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2026年02月 アーカイブ

2026年02月04日

権威主義

◆James Loxton, Authoritarianism: A Very Short Introduction, OUP, 2024.

このシリーズはいつもコンパクトでかゆいところに手が届いていいのだけど、本書は特に「何も知らない人」にいきなり地図を授けてくれる本だった。この前に読んだアリストテレスの『政治学』のアップデートであり、いきなり始まった選挙中に読んでいたこともあり、さっさかページが進みました。
民主主義は「選挙で落とせるシステム」、権威主義は「民主主義以外」。かつ全面統制と動員を志向する「全体主義」とは区別される。――この図式を当座手に持って、類型と動態を整理する本文へと出かけるとよさそう。

中国に対する明快な否定的筆致といい、明らかにトランプ政権を権威主義とみている雰囲気といい、ものすごくアメリカの先生って感じの文章で、しかし著者はシドニー大学の人で、アレ?と思ったら学部プリンストン→大学院ハーバードだった。ラテンアメリカの専門家だそうです。

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【1】権威主義とは

▽「権威主義authoritarianism」とは
 ・古代ギリシャからあった「圧政tyranny」と違って、近代の言葉
  OEDによると1856年に初登場。権威主義者を「個人の自由より権威への服従を好む人」とした
 ・1950年代、アドルノの「権威主義パーソナリティ」

▽フアン・リンスの定義=全体主義(ナチ、ソビエト)との対比
 ・アーレントは全体主義と権威主義を「極端な暴力」の二通りの表れとした
  が、全体主義の本質は「公と私の区別をなくすこと」(cf.思想警察)
 ・権威主義の3要素
  (1)制限付きの多元主義。一定の批判も許容する。フランコ期のカトリック教会など
    *全体主義は政党からスポーツ団体、合唱団まで全面統制する
    *民主主義はほぼ全面的な結社の自由
  (2)動員しないdemobilization。市民には黙って私生活に傾注してほしい
    *全体主義は市民の参加、投票を強く要請する
  (3)イデオロギーの欠如
    *全体主義はユートピア主義。価値観の共有と社会改良を志向する
     (『わが闘争』の配布など。対してフランコの演説は誰も読んだことがない)
 ・非民主主義政体regimeの類型
  ・伝統traditional
  ・独裁sultanistic
  ・ポスト全体主義(既に公式イデオロギーが信じられていない状態)

▽今日の権威主義
 ・「民主主義以外」を広く名指す用語
 ・ミラン・スヴォリクによる定義:指導者が自由公正な選挙で選ばれていないこと
 ・今日の権威主義理解を形成した3要素
  (1)全体主義国家の減少(現存は北朝鮮のみ)
  (2)民主主義国家の増加(「第三の波」、1990年代後半にようやく過半数)
  (3)共産主義イデオロギーの衰退

▽民主主義国家・権威主義国家をどうやって識別するか
 ・自分の国や党の名前に「民主主義」を付ける国は権威主義
 ・民主主義は、普通選挙権/自由公正な選挙/市民権の擁護―が特徴
  いずれかが欠けると権威主義(民主主義の手続き的最低条件)
  =政府を自分たちで選び、説明責任を果たさせることができるかどうか
 ・ロバート・ダールによる民主主義の2側面
  (1)公に議論ができるpublic contestation=無能な統治者をクビにできる
  (2)包摂性inclusion=すべての成人が(1)の権利を持つ
  *中国は両方バツ
   アパルトヘイトの南アは(2)が欠如
   選挙の際に対立候補を投獄したニカラグアは(1)がない
   シンガポールは(1)を制限

【2】権威主義のバリエーション

▽軍政の特徴
 ・クーデターにより権力を掌握する
  近年減少したが2014年タイでは発生。このときは無血。13年エジプトは流血
 ・個人ではなく軍という集団による統治(軍事政権・評議会juntaの形成)
  →体制内クーデターによりトップをすげ替えることもある
  例:陸海空軍が均衡によって統治したアルゼンチン

▽一党独裁
 ←→アダム・プシェヴォルスキ「民主主義とは政党が選挙で負けるシステムである」
 ・一党独裁では選挙に負けない
 ・厳格なバージョンでは政党が1個しかない(共産主義。中国、ベトナム、キューバ)
 ・緩いバージョンでは覇権政党のほかに勝てない野党がある(メキシコのPRI)
 *軍政や個人独裁にも政党はあるが形式的。一党独裁は実際に党が権力を持つ

▽個人独裁
 ・ルイ14世「朕は国家」、ドミニカ
 ・軍事クーデターから生まれるパターン(DRCのモブツ)
 ・選挙で選ばれたリーダーがなるパターン(マルコス)
 ・家族独裁(家族間での継承)になることも(ハイチ、ニカラグア)

*その他
 ・宗教指導者が最高権力を握るイラン

▽新しい権威主義
 スティーブン・レヴィツキーとルカン・ウェイの「競争的権威主義」
 ・完全に公正ではないが、与党が負ける可能性もある複数政党選挙が実施される
  違法な3期目を勤めちゃったフジモリのペルーなど
  1990-2019年、15%ほどの国がこの類型。サブサハラ、旧共産圏
 ・競争的権威主義ができる道筋は変わってきている
  1990年代、一党独裁の国家が西側からの民主化圧力を受けて変貌するパターンが多かった
  ★しかし今日は逆に、民主主義国家が闇落ちしてくるパターンがみられている
  ←「エリートの腐敗」に対抗する「大衆の味方」ポピュリストが権力を握るとこうなる
  裁判所に味方を送り込み、メディアを黙らせ、反対者狩りをする
  フジモリはこの先駆け。チャベス、エルドアン、オルバンが最近の例。モディも
 ・競争的権威主義は民主主義を自称する
 ・民主主義と権威主義の境界がぼやけたのか、権威主義の枠内なのかははっきりしていない

【3】権威主義の誕生

・権威主義が権威主義を生むパターン eg.ロシア帝国→共産主義体制
・民主主義が崩壊して権威主義が生まれるパターン
 (1)軍事クーデターcoup eg.チリ1970・アジェンデ→ピノチェト
 (2)選挙で選ばれたリーダーによる自主クーデターself-coup eg.ナチ
   反対派やメディアの抑圧など徐々に進む場合もある

▽民主主義の崩壊
 ・リンス(1978)の理論
   cf.体制内反対派loyal opposition 民主主義支持の上での政府批判
 (1)反体制反対派disloyal opposition 政府も民主主義も否定
   テロ、ゲリラ eg.ナチSA、西ドイツのドイツ赤軍派RAF
   急進政党 eg.ナチ(人気)、英ファシスト党(不人気)
 (2)半体制反対派semi-loyal opposition 消極的、日和見
   eg.ナチと協働しつつ制御しようとした政治勢力
 ・識別する視点 Levitsky & Ziblatt
  ・disloyal opposition
   民主的なルールの否定(勝てない選挙や相手の正当性を認めないなど)
   民主的価値観(言論の自由など)の否定
  ・semi-loyal opposition
   党利を民主主義の上に置く
 ・これらの出現を許す条件:経済危機、民族的分断、偏見…
  「感情的分極化」による反対者の「敵」化。信条、アイデンティティ
   その中核には「恐怖」がある。ロシア革命→共産化の恐怖→ナチ
  
▽教訓
 ・disloyal oppositionを真剣に捉えること。具体的には:
  (1)禁止。しかし反民主主義の禁止自体が反民主的という難点あり
  (2)反民主勢力と協働しない。ただ「被害者面」で伸張するリスクあり
 ・semi-loyal oppositionが抱いている問題意識を無視しないこと
  ・彼らは民主主義を「平和や秩序をもたらすもの」として道具的に支持
   →この信憑が揺らぐと権威主義を支持し始める
   →政府にできる対策は、民主主義が現に機能するよう尽力すること

【4】権威主義体制の課題

・権威主義体制の研究は難しい
  情報がない・当てにならない、インフォーマルな制度が多い

▽統治の正統性。民主主義ならシンプルに「選挙で選ばれた」だが…
 ・権威主義は抑圧で統治する。秘密警察に依存しすぎると敵に転化しうる
  大規模抑圧による統治はコストがかかり、ロジも大変
 ・反君主制/反共産主義/反神権政治、という否定的正統性(ハンチントン)
  →成功するほど正統性の強度が下がるという逆説
 ・人民の関心に資するという「パフォーマンス」正統性
  →台湾、韓国の経済成長(権威主義体制が経済をうまく管理したまれな例)
   うまくやっても経済危機で崩壊する。eg.インドネシアvsアジア経済危機
  →ナショナリズム(great again!)に訴えるのもリスキー
   フォークランド紛争を起こして譲歩した途端に崩壊したアルゼンチン

▽情報。世論をどう的確に把握するか。民主主義は世調やればいいが…
 ・権威主義では「体制に睨まれないよう嘘をつくインセンティブ」が生じる
  →権威主義は実態より安定しているように見えてしまう
  →予想外イベントにより統治の脆弱さが露見すると危機に陥る
  eg.ロシアのウクライナ侵攻。官の嘘インセンティブによる情勢読み違い
 ・対策①競争的選挙をやること。ただし負けのリスクもつきまとう
    ②目安箱で危機の種を発見すること。冷戦期ブルガリアなど

▽フレネミーの問題。体制の一体性をどう維持するか
 ・分裂原因は
  イデオロギー(市場経済か計画経済か)
  野心(グループ間の競合)
  統治姿勢(暴力か、検閲の緩和などある程度の妥協か)
 ・民主主義にもある問題。サッチャー失脚、ヒラリーvsサンダースなど
 ・失脚の恐怖から政府内部へのテロに走ることも。eg.『1984年』
 ・対策:政党。権力を得るには政権政党のメンバーシップが必須
  →各人が長期的利益を追求し、権力基盤としての党は安定する
 ・軍政や個人独裁より、一党独裁のほうが長持ちする(Barbara Geddes)
  1946-1998で、軍政は平均9年、個人独裁15年、一党独裁23年
  ただし中共やPRI、ソビエトのように長持ちするのは少数

▽権力継承の問題。民主主義は手続きがあらかじめ決まっているが…
 ・権威主義では権力者の死が体制転換のトリガーになりうる eg.フランコ
 ・体制転換しなくても粛正のトリガーに eg.スターリン、毛沢東
 ・対策①問題の先送り(による独裁者の長期政権化)。eg.カストロ
    ②家族間継承で権力闘争の発生防止。eg.蒋介石、リー・クアンユー
    ③事実上の制度化(例外的)。eg.PRI。一党独裁下の選挙→後継指名

【5】権威主義体制の死

・近代化論。経済発展→民主主義(リプセット1959)
 経済発展が①教育水準の向上②中間層の成長③市民社会(労働組合など)の形成―を引き起こす
 ←→産油国という例外。インドなど貧しい民主主義国もある
・戦争での敗北
・経済危機 eg.1980年代のラテンアメリカ債務危機

▽国際環境の変化
 ・WWII後のシフト~「第三の波」
 ・1962-1965 バチカンIIによるカトリック教会の転換
   →ブラジル、チリ、フィリピンで反権威主義の主役に
    特にポーランド民主化におけるヨハネ・パウロ2世と「連帯」
 ・米国、反共・国益から人権の主流化へ、反アジェンデから反ピノチェトへ
 ・ソ連のブレジネフ・ドクトリン(ハンガリー、チェコスロバキア干渉)廃棄
  →ペレストロイカ
  →アパルトヘイト崩壊の遠因にも

▽リーダーシップの変化
 ・民主化に伴うリーダーの追放、殺害リスク(ダール「寛容のコスト」)低減
  eg.マンデラの融和姿勢
 ・多くのステークホルダーが参加してつくる民主化合意

・権威主義の死は「多面的」で「確率的」
・市民の力、アクティビズム eg.フィリピン

【6】権威主義はなぜ耐久性があるのか

・文化や価値観による説明は弱い。アジア的価値観で中国を説明しようとすると、民主化した韓国や台湾(しかも台湾の大半は中国系)との齟齬が生じる。イスラムと民主主義の食い合わせの悪さも同様で、MENAには当てはまるかもしれないが人口最大のインドネシアに当てはまるかという話。さらに「アラブの春」もある
・そこで以下3要素

▽天然資源の呪いresource curse
・産油国petrostatesは生活水準が高い。カタールなど
・近代化説では民主的になるはず
・だがRoss(2001)は「石油は権威主義を促進する」と提唱
 ・産油国は税負担が軽く高福祉。国民の支持を得やすい
 ・財源が豊かなので軍事・警察にカネを使って反対者を抑圧しやすい
 ・社会構造変化を伴う工業化を経ずに裕福になると教育や市民社会が発達しない
 eg.1932年から絶対王制のサウジ

▽革命を起源としていること
・ロシア、中国、キューバ(共産主義)イラン(イスラム)メキシコ(民族主義)と類型多様
・なぜ革命起源の権威主義は強いのか:Levitsky&Way(2022)の説明
 ・革命の段階で反対勢力(地主、教会、王族)を殲滅している
 ・革命政府の一体性が強い(フレネミーによる分裂リスクが低い)
  ←権力者が革命のヒーローで正統性がある/寝返ろうにも敵との距離が遠い
 ・もともと暴力に基づいた統治機構。秘密警察や軍が強い
  →クーデターが起きにくい/市民の反乱を武力鎮圧するハードルが低い
 eg.毛沢東

▽権威主義国同士の国際協調authoritarian international
・黒騎士:相対的に強い権威主義国によるサポート。中国―北朝鮮、露―ベラルーシ
・相互扶助:中―露
・他山の石:ソ連崩壊から学ぶ中共、カラー革命を教訓とするプーチン

▽ただし、権威主義の維持は大変でもある
・産油国:エネルギーのクリーン化、資源の枯渇
・革命:記憶の風化
・経済の好調さ:失われうる
→これらの不調が権威主義国間の国際協調を揺るがす可能性も

【7】権威主義のレガシー

・アルゼンチン、スペインなど民主化した国に刻まれる権威主義の後遺症

▽憲法
・民主主義の「先天異常」Terry Lynn Karl
 権威主義時代に書かれたものが残っているケース
 追放される政府が交渉で権威主義的要素を残すケース
 権威主義政府の影響力が残っているケース
・Albertus&Menaldo(2018)による1800-2006年の民主化ケース調査
 3分の2が旧体制の憲法を引き継いでいるholdover constitutiouns。韓国など
 こうした憲法は有権者の力を抑制する内容が多い eg.チリ
 →チリはその後、国民投票(1988)で緩和に成功

▽政党
・権威主義体制からの「残党」が再び勢力を伸ばすケース
 eg.ポーランド。「連帯」の勝利→1993年に共産党返り咲き
  同様の先祖返りはガーナ、メキシコ、台湾でも
・権威主義時代の人たちが作った「後継政党」が伸びるケース
 eg.スペイン。フランコ体制のインサイダーが政党を2つ設立
  →ハードライナーの国民党(PP)が選挙で勝ったりしている
 ★こうしたケースは世界的に多数みられる。eg.東欧、アラブの春…

▽選挙操作ではなく、実際に支持を得て勝っている
・Grzymala-Busseによる「過去の遺産usable past」説
 ・民主化への移行に伴う不安
 ・実際に経済成長した実績 eg.中国国民党(KMT)、朴正煕→朴槿恵
 ・ノスタルジー eg.メキシコPRI、ボンボン・マルコス、ボリビア
  ←民主化で社会がよくなってないという感覚(経済、薬物等)

▽レガシーのジレンマ
・民主化は一方通行ではない。後戻りすることがある
 特に旧体制が冷遇されていると感じたとき eg.ピノチェト
・憲法レガシー:ポピュリストが民衆の代表を僭称して書かせるケース
 eg.チャベス
・権威主義を引きずった政党を禁止するのは悪手。協調しないこと

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