■森健『ビッグデータ社会の希望と憂鬱』河出文庫、2012年。
筆者が2005年に出した本をアップデート・補筆・改題したもの。
ユーザーの行動を逐一追跡し、数値化し、保存し、データ同士を結びつけ、探知し、予測し、フィードバックする。そうした情報技術の進化は、制度を作る企業や官庁から描けば便利で安全で自由な明るい未来像を結ぶことでしょう。しかし、その裏面にあるのは悪用や誤用だけでなく、善意の使用までもがあいまって成立するユーザーの監視と馴致と不自由というディストピアかもしれない。
さらにややこしいのは、そうした危なっかしいシステムを要請したのは、効率や利便や可視化を望み、ポイントという報酬をもらう見返りに承認しつづけてきたユーザー側だったということ。実際、障害を持った人や中山間地に住む人の生活を改善したりしているのも承知している。電力も情報もそうですが、依存しているものを批判するのはかくも難しい。
オーウェル、フーコー、レッシグなど分析の際に援用する枠組みは他でもお目にかかるものですが、何よりジャーナリストの本領は公式、非公式を問わず膨大に読んで聞いて並べて見せること。それに成功している本だと思います。05年までのITはもう歴史になってしまった(ICタグなんて懐かしい響き、02年サッカーワールドカップのときの顔認証システム導入もほとんど琥珀色の記憶です)。いや去年のことだってちゃんと覚えてなんかいない。でも昔のことを知っていないと構造が分からない、失敗は繰り返すし、予防もできない。
6年前に読んだ大屋本を思い出しながら読了。
■ギンジン(Pf)のラフマニノフ:ピアノ協奏曲1番と4番オリジナル版(ONDINE: ODE977-2)
これ、すごく面白かった。
よく演奏される情感豊かな2、3番と違って、パキパキ進んでさっと終わる1、4番。普段耳にするものは改訂版で、こちらはオリジナル版(世界初録音)とのこと。メロメロロマンチックな味付けがより濃く効いていてこっちのほうが好みという人もいるのでは。