■小川さやか『「その日暮らし」の人類学』光文社,2016年.
「本書は、Living for Today――その日その日を生きる――人びととそこに在る社会のしくみを論じることを通じて、わたしたちの生き方と、わたしたちが在る社会を再考することを目的としている」(p.7)
未来の予測可能性を追求し、明日や1カ月先や10年先を構想して、その目的に奉仕する現在を生きる――そんなわたしたちの単線的な時間感覚と、生活様式と、その周囲をがっちり固める制度を外から眺めてみる。
眺める。どこから?
コピー商品の行商と国をまたいだ仕入れの旅、日雇い、携帯電話を使った小銭の貸し借りまで駆使しながら生きつなぐタンザニアの「インフォーマル経済」の中からである。インフォーマル経済とは、政府の雇用統計に載らない、零細な自営業や日雇労働のことだそうだ。
騙されることも失敗することもある、失業もある、困難ではある、しかし人びとは知人や親族と、複雑に助けられ―助ける関係の中に浸されていて、日々をなんとか無事に生きている。「この雇用が切られたらおしまい」「この金を使ったら後がない」という不安はそこにない。
弊管理人はときどき、こういう「自分をロックイン状態から引きはがす」力を持った文章を求めてしまいます。日常を解毒する力といってもいいかもしれない。フィールド体験記かなと思って手に取ったら、かなり分析的な内容でしたが、解毒作用はちゃんとありました。
もちろん、地下鉄で読み終わったあと駅に降り立てば、「しかしこうしたタフで落ち着かないインフォーマル経済の世界に、自分は移住したいだろうか」と少しずつ醒めていくのですが。
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そうして駅から帰宅して寝て起きると、予定と準備への執着に満ちた仕事界隈ではマラソンの日々はまだ続いていて、しかもところどころで「この100mくらいなぜ全力疾走できないのか」と叱咤されることもあり、毒は溜まり続けています(しかし溜まっていることから目を背けられるようになってはきた)。
フェイスブックもいよいよ居心地が悪くなってきたので、アカウントは残しつつ、用事や他の方の意見が聞きたい案件がない限り、見に行かないことにしました。