■入江敦彦『イケズの構造』新潮社、2009年。
ロンドン在住で、今般来日していた著者のお話を直接聞ける機会がありまして、その予習のため購入。
これまでイケズが何であるかをよく知らないまま京都出身の友人を揶揄していたのですが、ようやく姿が見えてまいりました。
比較的閉じており、かつ「よそさん」の侵入がしばしば起こる社会で習得され伝承される、言葉の裏読みゲーム。
「コーヒー飲まはりますか」
「そない急かんでもコーヒーなと一杯あがっておいきやす」
「喉渇きましたなあ。コーヒーでもどないです」
「コーヒーでよろしか」
の4種類のオファー(に見えるもの)のうち、本当にコーヒーを飲んでもいいのは1つだけだそうです。怖!
おそらくこうしたゲームはルールを共有する者(=仲間)としない者(=侵入者)を峻別し、攻撃的な侵入者にはカウンターを食らわせる機能を持っている。つまり防衛の一形態ということですね。ただし徹頭徹尾、言葉の世界で行われるこのゲームの成立条件は、自分がパンチを食らったことを理解できる程度の言語能力が侵入者の側にあることですが。
と同時に、これは侵入者に対して「教育を受けてメンバーシップを得るチャンス」を開いているのかもしれない。たとえ地元に生まれたとしても、人は京都人として生まれるのではない、イケズの洗礼を経て京都人になるのです、たぶん。「よそさん」にもその点、機会は平等に開かれているのです、いや、どうかな。
そんな秘儀に触れる(やられる)ため京都に赴く観光客もいるそう。「ご丁寧に扉がついてる城壁」に囲まれた都市の一つの魅力なんでしょうかね。
単行本から文庫、そして電子書籍にもなった(※)本書、著者によると通算15万部(!)売れており、そのうち10万部が京都での実績らしい(笑)。身上書代わりに配るなどの使い方をされているようで。
※ちなみに弊管理人は急いで入手する必要のあった今回、初めてアマゾンで電子書籍を買ってnexus7で読みました。紙の本のようにページを押さえたりめくったりするのに両手を使う必要がないので、電車の中で立って読むのに超便利。ただし液晶でないとちょっと目は疲れるか。
で、本書を読んだ勢いで今は九鬼周造の『「いき」の構造』に手をつけてます。