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宇宙、経済、政治

◆寺薗淳也『2025年、人類が再び月に降り立つ日』祥伝社、2022年。

タイトル見て、アルテミスの解説本かー、そんじゃおさらいだけ……と思って買ったら全然違った。夢で終わらない、宇宙開発の文脈を知るには最高だと思う。専門性と同時代性と読みやすさと分量、という新書の存在意義を全部詰め込んだような本でした。

以下は自分用メモ。

【アルテミス計画】

◆アルテミス計画
・アルテミス=ギリシャ神話「オリュンポス12神」の1柱、アポロンと双子
・L-39Bはアポロ時代から使われている
・オリオン:4人搭乗可能(アポロは3人)
・SLS:アルテミス1では1段(推進装置がコアステージのみ)。将来、火星以遠に探査機を送る際は2段式を使う計画
・アルテミスが遅れる要因:アポロは国家予算が無尽蔵につぎ込まれた/50年という時間的断絶(cf.ソ連、1970年代まで高い宇宙開発技術、1980年代の経済的混乱からソ連崩壊にかけて技術者流出、2000年代には入りたてと引退直前だけで中間がいない状態、ロケット技術の衰退につながった←NASAでも米宇宙政策の不安定さや民間の待遇のよさにより人材流出)

◆経緯
・アポロ以降、月には消極的
・1990s 月探査機クレメンタイン、ルナープロスペクターにより極域に水の可能性判明
・21c 子ブッシュが有人月探査コンステレーション打ち出し
   ロケットと宇宙船新開発する計画だったが予算と期間超過でオバマが中止
・2007 嫦娥1号 ~以降5回にわたり月着陸成功
・オバマは小惑星に人類を送るARM, Asteroid Redirect Mission
   月上空ステーション「深宇宙ゲートウェイ」建設、探査基地にする構想登場
   →計画に無理、進まずトランプが2017年中止
   *ゲートウェイはアルテミスに残ったが2022ごろの建設開始が遅れ中
・2017 アルテミス計画を承認する宇宙政策指令書にトランプが署名
   *共和党政権はこの30年ほど月に好意的。民主党は宇宙に不熱心
   *アルテミス打ち出し当初はアメリカファーストで米1国の計画
   *アルテミス3は2024年予定。トランプが2期目のレガシーにしようとした
   *嫦娥(2007-)を成功させる中国の有人探査に対抗も
・2019.5 トランプ来日時に安倍がアルテミス参加表明
   *トップが宇宙計画決定するのは日本では異例
 2019.10 日本政府方針として計画参加を正式決定
 2019.10.18 安倍ツイート「強い絆で結ばれた同盟国として参画」
   ~ゲートウェイで水循環装置など生命維持システム提供、
    物資輸送、有人与圧ローバー、アルテミスのため13年ぶりに飛行士募集
   *岸田の経済安保の柱の一つが宇宙開発。経済発展のためのアルテミスも
   *課題は費用負担のあり方=計数千億円?
    cf.JAXA当初予算は年1500億程度。2022年度はアルテミス関係予算400億
     宇宙関係予算は21年度以降増加、22年度は当初3900億+補正1300億
・2020.10 アルテミス合意(計画参加の遵守事項)に最初の8カ国が署名
   *対中ロ。欧州の署名は対ロの意味も

◆月探査機
・エクレウス:EML2=地球と月から受ける重力がバランスし、人工衛星などが少ないエネルギーで長期間留まることができる。将来、惑星探査機を打ち上げる拠点として好適。エクレウスはEML2の環境調査と制御技術の検証。EML2は軌道運動の感度がよい=わずかな制御で惑星間軌道、地球周回軌道、月周回軌道などへ移れるが、逆に制御を間違うとどこかへ行ってしまう
・オモテナシ:これまでも周回機「ひてん」「かぐや」を制御落下させていたが、壊れずに月面に届ければ日本初
・YAOKI:CLPS(NASAが民間の月輸送船=ULAのバルカン=を借りて月に物資を運ぶプログラム)。月着陸にはアストロボティックのペレグリンを使用
・HAKUTO-R:ミッション1はJAXAの変形二軸ローバー、UAEの4輪ローバーなどを搭載した着陸機。ミッション2(2024)はispace独自ローバー
・SLIM:小型月着陸実証機。ISASや大学研究者ら。従来は目標地点から誤差数キロでの着陸。SLIMは100m以内。搭載カメラの画像から自律判断で着陸。月「神酒の海」の中のSHIOLI(シオリ)クレーター近く。内部地層を調べる科学調査もミッション。2段階着陸方式=最初から転んで着地する。小型ローバーLEVも2台搭載

【世界の宇宙探査の歴史】

・1957.10.4 ソ連、人工衛星スプートニク1号を初めて地球周回軌道に
  ←冷戦下、米ソが核爆弾輸送のロケット開発とデモとしての宇宙開発に注力
・1958.1.31 米、人工衛星エクスプローラー1号打ち上げ
  →以降失敗続き、研究体制の再編
 1958.7 アイゼンハワーが国家航空宇宙決議署名、NASA設立
  米航空諮問委(NACA,1915-)の研究所や軍関係の研究組織を糾合、
  12月にはCaltechのJPLも指揮下に
・1958.8 米、月探査機パイオニア0号はロケット爆発で失敗
  (月通過成功は1959.3の3号)
・1959.1 ルナ1号が月を通過
   9月、ルナ2号が月面衝突成功
   10月、ルナ3号が月の裏側撮影成功
・1961.4.12 ソ連、ガガーリンがボストーク1号で地球軌道周回
・1961.5.5 米、シェパードがマーキュリー3号で米初の宇宙飛行
  ←有人宇宙探査マーキュリー計画の一環。続いてジェミニ計画へ
  *無人月探査も
   月面撮影、最後は探査機が月面突入するレインジャー計画
   月面軟着陸し表面の様子を観察するサーベイヤー計画
   月周回しながら表面の様子を調べるルナーオービター計画
 1961.5.25 ケネディが上下両院合同議会で演説「今後10年以内に人類を月着陸」
  →アポロ計画
・1966 ソ連、コロリョフ急死
 1969 N-1ロケット打ち上げ失敗、ソ連の有人月探査計画は頓挫
 (これらの情報はソ連崩壊まで隠蔽、米には状況がわからなかった)
・1967.1 アポロ1号事故
 1968.10 アポロ7号の有人飛行成功(地球周回)
 1968.12 アポロ8号の有人月周回飛行
 1969.7.20 アポロ11号イーグルで月面着陸、石22kgを初のサンプルリターン
 1971.7 アポロ15号で有人ローバー使用
・1970.9 ソ連、ルナ16号で月面着陸、土壌101gをリターン
 1970.11 ルナ17号で無人ローバー「ルノホート1号」で月面調査

・アポロは有人月探査が達成、ベトナム戦争もあり多額の費用に議論
 1970.4 アポロ13号で爆発事故、月周回で地球帰還→危険に対する議論も
 1970.8 20号までの予定だったアポロは17号で打ち切り決定
 1972.12 アポロ17号
 1975.7 アポロとソユーズが地球周回軌道上でドッキング←デタント

・アポロ後の米国の宇宙開発
 (1)1970s~ 再使用型往還機スペースシャトル計画
   *外部燃料タンクと固体ロケットブースターは使い捨て
 (2)月以遠、火星、木星、土星探査
  1972 パイオニア10号、木星接近撮影
  1975 バイキング1号、2号が相次ぎ火星着陸、生命の徴候なく火星は下火に
  1977 ボイジャー1号、2号
  1979 パイオニア11号、土星接近

・ソ連
 1970 ベネラ7号の金星表面軟着陸
 1975 ベネラ9号が金星表面撮影
 1986 宇宙ステーション・ミール打ち上げ
  1990 秋山さん滞在

・デタント崩壊以降
 1979 アフガン侵攻
 1981 スペースシャトル・コロンビア号打ち上げ成功=意外と高価だった
 1984 レーガン、宇宙ステーション・フリーダム計画=自由主義陣営の団結象徴
  レーガンはICBMを軍事衛星で打ち落とすスターウォーズ計画も立ち上げ
  →進まなかったが、衛星大量配備のための小型・軽量化技術が誕生
 1986 チャレンジャー事故、安全性への疑問と対策への巨費投入
  ~米宇宙開発の迷走

・1991 ソ連崩壊、米一人勝ちへ、Faster-Better-Cheaperの時代
 1993 クリントン、フリーダム計画にロシアを加える決断→ISS計画へ
 1994 月探査機クレメンタイン(SDIから出てきた部品を使用した軽量小型探査機)
  →月全球のデジタル撮影、地質・地形データ取得。極域の氷存在を示唆
  →アルテミスへ続くブームの号砲
 1996 マーズ・パスファインダー、バイキング1、2号以来21年ぶり火星着陸
 1998 月探査機ルナープロスペクター打ち上げ
  →月極域の永久影に約60億tの氷か

・2000年代
 1999 中国、建国50周年で神舟1号(無人)
 2000 ブルーオリジン設立
 2001 米、2001マーズ・オデッセイ
 2002 スペースX設立
 2003 神舟3号で有人宇宙飛行成功(ソ連、米に次ぎ3カ国目)
 2003 コロンビア号事故→重厚長大は時代遅れ論
 2003 ESAの月探査機スマート1
 2003 ESA、マーズ・エクスプレス
 2003 米、マーズ・エクスプロレーション・ローバー
 2004 ブッシュのVSE, Vision for Space Exploration
  →2010年シャトル退役、カプセル型宇宙船オリオン、大型ロケット・アレスへ
  →シャトル依存から計画は遅れ
 2005 米、マーズ・リコネサンス・オービター
 2007 米、フェニックス(火星)
 2007 日本、月探査機かぐや
 2007 中国、嫦娥1号(嫦娥は古代中国の神話に登場する月の女神)
 2008 インド、月探査機チャンドラヤーン1(チャンドラ=月、ヤーン=乗り物)

・2010年代
 2011 シャトル引退
 2011 ロシアの火星探査機フォボス・グルントに中国の蛍火1号も相乗り(失敗)
  ロシアは10年代に欧州接近
  仏領ギアナのソユーズ打ち上げ計画、エクソマーズはウクライナ侵攻で頓挫
 2014 インド、マンガルヤーンを火星周回軌道投入(アジア初の火星探査機)
 2019 チャンドラヤーン2、月周回機は投入、着陸機は失敗
 2023? インド独自の有人宇宙船開発
 2024~ 日印で月極域探査LUPEX
  *インドは初期にはロシアから技術導入、現在は独立か

【日本の宇宙開発】

◆特徴
・日本は軍事と結びついていない
 *2020 自衛隊に宇宙作戦隊新編。情報収集衛星(=偵察衛星)もあるが
・少ない予算で幅広く宇宙開発している
 *JAXAの予算はNASAのざっくり1/10
 *打ち上げ機会が少ないので機能詰め込みになり、月着陸はSLIMまで30年かかった
  ←→中国、インド、米小規模ミッションなどは3-4年で打ち上げ
・政府需要が多い

◆歴史
・WWII前から兵器としてのロケット開発は実施
 →敗戦、1952.4の講和条約発効後に航空技術開発ができるように

・固体燃料ロケットの流れ
 *燃料と酸化剤を一緒に固めた固体燃料(推進剤)の燃焼で飛行
  構造が簡単で低コスト。点火すると同じ強さで燃え続けるので推力調節が困難
  M-Vやイプシロンなどがこのタイプ
 1954.2 糸川が東大生産研に航空技術研究班
  →ペンシルロケット、ベビーロケット
 1958.9 K-6で高度50km、上層大気観測。1960にはK-8で200kmへ
 1960.2.11 L-4Sで初の人工衛星おおすみ(-2003)
 1985 M-3SIIで「さきがけ」「すいせい」でハレー艦隊に参加
 1997.2.12 M-V1号機打ち上げ、翌年の3号機で火星探査機「のぞみ」
 2002.2 M-V4号機のX線観測衛星打ち上げ失敗

・米からの技術導入による液体燃料ロケットの流れ
 *液体燃料と液体酸化剤が別のタンクで、燃焼室で混ぜて燃やす
  点火後に消したり再点火したりできるので推力の調整がしやすい
  構造が複雑で製作が難しい、コストも高い
  H-IIA、H3が液体ロケット
 1969.10 NASDA設立
 1975 N-Iで技術試験衛星「きく」打ち上げ
 1981 N-IIで「きく3号」打ち上げ
 1986 H-Iシリーズ打ち上げ開始
 1994 H-II1号機打ち上げ(←エンジン開発難航)=純国産大型液体ロケット実現
 1999 H-II8号機は気象衛星打ち上げで指令破壊、シリーズ打ち切り

・JAXAへ
 2003.10.1 宇宙研、NASDA、NAL(科技庁・航空宇宙技術研)統合でJAXA
 2003.11 H-IIA6号機指令破壊
 2009 きぼう完成
 2011-2020 こうのとり

・政策
 2008 制定。研究者主体から国主導の技術開発、産業化へ
  内閣府に宇宙開発戦略本部設置、担当大臣も
  法では国民生活向上のための宇宙開発、産業振興、国際協力や外交を明記
 宇宙基本計画を5年ごと策定、安全保障寄りに
 2015年版では宇宙安全保障の確保、宇宙協力を通じた日米同盟等の強化うたう
  *背景に1998テポドン・ショック→情報収集衛星
 2022.3 空自宇宙作戦群=デブリや他国の人工衛星監視

【民間主体へ】

・NASA、2006年からCOTS(Commercial Orbital Transportation Services)
 →スペースX選定。シャトルの失敗踏まえた事業。開発長期化と保守的設計の打破
 *冷戦終結で軍事の国家独占から民間による活用で経済効果へシフト
・Virgin GalacticのSpaceShipTwo
・衛星写真ビジネス:Maxar、PlanetLabs
・通信:スターリンク、プロジェクト・カイパー(ブルーオリジン)
・日本:ispace(月への物資輸送サービス)、インターステラテクノロジズ、大樹町、ヴァージン・オービットによる大分空港「宇宙港」化、アストロスケールの宇宙ごみ掃除、流れ星のエール、PDエアロスペース(名古屋)のPDEによる有人宇宙船、スペースウォーカーの宇宙旅行用宇宙船、スペースBD
・民間宇宙旅行

【宇宙資源】

◆使い方
 (1)現地で使用
  現在の想定はこちらが主。輸送コストが高いため
  月の水資源(クレメンタイン、ルナープロスペクター以降)=極域に氷として
   ・自転軸の傾きが小さいため、南北の極はほぼ横から太陽が当たる
    →クレーター縁のリムが遮って永久影を形成、-200度以下の低温に
     リムは逆に「永遠の昼」。そこで太陽光発電→氷溶かす。活動拠点にも
   ・存在の直接確認:NASAがVIPER計画(2024.11)、日印LUPEX(2024fy-)
   飲料、電気分解して酸素と水素にしてロケット燃料へ
   *H2Oではなくヒドロキシ基-OHの発見のことを指す場合も
    →結合した岩石を熱して取り出すことはできるが面倒
  月のレゴリス(セメント材料の灰長石、鉄など)

 (2)地球に持ち帰って使用
  レアメタル(プラチナ、パラジウム)は持ち帰ってもペイするかも
  地球上でのレアメタルの遍在、地政学リスクも背景
  地球はいったん溶けたため重い金属が中心に落ちているが、小惑星は表層に?
   ←はや2、リュウグウが資源的隕石に似ていることから可能性あり(cf.M型)
  オバマ政権のARMを背景にベンチャーも
   2010-2018 Planetary Resources, Inc. 小惑星観測、探査機送って採掘
   2013-2019 Deep Space Industries 同

◆誰のものか
 宇宙条約(1967)2条→宇宙は国家のものではない。民間については規定なし
 2015 米宇宙法改定→米企業が採掘した資源は企業に所有権と規定
    *公海(どこの国のものでもないが、魚は釣った人のもの)を援用
    ルクセンブルクも同様の規定。UAEも所有認める法制
 2021 日本・宇宙資源法。5条で日本企業が採掘した宇宙資源はその企業のもの
 →月は早い者勝ちでいいのか?使いまくっていいのか?は問題として残る

【これから】

・費用負担、合意形成のあり方
 ISSはこうのとり打ち上げなどで年400億円、累計1兆2000億(試算)
 リターンは? cf.河野行革のレビュー2015
 ロシア離脱したら?
・超大国のデモンストレーションから経済へ
 モルガン・スタンレー2020予測では2040年の宇宙産業は3倍、1兆ドルに
・軍事
 キラー衛星、弾道ミサイル発射を探知する早期警戒衛星
 2015宇宙基本計画「宇宙安全保障の確保」、防衛省の参画
 2022.7 JAXAの極超音速飛行想定スクラムジェット燃焼試験ロケットS-520-RD1
   ←防衛装備庁の委託研究が糸川宇宙研直系のロケットに
・宇宙ビジネスバブル?
 米2022.4-6でスタートアップ投資が前年同期比-22%
・独自の有人宇宙船
・宇宙利用=COPUOSでの議論。持続可能な利用、デブリ、資源探査・利用

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2023年01月09日 13:46に投稿されたエントリーのページです。

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