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ことばの力学

■白井恭弘『ことばの力学―応用言語学への招待』岩波新書、2013年。

「どのような言語を使ってある現象を説明するか、これも、はっきりと言わずに隠れたメッセージを伝える有効な方法で、メディアによって多用されています」(p.137)

ほほうと思って読んでいくと、

「二〇一二年には、iPS細胞によると称する虚偽発表をめぐって、日本の科学報道のいい加減さがNatureという世界的な科学雑誌でもとりあげられました」(p.148)

とか言っている。この件、朝日新聞や毎日新聞は事前に情報を吟味した上で虚偽発表の内容を報道することを回避しえているのですが、筆者は「一部」を「すべて」に誤認しやすい「日本の科学報道のいい加減さ」という表現を使ってどんなメッセージをお伝えになろうとしたのかな。しかも「世界的な」科学雑誌、という権威を笠に着て。

「『証拠に基づいた社会(evidence-based society)』を目指していくべきでしょう」(p.iii)

というのが基本姿勢なのだそうですが、

「原発事故、放射能汚染、反原発運動など、原発推進にとって不利になる重要な情報が、海外のメディアでは大きく取り上げられているにもかかわらず、日本では無視されたということが何度もあって、」(pp.134-5)

って。その証拠はどこに……
雑だなーと思って読んでいたら最後のほうに

「本書についても鵜呑みにせず、批判的に読んでもらえればと思います」(p.197)

と。本書そのものがレッスンだったか。うはー
この分野についてよく知らない読者に新しい知識を与えるという面では有用な本だと思うのですけれど、べき論に行くと議論が粗っぽい。

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2013年04月18日 23:53に投稿されたエントリーのページです。

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