(4)を書いたのは8月だよもう。生活乱れていたなあと。
引き続き、
■Eriksen, T. H., Small Places, Large Issues: An Introduction to Social and Cultural Anthropology (4th ed.), Pluto Press, 2015.
のメモを。
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8. Marriage and Relatedness
・資産としての女性←精子は安価、卵子は高価
・一夫多妻polygynyは多くの社会で見られる
・一妻多夫polyandryは少ない
Ethnographic Atlas Codebookにまとめられた1231社会の中で、チベットなど4社会しかない
・歴史的には、恋愛結婚が前提の社会はほとんど見られない
・結婚は集団同士の関係であって、個人間の関係が第一とは見なされていなかった
特にマサイ族の社会では、恋愛結婚はむしろ不利益があると考えられた
結婚は子育てと家畜の世話のための制度としてある
マサイ族の女性は、結婚を「必要悪」とみている
・ただし、高い離婚率が近代社会の特徴だというのは正しくない
▽支度金(品)dowryと婚資bridewealth
・ヨーロッパとアジアの一部では(嫁が持っていく)持参品dowryは重要な制度だった
持っていくのは食器やリネンなど
婿の家が嫁を養うにあたっての補償、将来の相続に対するお返しという意味合い
負担はかなり重く、インドでは女の赤ちゃん殺しの理由にも
・婿側→嫁側に贈る婚資bridewealthはもっとよくある制度。特にアフリカ
嫁の労働力と生殖能力に対するお返しという意味合い
婿が嫁とその子を買っているという見方もできる
・婚資の機能
1)家族間の契約関係や相互信頼を生じさせる
2)高額の婚資を集めるために婿側の親族が協力しあうことで、親族内の結束を固める
・レビレート婚levirate:寡婦になった兄(弟)の嫁と弟(兄)が結婚する
父系を維持するため。婚資がよく行われているところで起きやすい
・ソロレート婚sororate:妻に死なれた夫が、妻の姉妹と結婚する
死んだ妻の代わりを提供する意味合い。レビレート婚の単純な裏返しではない
▽半族moietyと婚姻marriage
・集団同士の女性の交換で最も多いのは、姉妹同士の交換
・半族:一つの社会の中で、女性を継続的に交換している二つのリネージのそれぞれ
女性の交換に加えて、社会の中での分業も行われている(オーストラリアなど)
・ヤノマミ族の社会では、生物学的な繋がりの強い親族関係ほど政治的にも安定している
ただし、戦争回避や花嫁探しのために遠いところと関係を結ぶこともある
・女性のやりとりがA→B、B→C、C→Aのように多くの半族間でサイクリックを形成することも
非対称アライアンスシステムasymmetrical alliance systemという
半族間の上下関係も含んだカチン族の複雑な例→p.141
・以上は外婚の場合だが、内婚で交換が行われることも
特にヨーロッパの王族のように、階層システムのしっかりした社会で
・ただし、内婚、外婚の区別は相対的
リネージ内婚に見えても、核家族を単位とすれば外婚と見ることもできる
自由な米国でさえ、人種内婚が存在すると見ることもできる
▽基本構造と複合構造
・『親族の基本構造』
・共通祖先ではなく、女性の交換によって集団間の繋がりが発生・維持される
・親族関係の構成要素:兄弟―姉妹、夫―婦、父―息子、母親の兄弟―姉妹の息子
・誰が誰と結婚できるか/できないかを規定
・複雑な現代のシステムは、誰と結婚「できないか」だけを規定しており、安定性に欠ける
・男性と、母方のおじの関係が重要
▽自然か文化か
・NeedhamやSchneiderは「親族関係は生物学的な関係とは別に発明されたものである」と主張
・「文化人類学者の発明である」とまでいう(多くの人は言いすぎと考えるが……)
・文化的構築物なら、操作することもできる(グリーンランドなどに例あり)
・ただし重要部分は生物学的な関係に基づいている
・この論争は現在もホットに続いている
▽社会を超えて共通な部分
・全ての社会にある
近親相姦と外婚に関するルール
子供は生まれてからの数年は母親と暮らす
生殖、相続に関するルール
・多くの社会にある:
親族関係に基づいた地域的な政治的、経済的組織
先祖あるいは先祖の霊への尊敬に基づいた宗教的、日常的ルール
親族関係に基づいた権力の強さの違い
▽親族関係と官僚制:伝統社会と近代社会の原理
・近代社会でも、親族関係は至る所に影響を及ぼしている
キャリア、政治的地位、住むところ、等々
・しかし、資本制下での労働市場は親族とは無関係。何になるかは個人の自由
・官僚制も、「一般」という抽象的な概念に奉仕する。しかも誰でも平等に扱う
・親族関係と官僚制は近代社会い併存するが、折衷は困難
・親族関係を超えた複雑な相互依存も存在
・自覚的にこの違いを論じたのはウェーバー→パーソンズ
・ネイション、あるいは「想像の共同体」といったメタフォリカルで代替的な親族関係への移行
▽ジェンダーとの関連
・有名な研究の多くは男性視点で、女性を独立のアクターと見ていない
・親族関係がどんなジェンダー関係を生み出すかも分析していない
(どんなイデオロギーが男性優位を作り出しているのかなど)
・親族関係はジェンダー関係でもあるという視点
9. Gender and Age
・未開の社会は平等だと思ってフィールドに行ったら全然違った。ちゃんと分化している
垂直方向の分化:ランクと権力の違い
水平方向の分化:権力の違いには結びつかない分業
・例えば:
狩猟採集社会での性別、年齢に基づいた分化
小規模な農耕社会での首長の存在(ただし相続されるとは限らない)
大規模な農耕社会での首長+官僚+軍人、貧富の差
・生まれついての地位/獲得できる地位
・性別sexと性差gender―人類学で「性差」は長くネグレクトされてきた
マリノフスキーのトロブリアンド諸島研究における男性の役割誇張=androcentric
1970年代からのフェミニズムの影響でようやく注目→男―女関係、性差がどう形成されるか
・社会分業の中の性差
狩猟民hunter→狩猟採集民hunter and gathererもジェンダーを意識した言い換え
男性は狩猟のことしか語らないので、フィールドワーカーの注意がそっちに行っていた
が、実は女性、子どもの採集活動で得られる栄養価のほうがメインだった(南アフリカ)
アフリカでは農業の主な担い手が女性だったという例も(Ester Boserup, 1970)
集団内の「神話」で狩猟や男性の英雄が語られる→男性優位が形成されている?(Mundurucu)
・公の領域=男/私の領域=女
女性が多くの仕事をしても、その多くが家庭内のもの(子育て、炊事、掃除)
男性は外の仕事。高度に専門化した社会では政治、宗教を司ることも
・服従させる/する、の孕む問題
男女の服従関係にはグラデーションあり
ほとんど平等(マレーシアのChewong)から、女性が自身の人生をほぼ制御できないところまで
「平等=よい」というのはエスノセントリズムかも?
男性と女性は同じランキングシステムの中にいるわけではないのかも
→ホピ族:女性は母親として、男性は神のメッセンジャーとしてそれぞれ重要
・では、「女性は服従させられている」とは何を意味するのか?
宗教的に重要な位置を占められない?←→それでも他の面で女性のほうが強いことも
政治的に?←→女性のネットワークが意思決定を司るケース(Saloio)
・男性=文化/女性=自然?
女性は男性に飼い慣らされるべき自然?(Levi-Strauss)
両性の生物学的な差異に発しているのか?
しかし、女性が文化の継承を担っている社会も
北アメリカや中東では、むしろ男性が(性的に)自然と位置付けられている
→レイプは荒ぶる自然から自分を守れなかったほうが悪い、との観念
・上記図式は単純すぎ
黒人=自然=肉体労働/白人=文化=頭脳労働、みたいな変種も
→こうしたイデオロギーは権力関係を根拠づけるための道具になっているのではないか
・男性の世界/女性の世界
女性はあまり語らない/男性は自分の社会を語る→エスノグラフィーにバイアスがかかる?
女性は体面を気にする/男性は評判を気にする(Caribbean)
・セクシュアリティ
生殖器の性/ジェンダー自認/性自認/性交渉時の行動
ゲイ、レズビアンは「中間の性」ととらえるところも
ノルウェーのエイズ対策の中で生まれた「MSM」という言葉
・年齢
ジェンダーと同じく、年齢も普遍的に見られる分類の一つ
年齢も社会的に構築される
狩猟や遊牧など身体的要求が高い一部の社会を除き、加齢につれてランクが上がる(Holy, 1990)
産業化、ポスト産業化社会では逆。生産者ではなくなるし、昔の知識はすぐに古くなるから
・ニューギニアのBaktamanには年齢に従って7つのグレードが存在
宗教的な通過儀礼によってランクが上がっていく
最高位に上がるとすべての知識を受け渡されたことになり、政治的に強い制御力を得る
・「同級生」のつながりが強い社会も
・年齢とジェンダー
カメルーンのBakweri:男性は40歳になって政治力と財産を持たないと結婚できない
女性は性成熟からすぐに結婚
子どもの社会化の2目的:大人になること、と、男性または女性になること
→だから通過儀礼は男女でかなり違う(Mount Hagen, New Guinea)
例)中東、男児も女児も母親と公衆浴場に行くが、通過儀礼後は男性は裸の女性を見られなくなる
・通過儀礼
社会は通過儀礼を通じて再生産される(van Gennep, 1909)
→社会構造を変えずに、社会を構成する人が新しい地位を獲得する
→権利と義務、協力関係を構成員が再確認する
Turnerの3段階説:隔離separation、境界状態liminality、再統合reintegration
・婚姻と死の儀礼
婚姻:集団同士の連合と、社会の継続性の象徴
死の儀礼が持つ2つの意味
(1)死者を正しく現世からスピリチュアルな世界に移行させる
(2)相続。社会の中のどの結びつきを強め、どれを弱めるかを決定する=社会関係の更新
・現代の通過儀礼
洗礼、堅信、結婚の宗教的な重要性は失われつつあるが……
スカンジナビアのプロテスタント社会では堅信後のパーティでスーツと腕時計をもらう→大人に
ただし、成人、結婚とも、その前後であまり大きく人生は変わらないのが現代かも
年齢についても、変化が速く、変化がよいとされる社会では若さに価値が置かれる
10. Caste and Class
・カースト
生得的、変更は極端に難しい
ヒンドゥー、インドに固有
儀礼的な清浄/不浄の観念に基礎を置いている→高位カーストが低位カーストに触れると汚れる
特定のカーストが婚姻・交流、職業と結びついている
カーストごとに規範がある(高位→ベジタリアン、飲酒しないなど)
・4つの主要カースト=ヴァルナvarna(「色」という意味)
バラモン(僧)、クシャトリヤ(王、戦士)、ヴァイシャ(商人)、シュードラ(職人、労働者)
その外にダリットDalit(不可触民)
上位3カーストはスピリチュアルな再生の儀式を行うので再生族twice-bornと呼ばれる
・ヒンディーの外の人たちの位置づけ
ムスリムはそれ自体、低位カースト
他の少数民族は不可触民として扱われる傾向あり
→こうしたことのため、キリスト教や仏教に改宗する人も
・スリランカ、パキスタンにもカースト制度は存在
・実は、本当にヒンディーを分類しているのはジャーティである(Sriniva, 1952)
ジャーティは「生まれ」との意味。共同体単位を指す
何千と存在
ジャーティとカーストの中間に、職業カーストが存在
(例:ロハールLoharはインド中の鍛冶屋ジャーティがまとまったもの)
不可触民はカースト制度の外にあるが、ジャーティは存在する
低位ジャーティの中には、菜食主義を採用して高位に上がろうと試みるものがある
→高位の文化とはこういうもの、という共通の了解はあるらしい
・ジャーティ間の分業体制をジャジマーニー制度Jajmaniと呼ぶ
不浄カーストはトイレ掃除をすることで、文字通り不浄であることを示す
伝統的には、こうした分業体制の中で貨幣はほとんど流通しなかった
・貨幣経済が浸透した現在、ジャジマーニー制度の維持は難しくなっている
1)貨幣で何でも買えるから
2)旧来のシステムの中にない新しい職業がたくさん生まれているから
3)村落が都市に組み込まれて従来の結びつきが弱まっているから
→ジャジマーニー制度がなくなったわけではないが、カーストは曖昧で可換になっている
・カースト上昇(カースト制度の存在を利用する)
ある人が上に行こうとすると、3つのやり方がある
1)上のカーストに行く(だが非常に困難)
2)そのカーストの地位向上を図る
3)カーストを捨てて外でキャリア構築する
2)の例:酒造カーストは地位向上を図ってきたが、経済的向上と清浄/不浄は別だった
→菜食主義を採用するなど、高位カーストの実践を取り入れ始める
→バラモンに高額の金を払って浄化してもらい、清浄さを入手(経済→地位変換)
・カースト間紛争
低位カーストのPanは経済的に酒造カーストのような手法が採れなかった
→寺院に入れないので、自分たちで寺院を作って「清浄」をアピール、しかし認められず
→公務員の割当枠を利用してその中に入った??(p.181、意味分からず)
→バラモンは地位向上を認めていないが、公的セクターからバラモンに権力行使できるように
・つまり、経済や儀礼上の向上は可能だが、地位向上とは別の話ということらしい
・現代インドでのカースト制度:変化を余儀なくされている
1)新たな職業の登場
2)雇用が能力主義に
3)政府が公共セクターへの雇用などで積極的にカースト間の差異をなくそうとしている
4)互いが顔見知りでない「都市」化で、スティグマから逃れることが可能になっている
・ヒンドゥー主義の中でもカーストをなくそうとしている
ガンディーが不可触民をハリジャン(神の子)と呼称
さらにそれを否定しつつ不可触民の団体がカースト制度の撤廃を要求
ただし、まだ根強く残っている
・階級
生得的だが、階級間の移動もよくある
多くの社会に見られる
内在的な視点emicでは、獲得されたものと見られている
・マルクス主義の階級
ブルジョワジーあるいは資本家(生産手段=土地、機械、工場などを所有)
プチブル(生産手段を所有しているが、0~数人の雇用)
労働者
他には、貴族(土地所有で働く必要なし)、ルンペン、無職者など
→では公務員や教師、研究者などは労働者か?うまく分類できないかも
・ウェーバーの社会階層social strata論では、経済の他に政治的、知的な力という軸を導入
・資本制の導による社会変動:プエルトリコ・サンノゼでのコーヒー・モノカルチャーへの移行(Wolf, 1969)
土地所有者がコモンズに対する支配を強化
→すべてが商品に、小規模自営農業者が労働者に
→社会に階層分化が起きる
(1)小規模自営農peasants
(2)少数の人を使って生きるのに必要な以上の生産を行う中規模農家
(3)自分の労働力を売る農業労働者rural labours
(4)コーヒー農園を大規模に経営する地主
・文化階級
多くの人がホワイトカラーになった現代社会では、資本の有無では階級を見分けづらい
ヴェブレンの「顕示的消費」:ステータスシンボルの購入
ブルデューのcultural classes:支配階級=「趣味のよさ」を定義できる階級
必ずしも経済力とは一致しない。文化資本は教育歴と出身階級に依存
→この階級は移動できる。カースト上昇を試みた醸造カーストを想起せよ
・ただし、どんな価値(文化、経済、政治……)が重視されるかはコンテクストによる