仕事で扱う中で分かりにくいのがまずアメリカの司法制度、それと議会。
自分の受け持ちのコアの部分ではないのでなんとなくやりすごしていたのですが、いつものシリーズで新しい本が出ていたのでゲットしました。
◆Charles Zelden, The American Judicial System, Oxford University Press, 2022.
【Preface】
◆裁判所
・各州の裁判所
・連邦裁判所
・憲法3条裁判所Article III Court
・議会の立法権力の下にあるlegislative/ Article I court
◆最上級裁判所Supreme Court
・ニューヨーク州ではNY Court of Appealsと呼ぶ
*NY Supreme Courtは州のtrial(第一審・事実審)+appellate-levelを指す
各市・郡の裁判所に優越するものという意
・テキサス州では最上級が2つに分かれている
(1)TX Supreme Court=民事
(2)TX Court of Criminal Appeals=刑事
・フロリダ州では第一審をcircuit、上訴審をdistrictと呼ぶ
・連邦のほかアーカンソー、ルイジアナなどでは第一審はdistrict、第二審はcircuit
・多くの場合第二審はcircuit, district,あるいは単にappeals court
【1 アメリカの司法システム】
◆カテゴリー
(1)第一審・限定型 trial courts of limited or specific jurisdiction
・法によって役割や管轄地域が限定されたもの。43州で導入
・典型的には交通、少額訴訟、自治体、judicial bureaus, justice of peace courts
・裁判官出席の法廷を開かなかったり、同時に複数の案件を処理したりする
・例)交通違反の罪状認否。被告は出廷せず、期限までに郵送で罰金を支払うなど
無罪主張の場合、arresting officerが出廷しないで無罪確定もよくある
争いになっても単独審で1日何十件も処理する。迅速・効率重視
・連邦では破産裁判所、保釈や初公判を扱う治安判事magistrate courtsが相当
どちらも連邦地裁の一部
(2)第一審・一般型 trial courts of general jurisdiction
・多くの人が想像する第一審。事実関係の審理が中心。上にいくと法適用の話に
・呼称はdistrict, circuitが多いが、superior courts, courts of common pleasも
・デラウェア、ミシシッピ、ニュージャージー、テネシーは2つに分けている
(1)law=財産、契約関係。結果はお金関係の解決
(2)equity=行為の強制や禁止に帰結する話を扱う
・他の46州と連邦は上記を統合
・多くの州は民事と刑事の裁判所を分離。判事の資格が分かれているため
・連邦はどちらも見る
・公判を開かず、書類を見るケースが多い
→default/summery judgment, judgment on the pleadings
・公判前に決着するケースも多い
・第一審・限定型からの上訴も扱うが、一審のレビューではなく一からやる
(3)第二審 intermediate appellate courts
・一審で負けた側が持ち込める
・第一審が正しく法を適用したか、裁判記録を見て審理する
・ランダムに選ばれた3人の判事がそれぞれの事件を担当
・大半は一審支持。判断が出るまでに和解に至ることも多い
・7割は二審で終わる(その上に最高裁がない州も含む)
・人口や訴訟件数の少ない10州では、上級審が1つしかない(第二審で終わり)
(4)最高裁 appellate courts of last resort
・どの事件を審理するか決める権限あり
・個別法や憲法上の重大問題を選ぶので、重要な政治的な意思決定の役割も担う
(5)上記のヒエラルキーに含まれない高度専門型
・州レベルでは家族法、少年、検認(遺言)、薬物
・量をさばくより専門的な援助を目的とする
→薬物使用者への支援や遺言のない場合の遺産分配など
・連邦レベルではArticle I裁判所, legislative courts
・政府機関や軍関係、移民、特許、税など専門的な事件を扱う
←→Article III=地裁、高裁、最高裁
・DCのThe Courts of the Judicial SystemもArticle Iに含まれる
◆原則
・予め決められた取り扱い範囲で判断すること
・その州の住民について判断すること=ネット売買などの場合判断が難しい
◆連邦裁判所の受け持ち:
・federal question=憲法、連邦法、批准している条約に関する訴訟
・diversity jurisdiction=州や国境をまたいだ訴訟、$75000超
・original jurisdiction=憲法や連邦法を問うもの
・removal jurisdiction(特殊)=被告が州ではなく連邦裁でやるべきとした主張を扱う
・criminal jurisdiction=連邦法関連犯罪や、被害者に憲法上の保護を必要とする犯罪
*従来限定的だったが、守備範囲は近年拡大してきている
◆連邦制と連邦/州の重複
・連邦法と州法は完全にはかぶっていないのであまり重複が起こらない
・重複が起きると両者の間で調整される(同じことを2カ所でやるほどの資源がない)
・調整失敗すると合衆国憲法4条で連邦裁判所が優越する
【2 役割と機能】
◆一審で事実関係の吟味と法の適用。同じ事実には同じ結論を出すことstare decisis
しかし判事によってどの判例を考慮するかが違うことがある
→二審の出番。「一審の法適用に関する誤り訂正機能」で通常は事実認定はやらない
証拠集めが不十分、解釈が違う、手続きがおかしい、などの場合は差し戻し
*新事実が出てきた場合は二審でやることもある
あいまいなルールを明確化して一般に示す機能もある
過去の判例が現在の社会・文化的状況に合わない場合は覆すこともある
例)覚醒剤の「販売目的」を意図ではなく量で認定してよいとしたUS v Collazo(2020)
判例の修正は通常、小幅だが、それで済まない場合もある
各地の二審で違う判断が出ることもある
→最高裁の出番。現行法の枠内で判例の意味や射程を決める
明らかに重要な案件を選べる。連邦最高裁で年80件、州最高裁で年110件ほど
政策決定機能を持っているともいえ、米国の統治システムの中で重要な位置
どの社会・文化的状況を憲法ほかの法律の解釈に組み入れるべきか決定する
◆なぜ裁判所に今のような役割が与えられているか
もともとは英国のコモンローの伝統を引きずっていた
→1880年代に裁判所ではなく州・連邦政府が監督や法執行の仕事をするようになった
→裁判所から行政的な「出張っていく」機能が切り離され、受動的役割が残った
通常はルール作りもせず、法的強制力を伴った制度監督もスピード感を失った
→これを代行するように3権を併せ持ったような機関がつくられた
例)テキサス鉄道委員会、連邦州間商業委員会など
→ヒアリング、ルール創造、執行までやる
→ニューディール時代には官僚組織による経済・社会の統制が上記をしのいでいった
→国家労働関係会議が扱う労使紛争、連邦通信委による電波・通信インフラの問題などがうまく決着しなかった場合は法的解決に持ち込まれる
行政の行為や規制が問題になる場合は高裁(だめなら最高裁)へ
【3 権限と動機】
【4 ひと】
◆裁判官
・個人の属性が仕事内容に影響する側面に注意
・Article III federal courtsの連邦裁判官は上院の助言と同意に基づき大統領が任命。罷免は国家反逆、贈収賄ほか著しい不品行による下院の弾劾か、上院の2/3の投票でしかできない。実質終身で、政治の影響を受けないでいることができる仕組み。ただし任命までは政治的で、資格要件はないものの名声・人望のある法律家であることが求められる。また90%が大統領と同じ政党の党員。あからさまにやってはいけないが、なりたいというアピールも必要。大統領は2期で終わりだが裁判官は30年以上やることがあり、大統領が最も長期に影響を残せる分野でもある
・Article I judgeは話が別。上院の助言や同意は必要なく、試験などの能力主義的選抜で選ばれ、決まった任期があり、伝統的には15年。政治性が薄い。法的行為に関して責任を問われず、政府機関職員の干渉はできない。Administrative Procedure Act 1946に基づく「相当の理由」がないと罷免されない
・州裁判官のなり方はいろいろ。議会や知事による任命、選挙、試験、知事などによる初期選抜がある場合もある。州により方法は違うが、一審裁判所は選挙、控訴裁判所は任命制が多い。継続のための選挙があったりする。しかも制度どおりに運用されてないこともある(イリノイなど、p.53)
・ほとんどは終身制ではなく任期制だが、再選されたり再任命されたりして続けることもできる。ある時点で選挙が避けられないので政治からも自由ではないし、選挙費用の出元や選挙民の政治的傾向にも左右される。特に一審裁判所は任期が短く選挙が多いのでこの傾向が強い
・裁判官は有名な法学部の出身者が多く、歴史的に財力のある家の出身の白人男性が多かった。女性は州裁判所で30-40%まできた。マイノリティは20%まできたが大きく下回る州も多い。バイデンとオバマだけが女性>男性。法律事務所や検察官事務所、下級審裁判所から上がってくるなど、いずれかの法律職として成功した人
・originalism(法律の字義通りにストライクとボールを判断する)、instrumentalism(ストライクとボールは判断するが、ストライクゾーンは人によって違うし時代によっても変化するとの考え方)
◆弁護士
・訴訟当事者と裁判所の橋渡しをする潤滑油役
・transactional lawyersはクライアントを裁判所まで行かせないのも重要な任務。2006年の研究では、1/3の時間を裁判所や訴訟相手が法的にどう対応するかをアドバイスするなどのコンサルティングにかけている。残りはクライアントに代わって交渉しているか、契約などの法的文書を作っている。法廷までいってしまうのはある意味アドバイスに失敗したことにある。こういう仕事がないと司法システムが需要過多になって崩壊する
・litigatorsは法廷に行く人。刑事被告人の弁護など。コンサルもやるが法廷行きの回避ではなく、いかにして勝利を最大化するかを考える。そのための調査もする。法廷に行くと時間もコストもかかり、結果も見通せないので示談や司法取引plea bargainをする。犯罪の90%では司法取引が行われる。フルの裁判を全ての事件でやることは不可能
・法曹資格があるのは米国dえ133万人、そこへ毎年3万~3.5万が新規参入。日本は350-400人。米国が異様に多いのは、他国ではtransactional lawyersがやる仕事を非法律職がやっているのが一因
・ロースクールの格がステータスを決めている
◆陪審員
・一般市民が最もアクティブに関わるのがこの役割
・管区から無作為抽出され、一般的には6-12人で構成。訴訟の中でどの事実に重点を置くかを判断する
・候補者を除外できる場合は2つあり、(1)当該案件についてもともと知識や意見がある人で、選出過程で両当事者の弁護士が質問し、回答に基づいて異議を言うことができる。除外理由(2)は理由を示さず除外ができる。ただし性別や人種、宗教構成を操作するためであってはいけない。弁護士が使える回数は決まっており、使い果たしたらその後はすべて受け入れなければならない
・まず座って聞くだけ。すべての情報をふまえて裁判官に促されると、どの証人の言うことを聞くべきか、どの文書を採用すべきか、どの事実に法を適用すべきかを判断する。民事ならどちらの主張がより説得的か、刑事なら犯罪が合理的な疑いを容れない程度に立証されたかどうか
◆訴訟当事者
・訴訟の主役ではあるが、やることは弁護士を雇って協働すること、司法取引が提示された際に受けるかどうかを決めるくらい
◆目撃者、犯罪被害者、一般市民
【5 プロセス】
一般市民がアメリカの司法制度に捕まるパターンは4つ
(1)陪審員として
(2)犯罪被害者として
(3)民事訴訟の当事者として
・最初に弁護士と相談する時は無料のことが多い。弁護士はそれによって客を見つける。持ち込まれた案件が訴訟に価すると判断されなければそこで終わりで、弁護士は守秘以外の義務を負わず、相談者も支払い義務を負わない(契約関係などの案件で最初から料金が発生することはある)
・支払いはかかった時間などに対する一定額の支払いを取り決める場合と、訴訟にかかった費用は弁護士が負担し、成功報酬contingency feeを受け取る場合がある(損害賠償の場合は多くがこちらで、最高で勝ち取った補償の40%とされていることが多い)
・最初はDiscovery=互いが持っている情報の確認。隠し球は許されない。次に裁判所は法廷に持ち込まれる前に決着を模索するよう求める。第三者を介在させたり、単に当事者に促すだけだったり。失敗すると法廷へ。
(4)刑事被告人として
【6 政治と政策】