去年から今年の前半までの仕事では条約や国際交渉のことをずいぶん扱ったので、「あれ一体何だったの」という整理というかおさらい(←今更ともいう)。有斐閣アルマやストゥディアなど、最近2年以内に新版が出ている初学者向けの本をいくつかめくってみて、情報はしっかり入っていて(必須)、かつ読みやすい(副次的)だろうと思ったのが本書。
2ページで「地球上のすべての国家を当事国とする多数国間条約は未だかつて一度も存在したことがないし、これからもおそらく存在しないだろう」といっているのを見るにつけ、197カ国・地域が署名し、着々と締結してるパリ協定ってすごいんですねという思いを新たにします。
(2)はこちら。
■植木俊哉編『ブリッジブック国際法[第3版]』信山社、2016年。
【1】国際社会におけるルールのかたちとはたらき
・国際社会≠国内社会
・立法機関、行政機関がない
・規範は自生的な性格をもつ→規範が常に問われ、解答も時代とともに変わる
・政府が存在しない。分権的社会
・国際社会における国家の行動を規律する規範=国際法の「法源(存在形態)」
(1)条約=国家間の文書による合意
(2)国際慣習法=すべての国家に適用(公海自由の原則、領空の無許可飛行の禁止)
(3)文明国が認めた法の一般原則=各国内法の共通原則で国際関係に適用可能なもの
・国際慣習法の成立要件
(1)一般慣行=大多数の国家による反復的な作為/不作為
(2)そうした作為/不作為が法によるものだという「法的信念」
*ただしいつ成立したかわかりにくい。内容も不明確→法典化(ベンサムが提唱)
・法典化
・代表例はハーグ平和会議(1899,1907)とハーグ国際法典編纂会議(1930)
←このころ、複数国家で取り組むべき問題、利益の存在が認められたため
・今日の法典化:国連総会の補助機関、国際法委員会(ILC,1947) が担う
例)外交関係に関するウィーン条約、条約法条約など
・国際法における二つの規範
(1)任意規範=当事者が合意すると逸脱できる
(2)強行規範=当事者が合意しても逸脱できない
←国際社会にはないとされてきたが、条約法条約(1969)53条で存在確認
強行規範に抵触する条約は無効(侵略戦争、植民地支配の禁止など)
・条約が及ぼす国内法体制への影響(各国の裁量)
・国内法の改正(例:女子差別撤廃条約→戸籍法改正で父母両系血統主義に)
・行政措置での対応
・解釈による抵触の回避
【2】条約
・最古の条約はBC3000頃のメソポタミア都市国家間
・今日的な条約の期限は17C中葉の西欧。対等な主権国家間の合意
→私人間契約に似たものと考えられた(ローマ法の影響、私法類推)
→二国間条約はこれでいいが、多数国間条約はそうもいかない
・合意は拘束するpacta sunt servanda
・条約は結構よく守られている(あまり脆弱なものとみてはならない)
・守らないときでも、国家は国際法の考え方を使って自分を正当化するもの
・守るのは、法制定者も法の適用対象者も国家だから(守らないと対抗措置も)
・手続き
全権委任状を持った国家代表による外交交渉
→条約文の採択、署名(条約文の確定)
→条約の批准、批准書の交換や寄託(国家が拘束されることの最終的同意)
→条約の発効
・外交の民主的コントロール
.秘密外交の廃止、14カ条の宣言(ウィルソン、1918)
*ただし、迅速な手続きでいいものは「行政協定」。議会承認なし
・日本:内閣は条約を締結するが、国会承認を経ること(憲法73条三)
法律事項や財政支出を含むものは国会承認が必要(大平三原則、1974)
・留保
条約全体の趣旨には賛同できても、特定の規定内容が国内事情と合わない場合
→署名、批准の際に特定の法的効果を排除/変更する声明
eg.日本の不戦条約1条と明治憲法、社会権規約(1979)
・できるだけ多くの国が締約国になれば条約の普遍性が上がるので許容される
・ただし条約の核心にかかわる留保は認められないのでは?
→両立性の原則
当事国ができるだけ同じ権利義務に服する「一体性」と
できるだけ多くの国が当事国になる「普遍性」の均衡点を探ること
・国連海洋法条約や国際組織の基本条約のように、留保禁止の条約も存在
→ただし、許される複数解釈の一つをとる「解釈宣言」で切り抜ける手も
・条約は第三者を害しも益しもしないpacta tertiis nec nocent nec prosunt
が、政治的な影響は及ぼしうる。eg. 周辺事態法(1999)
・第三国への義務は書面による同意が必要だが、権利付与は拒否がなければOK
・条約が国際慣習法化した場合は例外(条約法条約38条)
【3】国際法主体としての国家
・国家:「領土」「人民」「政府」が3要素
・ただし20世紀初頭までは「文明国」のみが国際法上の「国家」とされていた
→アジア、アフリカは「無主地」として植民地支配が正当化された
→民族自決の原則が確立し、修正
→信託統治地域(国連憲章11章)もパラオの独立(1994)で終了
・国家の誕生、変更、解体
・国家の承認は、国連加盟の承認とは別→既存の国家が個別に行う
外交関係の樹立(両国間の合意)とも別の「一方的行為」
通告や宣言による「明示的承認」と、条約締結などによる「黙示的承認」あり
eg. 日本の東ティモールとの外交関係樹立は黙示的な国家承認
・国家の変更:非合法な政府交代(革命、クーデター)が起きた場合
他国による政府承認(一方的行為)が必要
ただし国内問題への干渉という意味合いを持ってしまう
→最近は外交関係の維持/樹立/断絶で処理(政府承認の廃止傾向)
・解体、消滅:旧ユーゴ、東西ドイツ統一、チェコとスロバキアの分離独立など
→旧国家の権利義務、財産や債務は?―「国家承継」の問題が発生する
(1)従属地域が新独立国になる場合→白紙。クリーン・スレート理論
(2)結合や分離の場合→包括承継
*ただし、このルールは広く支持されているわけではない
・国家が一般に国際法上もつとされる「基本権」
=独立権、平等権(→主権平等原則)、名誉権、国内管轄権(→内政不干渉原則)
・友好関係原則宣言(1970)での7つの基本原則
武力不行使、紛争の平和的解決、国内事項不干渉、国家の相互協力義務、
人民の同権および自決、国家の主権平等、憲章義務の誠実履行
・さらに自衛権、外交権、使節権など
・国家の平等とは?
・国際法の定立における平等
・国際法の適用における平等(法の下の平等)
←戦争の違法化、武力不行使義務で「力」の差に起因する不平等が解消した
*ただしICJ判決の安保理による強制執行は、常任理事国に対しては事実上無理
・権利義務の内容に関する平等
現代は、武力を背景にして締結された条約は無効(条約法条約52条)
→19世紀の不平等条約のようなものはできにくくなっている
ただし、具体的な権利義務がすべて平等というわけではない eg.京都議定書
・主権の及ぶ空間
・排他的領域主権
・領土
・領海(陸地から12海里)+内水=領水(外国船舶は無害通航権あり)
・領空=領土と領水の上空(外国民航機には協定に基づく飛行の権利あり)
・主権「的」権利
・排他的経済水域
・大陸棚
・公海、深海底、南極、宇宙は特定の国の排他的権利が及ばない
【4】外交官と領事館
・外交官=自国を代表して他国との交渉や決定に参加する
大使など「使節団の長」と使節団の外交職員を指す
・外交関係に関するウィーン条約(1964発効、日本は1964批准)
・外交使節団=外交職員(外交官)+事務・技術職員+役務職員
仕事は「本国を代表して行う任務」+「自国民の保護」
・領事官=各地で本国と自国民の利益、権利を守るための活動を行う
+派遣国の国民への旅券、査証発給+国民への援助(相続、後見など)
・領事関係に関するウィーン条約(1963採択、1967発効、日本は1983加入)
・外交特権
・根拠は「職務遂行に必要な範囲で認められる」とする「職務説」が有力
・外交使節団への特権:公館の不可侵、公館への課税免除、書類の不可侵…
・外交官への特権:身体の不可侵、裁判権からの免除、租税の免除…
・領事特権
・もっぱら「職務説」
・特権は外交官より限定
・瀋陽の日本総領事館への脱北者駆け込み事件(2002)
庇護を求める第三国の人を保護する権利を国際法上有するのか、という
「外交的庇護」の問題を提起
(*自国の領域内に逃れてきた個人を領域主権で保護するのは領域的庇護)
・領域国の主権侵害vs人道的配慮
→外交的庇護が国際法上の権利として確立するかは今後
*ただし、あくまでも庇護を求める人ではなく、国家の権利であることに注意
・国家元首、首相、大臣の特権
・戦争犯罪や人道に対する罪を除き、他国の裁判管轄権からの免除あり
ただしピノチェトに対するスペイン→英国の引き渡し請求(1999)で議論に
民族ヘイトのコンゴ外相に対するベルギーの逮捕状発給→2002ICJ判決も