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海と徳

夏休みには読み終わっていたやつ2冊。

■石牟礼道子『新装版 苦海浄土』講談社、2004年。

今頃読んどんのかい、と自分でも思うんですが。
あまりに体臭と潮と陽光が匂い、言葉になった饒舌とならなかった饒舌に満ちていて、レコーダーを回したわけではないだろうに、すごいメモ魔なのか記憶力なのか、と思いながら最後まで読んでみたら解説で種明かしがしてあってのけぞった。そしてこの本が第1部で、まだ2と3があることにものけぞった。

ちょっとでも時間があれば手にとってページをめくってしまう読書は久しぶり。天と人のあわいに立ち、両方を溶かし合わせたような本で、書かれていることは激烈なのだけど、しかし何年か前に車で通り過ぎた美しい不知火海の記憶を蘇らせ旅に誘う本でもあり、水俣にはいつか行かなければならないなと思いました。夏休みの行き先候補の一つとして真剣に考えたんですが、梅雨の最後に大雨が降っていてかないませんでした。いつかね。

超自然的なものを信じる、感受するというのはどういうことなのか、というのを西洋的にいうとこう、というのが↓の本に出てきて、そちらも印象に残ってます。↓のほうを先に読みました。

* * *

■Craig A. Boyd, Kevin Timpe, The Virtues: A Very Short Introduction, Oxford University Press, 2021.

徳ね。「結局いい人がいいよな」と思うようになってきました。法則じゃなくて打率。そう考えるようになるのが加齢というか成熟だと思う。

Philosophy of Social ScienceとVirtue Ethicsって留学したときにそれこそ大学1-2年生の授業で出てきた基本なんだけど、不思議と日本の出身校では触れることがなかったし日本語の入門書もこれといったものがないんですよね。何やら前者は今度出るっぽいですが。

【1】
・徳:単なる行動ではない。スキル、卓越性excellence
 ある条件下ではルールを破ることにも
・道徳規則は、優れた人が内面化した行動様式
 ルール≠徳(よい習慣)。社会や伝統のあり方によって変わる
・moral virtue = an excellence in being for the good (Robert Adams)
・第2の本性natureにできるということ。予見可能性が上がるということ
・ニコマコス倫理学:道徳的/知的/実践的な徳
・プラトン『国家』:知恵が欲求を制すること
・キケロ:prudence, justice, courage, self-control
・アウグスティヌス、アクィナス:神に淵源する
 →宗教改革以降は地位が低下。ギリシア的なもの=異教的に
 →近代は道徳法則の時代。帰結、権利論
・ヒュームにとっては「人生を楽しくする道具」
・アリストテレス―アクィナス:いい人生のための道具、かつそれ自体が目的
・Linda Zagzebskiはexemplarist
 1)徳のある人はどう行動するかに注目する
 2)利己性、悪い行いから脱却する道。プラトン

【2】【3】
・基本的な徳
 1)思慮prudence:知性関連の徳。正しい状況認識、考え、感じ、実行
  しかし、思慮ある人がいい人とは限らない
  eg.ガリレオ。ケプラーを正当に評価していたらもっと洗練されたのでは
  ソクラテス:善を知る=不可避的に善を行う。プラトンもほぼ一緒
  アリストテレス:知行分離。知は教えられる。行為は習慣づけ
   ニコマコス2巻。テクネー、エピステーメー、ヌース、フロネーシス
 2)中庸:スコープの広さ
 3)勇気:感情の徳
 4)正義:最も論争的な徳。1)-3)は感情。4)は社会的

【4】イスラム、儒教
・アリストテレスのmegalopsychosは自足的存在。しかしキリスト教神学では傲慢
・イスラムの5本柱、儒教は「道dao」

【5】神学的徳
・世俗的徳に加えてなぜ神学的徳が必要か
・ユダヤ教のrighteousness。神との契約における
・人間的努力を超えたものの要求←→ギリシアの「個人」と「社会」にとっての善
・アウグスティヌスもcardinal virtueだけではだめという
 ・神がrevealするもの。神なくして偉大でありうるというのは傲慢(原罪があるから)
・アクィナスにとっては「完全性perfection」への道
・faith←→迷信、だまされやすさgullibility
 1)自分が十分に知らない真実への同意
 2)状況の変化があっても対象が持続的に信頼できるということ
・hope←→wish
 アクィナス「困難だが可能な将来の善に対する期待」
  ↑神がファシリテートする。物質的hopeではない
 これに対する悪徳viceは「絶望」と「もう達成しているとの思い込み」
・charity、愛love、amor(近親者への愛)、神との友愛 cf.キルケゴール

【6】悪徳
・高慢pride、強欲avarice、怒りwrath、怠惰sloth、大食gulttony、色欲lust

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2021年07月17日 23:59に投稿されたエントリーのページです。

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