なにやらえらい熱波がきており、DC界隈は37度。家にこもる日と決めて、だいぶ前に読み終わってたもののメモをコンプ。
◆デボラ・キャメロン(向井和美訳)『はじめてのフェミニズム』筑摩書房、2023年。
Deborah CameronのFeminism: Ideas in Profile (2018)の訳です。
ちくまプリマー新書なんですけど、一枚岩でない対象や歴史を「フェミニズム」という一つの言葉でくくったことに由来する面倒くさい感じ(本書の言葉では「複雑さ」。典型的には従来型の行動批判→「女性の自主性を否定している」という批判→「それは自由な選択ではない」という再々批判)を活かしながら要約したとてもいい本だと思いました。
【はじめに】
・意味は:「女性は人であるという理念」、「性差別・性差別的な搾取と抑圧を終わらせる政治運動」、「分析枠組」のいずれかか組み合わせ(pp.9-10)
・二つの基本的理念「女性は社会において従属的な立場にあり、不正義や制度的な不利益にさらされている」「それは望ましいものでっはなく、変えられるし変えるべき」(p.19)
・「第1波」19世紀半ば~女性参政権運動:(1)男性との類似点を強調する議論(2)男性には解決できない女性独自の問題があると強調する議論。米国黒人女性による支持は人種平等につながることを期待。逆に白人女性の参政権獲得で白人の優位性が高まると考えた南部の人種差別主義者と白人女性の結託も(p.12)→1920年代に目的達成すると団結から分裂へ
・「第2波」1960年代米国発:第1波とのつながり強調
・「第3波」1990年代
・「第4波」この10年ほど
・「波」で表すことへの批判もあり。「一般化しすぎ」「前の時代の動きはまだ続いている」
・インターセクショナリティ(クレンショー):人種、民族性、セクシュアリティ、階級…
【支配】
・「構造的な男性優位性」=男性が利益を得る仕組み。※個別の男性のことではない
・進化論を利用した生物学的決定論 vs. 家父長制の起源探究。eg.エンゲルス『家族・私有財産・国家の起源』、母権制社会、狩猟採集社会。現代社会では緊縮財政による公共サービス削減と女性による無償の介護労働の拡大、性的解放(夫のものから社会のものへ)とレイプ文化やセクハラ
・性の自己決定:Roe v. Wade (1973)、英国での中絶処罰対象からの削除(1967)→現在のバックラッシュ。宗教的原理主義、男性の権利主張、オルタナ右翼。途上国でもボコ・ハラムなど
・女性自身の加担・受容:男性との絆、従属的立場の刷り込み(pp.46-47)
【権利】
・独立宣言のall men=白人男性←第1波フェミニズム、女性の権利運動としての理解
vs. 根本変革を志向するラディカル・フェミニストの批判。投票権返上(1969)
vs. グローバルサウスの視点。権利は要求すべき(レイシー)
・収入格差、議会構成、生殖(子どもを持つ選択をした人の権利?胎児の権利・父親の権利との競合)、「私的空間」とされながらDVの現場でもある家庭の保護との齟齬、女性の権利に関する国際条約と「よその文化の押しつけ」論、ジェンダーの主流化
・商業的代理出産:個人の生殖の権利擁護 vs. グローバルサウスの女性の搾取 vs. 金銭を得る権利・女性の主体性の否定批判 vs. 本当に権利の問題か?貧しくなくても選ぶだろうか?
・ニカブ禁止:ムスリム差別?女性の主体的な選択の否定(西側に救われるべき女性) vs, 「私たちは何も選択してこなかったと決めつけるのか?」 vs. 有害な慣習を押しつけられるべきでないというムスリム女性の声
←マイノリティの文化的慣習批判 vs. 人種差別批判 vs. コミュニティ内部の批判者擁護
・宗教裁判所(不変な神の立法) vs. 民主制下の裁判所
【仕事】
・無償ケア労働、ケアワーク時間の男女格差(OECD)→女性労働力の活用不十分→途上国にとっての不利。有償サービスのある先進国でもケアワーク分配は依然不均衡
・「ガラスの天井」はぜいたくな悩みとの批判←→世帯主男性という受益者の無視、「稼ぎ手」=男性という構造の無視
・家庭内資源の適正分配で女性死亡率の是正ができるようになるには、女性が有給職に就くことが必要(セン)
・高給で安定した製造業(の喪失とトランプの台頭)=男性、低賃金で不安定なサービス業=女性
←→男性の稼ぎに依存できない独身/パートナー男性失業中の女性は貧困に陥る
・賃金格差(1)女性がしているからという理由で低賃金になる構造(2)子どもが小さい間のパートタイムや時短労働がキャリアに与える影響(ジェンダーステレオタイプが背景)
・国が家事労働に賃金を支払うべき←→性別役割分担の保存。ケアワークの脱女性化
・女性と仕事の問題は制度だけでなく個別男女間の摩擦も引き起こす。誰が誰に権力を行使しているのか。「個人的なことは政治的なこと」。女性が自分より稼ぐことは男性の権威への脅威に
【女らしさ】
・本質主義:生物学的機能、生殖機能に基づいた普遍的な性質の想定
+ボーヴォワール:社会的カテゴリーとしての女性(女に生まれる/なる)。ジェンダー。マーガレット・ミード
・規範は生物学的に説明できないことが多い(eg.足を開いて座ってはいけない)。飴と鞭による強制
・ジェンダーは男性にも窮屈だが、完全に対称ではない。背景として男性優位の構造
・ジェンダーの廃止か/今の苦痛を何とかするか
・服装や色など好みの「生まれつき」論への批判(1960年代)→進化生物学によるリバイバル←→先史時代にしか当てはまらない説明との批判
・親の思い込みや文化的背景から生まれた時から男女は違う扱いを受けて学習していくという心理学的観察。1970年代からは男女別玩具販売反対のキャンペーン、アニメの「女性の美しさ」描写、美人コンテスト、1990年代の摂食障害増加
←→「女性の自律性否定」という批判
←→「女性の選択は社会からのプレッシャーを受けている/内面化している/人生の早期から自由な選択はできていない」との再批判。美容業界の宣伝効果、白い肌>黒い肌
【セックス】
・男女間BDSMに対する「オーガズム支持」vs「男性の暴力と抑圧」
セックスは「快楽」か「危険」かという立場の違いがフェミニストを二分する
・第1波:女性への危害回避・男の中の野獣矯正
第2波:カウンターカルチャーの流れの中で自由なセックス肯定。自主性・自我を持つ権利の象徴
←→セックスは男性が快楽を得るもの
→性教育:身体構造の違いやリスク+快楽についての議論も
・ポルノ文化→レイプ文化(行為拒否を責められる、通報・起訴されない)
・売春:男女の不平等の表出と促進。互いの欲求に基づくセックスという原則の侵犯。ノルウェーモデル(買春の禁止+売る側を処罰対象から外す→需要を減らす)
←→「上から目線」批判。合理的な選択は否定できず、失業キャンペーンは容認できない
←→ドイツなど合法化されてる国でセックスワーカーの社会保障ちゃんとしてなくね
・家庭でも妻は経済的安定の引き替えにセックスと家事を提供してないか
・セックスの拒否というシステム的解決(米・ラディカルフェミニスト)、「レズビアンは女性ではない」
・とまあいろいろあるが「女性は性の自律的な主体であり、誰かの快楽や利益に利用されるものではない」は共通
【文化】
・ダーウィン、ロンブローゾ。文化的に劣った、天才の少ない女性。ヴァージニア・ウルフ:なぜ女性のシェークスピアがいないのか
・文化的排除:映画監督(スザンナ・ホワイト)、科学(マチルダ効果)、作曲コンクール、小説
・見る男性、見られる女性:映画を撮るカメラの視線=観客の視線、人種科学(サラ・バールトマンの見世物)
・介入とバックラッシュ:ゴーストバスターズのリメイク、紙幣の肖像に女性を入れるキャンペーン、テレビゲームの中の性差別指摘。オルタナ右翼「メニニストmeninist」=自分に残されたのは文化的特権だけだという男性への訴求
【断層線と未来】
・ネオナチ、白人至上主義
・第4波:インターセクショナリティ(アフリカ系、トランス、労働者階級)、ジェンダークィア、女性とは何か?→個人が自由に決めるアイデンティティへ→「フェミニズム」と両立するか?
・商品化されたフェミニズム(ディオールの「みんなフェミニストでなくちゃ」Tシャツ)
◆湊雄一郎、酒井麻里子『量子コンピューター』インプレス、2023年。
情報が新しいのと、技術に対する評価(アニーラーがほぼ終わりというのはへぇと思った)や業界の動向が書いてあるのがよい点。
説明がいちいち食い足りないのがいまひとつ。いろんな量子ビットの方式が書いてあるが、それぞれ0と1がどういう状態なのかとか、量子センサーってどういう仕組みなのかとか、量子もつれでなぜ素因数分解が解けるのかとか。「これができます」に対して「どのように」がない。
※と書いたあと、某所からいただいた本のほうがよかったのでそっちをまた別途
・市販の実機Gemini(中国、SpinQ Technology)
・量子コンピューターはQPU(頭脳部分)だけ
・方式
(1)超電導
電子2個、平面に超電導素子(人工原子)、マイクロ波当てて操作、世界で開発(日本は理研と富士通とNEC)、商用化先行、冷却が必要、小型化が困難
(2)イオントラップ
イオン、チップの上にイオンが浮いた状態で静止、横からレーザー当てて操作、欧米、精度が高い・誤り訂正できている、周辺設備で筐体が大型化、誤り訂正量子ビット数が増やしにくい
(3)冷却原子
原子、空中に浮かせて左右からレーザー当てる、欧米、量子ビットの数が多い、周辺設備で筐体が大型化
(4)半導体
電子、電子の上下をチップで挟み上からマイクロ波を当てる、米国(日本では日立)、量産化・商用化に期待、冷却が必要
(5)光
光子、トンネルのようなゲート(通り道)を通す、世界(日本はNTT)、常温動作が可能、周辺設備で筐体が大型化
・古典コンピューター=正答が1つに決まるものに適する。量子コンピューター=答えが定まらないものの計算に適する
・アルゴリズム
(1)FTQC(理想、計算が長くエラーが起きやすい)
化学計算(素材を構成する原子や分子の電子配置を調べて作用を求める、新材料=EVバッテリーの性能向上で走行距離延長、半導体素材)、暗号、金融(複数の株式の最適組み合わせ、倒産リスク計算、価格予測)、検索
(2)NISQ(量子+古典、細切れを足し合わせる、精度上がらない)
化学計算、最適化(多数の自動運転車のルート同時計算して渋滞起こさせない最適ルート)、機械学習(まだ古典のほうが速い)