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神は数学者か?

■マリオ・リヴィオ(千葉敏生訳)『神は数学者か?―数学の不可思議な歴史』早川書房, 2017年.

数学が自然や宇宙をどうしてこんなにうまく説明できるのか?という「数学の不条理な有効性」問題(ユージン・ウィグナー)について考えた本。大半はピタゴラスからひも理論まで駆け抜ける数学、物理学の歴史で、最後の章が問いに対する応答になってます。

最近だけでも、ヒッグス粒子あったああああとか、重力波見えたああああとか、何十年、百年も前に理論的に予言されたものの存在が、実験や観察によって確かめられるということが相次いでありました。古くは惑星の軌道が計算によって非常に正確に予測できたり、ひもの結び目について構築された理論がDNAの分子構造にも適用できたりと、数学の不思議な予測性、発見性には枚挙に暇がありません。ひょっとして神は数学者で、それに基づいて宇宙を創造したのでしょうか。違うというなら、人間には自らが発明した数学を通して見られるように世界を見ているだけなのでしょうか。

※↓何かあったら読み返す用メモなので粗いです。

・宇宙が数学に支配されていると考えたのがピタゴラス学派。音楽、宇宙、そして「対(つい)」。数は道具ではなく、発見されるべき実体だった
・プラトンにとっては、数学的対象の世界は、五感で認識できる「仮の世界」とは独立した永劫普遍の世界、数学を使って「発見」すべき世界である。現代に至る「プラトン主義」の源流となる考え方だ
・アルキメデスはそうしたイデアと、現実ここにある図形や立体との関係を追究し、新たな定理や問題を見いだしていった。微積分の発想も既に取り入れている

・近代、宇宙の言語=数学と思考実験を手がかりに「経験では明らかにならない現象の原因」を探究したのがガリレオ。望遠鏡を自作し、それを宇宙に向けた。木星は衛星を持ち、金星は太陽の周りを回っていた。黒点を観察していたら太陽も自転しており、天の川は無数の星の集まりだということ、太陽系外に恒星があることも分かってしまった。聖書(の解釈を独占する教会)との矛盾

・さらにデカルトは宇宙だけでなく、人間の知識一般が数学の論理に従っていると考えた。一組の数値を使って、平面上の点の位置を明確に示すことができる解析幾何学が始まる。代数と幾何の共通言語の発見。関数は法則へとつながった
・そしてニュートンは重力の理論に辿り着いてしまう。抽象的な数学分野が、物理的な現象の説明の鍵であることが認識された時代だった

・では、社会や経済、生物は数学で記述できるか?――相互関係があまりに複雑なものに対するアプローチとして統計(過去)と確率(未来)が生まれる。グラントの死亡表研究、ケトレーによる正規分布の発見、ピアソンの相関係数。確率はギャンブルから遺伝学にまで取り入れられた

・事件は19世紀に起きる。ロバチェフスキーらによる非ユークリッド幾何学の構築。ガウスもそこに辿り着いていた。リーマンは直感的に想像可能な3を超える次元の幾何学の端緒を開く。公理が違えば別の幾何学が成立してしまう。数学は人間の心が発明したものなのではないか?

・20世紀、ラッセルは数学を論理に還元する。ド・モルガン、フレーゲ、ブールから記号論理学へ。ゲーデルは形式体系が不完全か矛盾していることを示した
・それにしても、数学の言語で表現された不完全な形式体系のゲームで、なぜ宇宙はこんなに説明できるのだろう

・最後の第9章が、その問題と正面から向き合う
・数に関する認知は人間の脳に備わっている、その前提が人間に数学で認知できる世界を数学的に描写させている(そういう眼鏡をかけているからそう見える)のかもしれない
・問題を切り分ければ、素数などの「概念」を発明し、素数に関する「定理」を発見する、という営みなだけなのかもしれない
・数学の発展とともに、宇宙を説明するのに適切な道具が生き残ってきているのだという進化的な説明もできそうだ
・あるいは、単に数学で説明しがたいものを見てないだけ、なのかもしれない
・いや、対象ごとに使いやすいツールを発明してきた、というのが本当ではないか
・結局、分からない。しかし絶対の保証がないところで探究を続ける、そういうもんではないか

非ユークリッド幾何学は確かに衝撃なのでしょうけど、それは従来の幾何学を倒したのではなく包摂しただけで、むしろ数学の一般性を高めたのではないかしらと思うのですが。読み物としてはエピソードいっぱいでとても面白かったです。

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2018年02月10日 22:39に投稿されたエントリーのページです。

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