■佐藤勝彦『インフレーション宇宙論』講談社、2010年。
久しぶりの科学読書。
誕生から137億年。いま宇宙が膨張し続けているということは、さかのぼってみれば始まりは密度と温度が無限に高い1点から始まったってことでしょう。でも、こんな点は物理学の範疇を超えてしまうような存在だ(他にもいくつか不都合がある)。そういう神の領域みたいなのを作るのではなく、なんとか徹頭徹尾、物理学の言葉で説明できないかということで出てきたのが、筆者が80年代に提唱したインフレーション理論。いまではいろんな改良が加えられつつ、宇宙の創生を説明するための標準的な理論になっているらしい。
無の状態から、非常に小さい確率ではあったけれど、ものすごく高いエネルギーをぎゅっと詰め込まれた宇宙が「ぽこっ」と生まれる。そのエネルギーは斥力を持っているので、ほどなく急激に膨張する(「ぽこっ」の10のマイナス36乗秒後から指数関数的に膨らむ=インフレーション)とともに、エネルギーがあらかた熱に変換されてアツアツになる。そのあとは膨張とともに冷却が進み、その過程でガスが凝縮して銀河や銀河団が生まれてくるという。
この「無からぽこっと」の部分がなんとも変な感じなのですが、量子論の考えではそういうことがあるっていうんだから、素人は「そうなんだー」というしかない。
そして(筆者は、予測には証拠がないので科学ではないともいえると言いますが)10の100乗年後までには銀河もブラックホールも蒸発してしまい、冷たくて味気ない宇宙になっているのではないかというシナリオさえ出てくる。そうならない可能性もあるみたいだけど。
理論屋の天才がひねった「こうすればいろんなことが無理なく説明できる」という計算結果を、実証屋が職人技で「そうね、それにはこんな証拠があるね」と援護射撃する、物理学の華麗な分業。ここ100年の宇宙(創生)論の発展がサクッと描かれています。カルチャーセンターでしゃべった内容をもとにした、とても平易な文章です。