに従って”それなり”のピアノ弾きに養成するスタイルにかわっていく。

現代のわれわれが「ピアノ弾くならまずハノンだよなー」と思ってしまうその思考は、音楽史においてごくごく限定された時期に生まれ、広がったものなのだということを見せ、相対化してくれます。さらに、このロマン派の時代に花開いた「ソナタ」という形式さえ、短いモチーフという部分をさまざまに展開させたものが全体を構成しているという還元主義的な成り立ちをしているとのこと。

そう、世俗化、大衆化、専門化(その内実は分解→反復→強化!)」。「近代化」の理論は音楽の、とりわけ「技法」の世界をも斬ることができるか。そんな試みをかなり意識的にやっているように見えました。いや斬れまくってます。だからとても読みやすい。逆に話がちょっと見えやすすぎるともいえそうですが(笑)

工人舎 PM

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原則、何かを買うときは「欲しいと思って10日待ってまだ欲しかったら真剣に検討する」ことにしているのですが、今回はもっと長いスパンで軽いパソコンを探していたので、安いものが見つかったところで買ってしまいました。

工人舎という会社の出しているPMというちっちゃいPCです。写真手前のやつです。奥にあるのは15.4インチのノートPC、左にあるのは携帯です。これでWindows XPが動いています。重さは340gほど(携帯電話3つ分弱)。

仕事で持ち歩いているのはLet'sNOTEの1kgくらいのものなのですが、書類とかカメラ、本などと一緒に持つとやっぱり鞄はけっこう重くなります。今回、「持ち歩く気になる」軽めのガジェットを求めながら、いくつかの選択肢を検討しました。

まずKING JIMの「ポメラ」DM20です。

純粋にメモをとることに特化した機械です。amazonで23000円ほど。
キーボードは申し分なく、話す早さでタイプすることが可能です。単4乾電池2本で20時間駆動、ボタンを押すとすぐに起動するところがかなり魅力的です。しかし、通信機能がまったくついていないので、出先から打ち込んだ文章をどこかに送る必要ができた時はほぼアウトです。(文章をQRコードに変換して携帯で読み込めるようにする機能がありますが、自分の場合、扱う文章がけっこう長いのでちょっと実用にはならなそう)

そこで、SONYのVAIO type Pはどうか。

ポメラ級の大きさの打ちやすいキーボードがついたちっちゃPC。オークションではそこそこと思われる程度の中古が45000円程度、新品で求めようとすると6-7万くらいからでしょうか。
これも打ち込みやすさではピカイチ。WindowsPCなので通信、ソフトウェア上の制限を考える必要がありません。ただし、バッテリーはおそらく満充電からの持ちが標準バッテリーで3時間くらいと少々短め(大容量バッテリーだと重くなって意味がない)、あと軽いには違いないですが、重さが600グラムを超えてくる点が気になります。

一応検討したのがSHARPのNetwalkerです。

電子辞書サイズのPDAです。amazonで34000円前後、軽いのと安価なのが魅力です。しかしながらここまで小さくなるとキーボードはかなり打ちにくい。また、OSがWindowsではないので、使える通信機材やソフトウェアが限られるというのもちょっと気になる。普段は有線・無線LAN、年に何回か周囲にネット環境がない辺鄙なところからFOMAの携帯をUSBケーブルで繋いでちょっとだけ通信する必要がある、というちょっと特殊な使い方をするのでそれには応えられなさそう。

といった具合にそれぞれ長所・短所があって悩んでいましたが、入力のしやすさと使い慣れたWindows機であることからVAIOにかなり傾いていたところで、たまたま見た工人舎のページにアウトレットで安いのが出ていたので、結局PMを買ってしまいました。
想像以上に筐体も画面も小さいです。さらにキーも豆粒サイズです。ただこれは慣れの問題のような気もする。画面はアイコンや文字を大きく設定し、キーは人差し指・中指・薬指を使った変則タッチタイプでなんとか乗り切りたいと思います。バッテリーは7時間持つというので、まあ8がけで5時間ちょっととみても持ち歩くには十分です。非力さは否めませんが、動画を見たりゲームをしたりといったヘビーな使い方はあまりするつもりはない(たぶんポメラにメーラーがついていたら100%買っていたくらい)ので問題ありません。

これで職場、家に加えて持ち歩き用、という3つのPCを使うことになりましたが、Google Docsやカレンダーを使ってデータはできるだけどこからでも取り出せるようにしながら活用と棲み分けをしていきたいと思います。

2010年02月24日

免疫学はやっぱりおもしろい、+α

■子安重夫『免疫学はやっぱりおもしろい』羊土社、2008年。

ゼロから学ぶ1冊目にはちょと辛い……
もっと単純なポンチ絵でざっくり理解してから、知識の整理と追加に使うのがいい本かも。しかしこれより易しいものを求めるとなると、何を読んだものか。

そこで

■長野敬ほか監修『サイエンスビュー 生物総合資料』2009年、実教出版。

高校生物の資料集(税込820円!)を開くわけですが、これが超すげえ。上記1冊分のエッセンスが6ページにまとまってます。これでまた上記の本に戻るといいっぽい。

免疫学って難しい分野のようなのですが、システム全体を警備会社に見立てて、現業(やっつける)、情報(覚える)、学校(養成する)といった各部門の役割に勝手に振り分けながら考えるのが有効で、しかもほんとによくできているなあと感心するわけです。

2010年02月14日

友愛シンポ

ひょんなことから、っていうか以前本の感想を書いたエントリに著者からコメントがついたのが縁で、著者ご出演のシンポジウムを見に行ってきました。

鳩山首相が「いのちを、守りたい」と裏声も使って絶叫した施政方針演説を支える「友愛」と「新しい公共」をめぐって、政府や学界などからスピーカーが集まってああだこうだいう集まりです。
動画配信するそうで、そのうちここにでもアップされるのではないかと思うので、とりあえず管理人の印象から構成できる範囲で超簡単にメモっときます。

・失業した人、在留外国人、福祉を受けている人、薬物中毒者など、社会的に孤立しがちな人たちを排除や隔離するのではなく、さまざまな仕方で社会の中に戻ってもらう/踏みとどまってもらうこと(鳩山演説では「居場所と出番のある、新しい共同体のあり方」)、つまりよく公共政策論などで出てくる「社会的包摂social inclusion」が「友愛」の顕現するところであり、
・政や官は仕事の一部を、教育・就労支援などさまざまな分野で社会的包摂に向けて主体的に活動する民間の結社(典型的にはNGO/NPOか)を援助する/邪魔しないことに振り向けていくことが「新しい公共」の一つのプロセスだといえる。
・そしてこうした考え方は国の外にも適用できるもので、それは貧困や迫害など困難な状況にある人たちへの援助や環境保護など、国境を越えた活動に取り組む非政府組織や国際機関に対して、国の仕事や資源の一部を割譲していくということなんじゃないかと受け取りました。

で、個人的には「友愛」じゃなくて正面きって「社会的包摂」と言ったほうが、
・語感的に少しは気持ち悪くない
・英国などでのsocial inclusionの試行例から、実施方法と顛末と注意点を学び取りやすい
・単に「誰にでも優しくしよう」みたいな情緒的・道徳的な話ではなくて、社会の安定化のための手段なんだという実利的な(より広く受け入れられそうな)訴えがしやすい
点でいいんじゃないかと思いました。

実際のところ、受け入れがたい他者(場合によっては包摂を拒絶する遠い遠い他者さえ)をも包摂しようとするのはかなりパワーがいることだと思います。また、民間に「官に頼らず自分たちでできることをやってもらう」ことを政策的にどう誘導していくのかも容易にイメージしにくい課題だと思います。

久しぶりに制度設計者視点の議論をたくさん聴いたので疲れました。
貧困、ジェノサイド、そして弱者の視点を、みたいな話を聞くだけ聞いて会場の東大医科研を抜け出すと、そこは白金台。スポカジ姿で犬の散歩をするおじさん、ランチ3600円の張り紙、山の手の住宅街の平穏な夕暮れに軽い眩暈を感じながら、とぼとぼと目黒駅に向かいましたとさ。

2010年02月08日

インフルエンザ パンデミック

■河岡義裕、堀本研子『インフルエンザ パンデミック―新型ウイルスの謎に迫る』講談社ブルーバックス、2009年。

ううむもっと早く読めばよかった。
情報の洪水の中でいろいろな説がほとんど同時に飛び込んできて混乱していたのですが、「どうしてそういう説が出るのか」の水準で説明してもらうとすっきりと整理されていきます。登場する情報は09年9月までのもの。

・09年の新型は季節性と同程度の病原性(ウイルスに毒はないので、「毒性」というのは厳密には間違いらしい)と早合点するべきではない→変異で全身に感染する高病原性になる可能性がある
・ワクチンは打っても感染を100%予防できるわけではないし、副反応は0にはできない。治療薬や学校閉鎖などの社会的な処置を併用する必要がある
・タミフルやリレンザなどの治療薬を使っていると必ず薬剤耐性菌が出てくる。中途半端に服用を止めてはだめ。従来と働き方の違うものも含め新しい薬が開発されつつある(1月に発売された塩野義、2月初めに承認申請した第一三共、申請予定の富山化学工業など国産も出てきつつありますね)
くらいは何かの時にあわあわしないために知っておきたい。

そのほか
・ウイルスは細胞に自分を食べさせて侵入し、乗っ取って自分の複製を作らせて外へ飛び出していく
・小さな変異(コピーミスによる。毎年季節性インフルにかかる原因)と大きな変異(細胞に2種類以上のウイルスが感染して混ざる。「H○N△」の○△の部分が変わる)がある
・種によってウイルスの取り付き先が違う(変異するとブタ→ヒトなどの感染が起きる)
・「生ワクチン」は病原性を弱めたウイルスそのものでよく効くが副反応もそれなり。「不活化ワクチン」はウイルスの破片などで、副反応の心配は少ないが目や鼻だけの手配写真のようなもので免疫の効きは落ちる
など、そもそものメカニズム解説や研究史についても、門外漢にもわかるようイラストと平易な文章を工夫してあってポイント高いです。

2010年02月07日

六本木彷徨

ドラゴンクエストとのおつきあいはMSXというパソコンでやった「1」から始まり、小4のとき(1987)に初めてうちに来た(同級生の中ではかなり遅いほうだったと記憶してます)ファミコンで「2」から「4」、スーパーファミコンで「5」「6」(1995.12発売だが、受験生だったのでたぶん大学に行ってからやったはず)くらいまでやって、あとは就職直前?くらいに実家に戻っていたとき妹のプレステで「7」をやったきりです。あれから10年経ちますが、このかん新しく出たのは「8」「9」だけなんですね。知らなかった。

「ルイーダの酒場」というのがあります。これは一緒に冒険をするメンバーを選べるシステムが導入された「3」に登場した施設で、ここに寄っていろんな職業の男女をハントしたりお払い箱にしたりするわけです。

で、メーカーのスクウェア・エニックスがカラオケ屋のパセラとコラボして、リアル「ルイーダの酒場」を六本木に作ったというので「9」をやっている友人に誘われていってきました。
寒い日曜午前10時に列に並んで(社会現象になった「3」のときでさえ列には並ばなかったような……)整理券ゲット、75分入れ替え制で、15:30からの入場を許されました。ううむ、ここまでして……

5時間も時間を潰すことになったので、六本木ヒルズを歩き回り、HARBSでBLTサンドのランチ(お茶とケーキついて1300円。ボリュームもなかなかありうまかった)。さらに国立新美術館に行って文化庁メディア芸術祭をざっと見てようやく時間に。

寒い風がぴーぷー吹く外に並んだ人たちが入っていきます。
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中はこんな。まあカラオケ屋さんで出てくるような質の飲み物と食べ物。名前は登場キャラクターとか呪文の名前とかにひっかけてつけてありますが。
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私が唯一ウケたスライム蒸し。
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ニンテンドーDSで出ている「9」は無線通信を使って近くにいるプレイヤーとやりとりができるそうで、皆さんいろいろ食べながらDSをずっと操作してます。ここでしか手に入らないアイテムとかもあるようでしたが、そもそもDSを持っていない私は手持ちぶさたそのものでした。当然だ。DS買うか?つうか面白いのか?

2010年02月05日

著作権の世紀

■福井健策『著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」』集英社新書、2010年。

創作されたものをコピーしたり組み合わせたりする技術が改良され、情報の流通がより早く、より広くなると、情報の独占制度としての著作権はどういう地図の中に置かれることになるのか。

何が著作権で保護され、どれだけの間保護され、何が法の問題で、何が法の外の問題で、何がグレーゾーンで処理され、それと作品を利用したさらなる創作やアーカイブ化などの活動の促進はどう折り合いをつけていくことができるのか。本来は著作権で保護されないモノを疑似著作権の対象物として囲い込もうとする昨今の動きについて。そんなことを考えます。

森進一の「おふくろさん」改作問題、槇原敬之vs.松本零士、フェアユースとJASRAC、村上隆に海洋堂のフィギュアにマルセル・デュシャンまで出てきます。おお、これってこういう問題だったのか、と感心しながら読み進む感じ。頭のいい人の文章という感じで、よくある「いろいろ寄り道している間に本筋との距離感がわからなくなる」みたいなことがなく読み通せます。

NHKの視点・論点に出てらしてお話が面白かったので買ってみました。勉強になりました。

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