« 若干追記/二風谷と | メイン | 日比谷公園の桜 »

行政学講義

東京は土曜に桜の満開宣言が出ました(備忘)。
土日とも晴れてて花見日和だったのですが、どちらもマストではないものの捨てがたいインプット系の仕事をしてしまいました。残念。

「仕事で見たあれは何だったんだろう」で後追い読書をするシリーズがグローバルジャスティス、国際法に続いてこれ。キレッキレ。世の中どうしてこうなってるの、という広い関心にも応えるいい本でした。新書にしては大部ですので、弊管理人の興味のあるところ、知らなかったところは厚めに、そうでないところはさらっと。

■金井利之『行政学講義』筑摩書房,2018年.

【1】「われわれ」被治者への支配としての行政

▽政治と行政
・為政者が被治者を統治するのが「支配」
・被治者が統治者になって自分を支配するのが「民主主義」=被治者と統治者の一致
・代表民主主義では、代表者=為政者を民主的に統制する必要がある
・支配の決定と実行をし、行政の作用のもととなっているのが「政治」
  →政治と行政の区別は、民主的支配の原理から発生する

・戦前体制
  ・天皇が統治権を総攬→公選職政治家が行政職員を指揮監督する関係は明確でない
  ・武力革命政権としての明治政府
    行政は為政者集団内の上下関係といえるかも(藩閥―官吏・公吏)
    縁故採用だけでなく、高文試験での選抜=近代官僚制(科挙がなかった日本で!)
    →試験制度、資格任用制度を経たサブ集団として分化してくる
  ・では政治家集団はどうやって再生産するか?
    (1)天皇の信任、天皇との近さで←実務的には既存政治家がリクルートする
    (2)政治家集団自身による縁故採用(コネ)←有能さを保証しない
    (3)内戦し続けて武勲で←軍人集団が政治をするようになると自壊(1945)
    (4)議会と民党との対立という「管理された平和的内戦」
      →ここで政府側傭兵として官僚が活用される。次世代政治家の供給源にも
 
・民主体制
  ・政治家は公選職政治家として位置づけが明確になる
    →民主制と官僚制という2つの支配原理が併存するようになる
  ・非民主体制では与党=統治者、野党=在野・被治者だったが、
    戦後は政党の与党能力が問われるようになる。野党の存在意義の曖昧化
  ・官僚が実質的に政治や政策決定を行う「官僚政治」は継続
    ※国士型=自分が天下国家を考えて政治を担おうとするタイプ
     政治型=政党政治家の正統性を受容し、政治に従うタイプ
     調整型=利害調整を重視するタイプ
  ・官僚と与党は協働を通じて似通ってくる→忖度。党派化↑、政権交代への対処能力↓

・「全体の奉仕者」(憲15)←→党派的官僚
  ・政治家は党派的選好を持った「一部の奉仕者」。複数政党制が「全体」を担保する
  ・行政職員に対する国民の選定・罷免権は明確に規定されていない
    →官僚が与党化しても「中立性」の毀損が見えにくい
  ・政権交代しても旧与党化した行政が新政権を拘束する
  →行政が政治全体からの指揮監督を得ない→民主体制と整合しない
  ・内閣人事局(2014)=党派的任用の制度化!

▽自治と行政
・「官治」=異質な他者による支配←→自治=同質な仲間による支配
  ※国政における「被治者と統治者の一致」でいう仲間は何?想像の共同体
・今日の「自治」≒地方自治

・戦前体制
    町村レベルでは地元有力者による支配を認めていた
    ただし明治政府は町村の監督も同時に実施していた
  ・国の出先機関(普通地方行政官庁)として府県庁、府県知事(官選)を設置
  ・町村は郡役所、郡長(官選)を設置し監督(1920年代に廃止。地理的単位として残存)
  ・府県には帝国議会より前から府県会(公選議会)があった
  ・自治としての府県制も存在(ややこしい)
  ・「地方制度」とは、国の地方行政制度+地域の地方自治制度
  ・市:公選議会に相当する市会が置かれた。市長は市会推薦→内務相選任
  ・町村:町村会は公選、町村長も選挙
    →官治の色が市より薄い。ただし国→町村長の機関委任事務も存在

・戦後体制
  ・民主化=国政自治の導入→地方自治は「国民」という統治者の意思実現を阻む?
    No. 現憲法では地方自治の制度的保障を確認している
    「国民」が地方自治体の「住民」を支配することは民主主義から正統化できない
  ・各層別の民主主義を成立させるには、国/都道府県/市区町村が分離しているべき
    →だが、戦前体制を引きずっている。国にも市区町村にも関係する仕事が多い
  ・民衆の意向には地域的差異がある→国政で野党的な立場も地域で支持されうる
    国の党派的傾向を緩和する作用があるかも

・権力分立のための自治
  ・権利保障は、民主主義(多数者の支配)だけではだめ
  ・権力分立:通常は「三権分立」だが、国レベルでは一連の組織に見えなくもない
    →立法/司法/行政(水平的権力分立)のほかに「自治制」(垂直的分立)が必要
  ・そのためなら地方は武力/宗教的権威/経済力で治めてもいい
    ……が、これらでは民主的正統性の調達ができなそう→住民自治
  ・国/地方×政治/行政の相互関係があり→p.61図4

▽民衆と行政
・支配そのものはなくせない(単純な弱肉強食に陥る)以上、せめてもの解決が自己支配
・行政は、公選職政治家が指揮監督しないと「自己支配」として納得できない
  政治家―(指揮監督)→行政―(支配)→民衆―(選挙)→政治家、のループ
  ※ただし、現状肯定と無責任体質を産む危険あり!
・上記回路に頼らず、行政という他者支配への反抗を制度化したのが「行政訴訟」
  そのため、司法(裁判所)は非民主的な要素を持っている
  少数派の無視が起きたとき、特に有効となる可能性あり
・行政を「他者」とみることは、民衆への自己責任回帰と諦念から離脱する契機にもなる
  参考)非民主制下の無責任
    ・ナショナリズム→「行政がこうなってる責任は国民に」(一億総懺悔)という操作
    ・結局、為政者は何をやってもOK、という事態

・被治者と統治者の同一性をどう確保するか
・民主制下では、身分制に基づいた行政職員の構成(家産官僚制)を否定
  →行政を異質の他者としない。実態は異質な他者による支配であっても不愉快感が減る
・公務員を日本国籍者に限るというのも同じ不愉快感の低減が理由か
  →しかし、被治者は日本国籍保有者に限らないはず
・戦前の高文試験は結局エリート階層からしか受からない
・戦後は公務員給与を民間並みにする=統治者と被治者の同一性を確保する手段の一つ
・しかし属性は:男女のアンバランス
  ただし「女性ならではの視点」を求めてバランスさせると性役割の固定に繋がるので注意
・行政過程への直接参加
  してくる人は本当に民衆の代表か?←→少数者の権利無視になってないか?

▽自由と行政
・情報公開を「知る権利」ではなく「説明責任」から進めてよいか?
・君主主権のもとで、民衆個々人の自由を確保するには?
  (1)権力分立。しかし君主主権とは共存しうる
  (2)国民主権への転換。しかし個々人は「国民」の単一意思に対する自由が保障されない
  (3)個々人の自由など基本的人権を、主権の上位にある「神聖な自然的権利」とする(仏)
    →(3)から(1)(2)を正当化する
    ※憲法前文「人類普遍の原理」。民主的決定でもやってはいけない侵害がある
・支配は避けられないが少ないほうがいい(夜警国家)/行政による自由の確保(行政国家)

【2】行政の外側にある制約

▽環境
・地理(資源など)、歴史(記憶、伝統など)、気候(災害)、自然環境、人口、
 家族形態の多様さ(ケア、子育て)、コミュニティ(近年は行政の便乗が困難に)

▽経済
・事業をやらない行政(非指令経済)は民間の上がりに依存している(租税収奪)
・受益=負担?
・収奪強化→経済疲弊(ラッファー曲線)
・経済界も行政に要望
・その制約への反作用として行政は経済を支配しようとする。国営企業、規制と誘導

▽外国
・国境画定(領域国家)→帝国→国民国家(国民の一部が統治者でない矛盾が起きる)
・支配の及ばない「外国」が確定する→外交、国際機関行政の必要性
  ※戦前の高文試験も行政科と外交科は分離

▽特に米国
・米国に対して日本は「自治体」的な側面を見せる
・ポツダム宣言:いわば「暴力革命」、国家主権の消滅
→自治権回復の条件:民主化、共産主義革命の否定、平和主義、米国監督下の再軍備
・日米安保:在日米軍という最強の「在日特権」、暴発を抑止する「瓶のふた」
・為政者のタイプも植民地っぽくなる
  (1)支配を受容しつつ交渉する面従腹背
  (2)本国(=米国)統治へ寄り添う植民地為政者型
  (3)本国留学を経て思考が同化、ソフトパワーに負け続ける植民地エリート型
  (4)対等な日米関係をベタに信じる
  (5)面従腹背しつつ謀反・独立を狙う第三世界の反共独裁者型

【3】行政の内側にある為政者連合の姿
▽組織
▽職員
▽外周の団体(拡大した行政)
▽人脈

【4】権力(被治者の同意を調達すること)の作用

▽4つの力と行政の作用
  ・政策に向けて使う―政策管理
  ・4つの力=行政資源の差配―総括管理

▽実力=物理的強制力。警察力と防衛力
・警察:国家警察→戦後の自治体警察→都道府県警察
・軍:日本の文民統制と米国からの間接的な文民統制

▽法力(法的権力)
・権力統制の手段
  (1)実力を持つ行政から立法を分離する
  (2)立法は被治者(の代表)が行う
  (3)不正義な立法を否定する違憲立法審査権を裁判所に持たせる
・実行力は実力が裏付けるが、一罰百戒はテロと同じ。萎縮効果
 →恣意的な実力行使を制御するための法力が、恣意的に実力行使する矛盾
 →法がそれ自体として支配の実効性を持つために:ウェーバーの「合法的支配」
  =合理的(予見可能)・非人格的(誰が為政者かに依存しない)な秩序への信仰や帰依
・官僚立法、法令協議、内閣法制局、国会答弁
・検察
・裁判所:行政のチェック/行政の用心棒、両方の顔を持ちうることに留意

▽財力(経済的権力)=財源と財政
・中央銀行の独立:行政サービスの財源確保と通貨価値の安定が両立しにくいため
  ただし人事は政府。独立性は限定的
・大蔵省(主計局)支配
・会計検査院

▽知力=情報。他の3権力の行使を円滑にする。被治者の内面管理をする
・被治者もこれを使って反作用を及ぼすことができる
・領域空間と領域内の人間(→徴兵)とその財力(→徴税)の把握
・戸籍=家父長制的な把握→いずれ個人番号へ?
・統計
・教育・文化:被治者が支配される能力。
  支配される「主体」の創出―国語、勘定、遵法……
  被治者と為政者の同一性の創出
  内面の自由つき完璧な同一性=完璧な民主制(ないと完璧な独裁)
  広報と情報秘匿は支配の道具 
  答責性←野党質問、記者会見
  諜報←情報機関
  知識の格差→権力の格差
    秘密保護法(行政>>市民)。情報秘匿は市民を「敵方」と位置づけている
    逆に行政<<市民だと、外部専門団体が行政を左右してしまう
    格差の縮小:情報公開制度、公文書管理制度、個人情報保護制度

About

2018年03月25日 17:52に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「若干追記/二風谷と」です。

次の投稿は「日比谷公園の桜」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。

Powered by
Movable Type 3.35