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科学読書3つ

重ねがさね思うのですが、こういう本を(仕事ではなく)読む一般人って何を得たくて手に取るのでしょうね。

■朝日新聞大阪本社科学医療グループ『iPS細胞とはなにか』講談社、2011年。

新聞記事の文体を本1冊分読まされるのはキツイ。
でも「ES細胞の倫理問題」なるもの、内外の研究支援態勢、生命科学や臨床への応用ってどうなってるのか、特許競争の状況など、iPS細胞とそれをめぐるポイントはだいたい網羅しているので、「いま」を知るには適した本であろうと思う。
ただしこの本の内容の多くは賞味期限が1年以内。
あとけっこう目立つものを含め誤植がちらほら。ちゃんと校正して世に出そう。70点。

■八代嘉美『増補 iPS細胞』平凡社、2011年。

で、取材ではなく調べもので構成しているのがこちら。
iPS細胞前史と「成り立ちと仕組み」の部分までちゃんと書いている。研究者が書くと、素人の「おっかなびっくり」感がなく比喩や言い換えができていて安定感がある。
2008年に出た増補前の新書は、一般人にわかるように・しかし大切なことは余さず説明しようとするその姿勢にほんとに感銘を受けながら読んだ。
増補はその後の研究の流れの解説がひとつ、あと規制やらお金の話やらがひとつ。やや難しい印象。でもお値打ちに変わりはない。75点。

■吉野彰『リチウムイオン電池物語』シーエムシー出版、2004年。

リチウムイオン電池「が、できるまで」を、開発者が語ったもの。1時間あれば読めます。
ただし、リチウムイオン電池がなぜ欲され(エジソンの時代からあまり変わってないというニカド電池はどこが弱かったのか)、そこにどういう人たちが絡んで正負の電極材料が開発され(オックスフォードででコバルト酸リチウムの正極材料への適格性を見いだした人たちにも苦闘と工夫はあったはず)、どの程度の市場が形成され(いま1兆円規模、2020年には3兆円と言われてますね)、今後どう使われていき(ハイブリッドカーとか自然エネルギーを安定して使うための蓄電池とかか)、そしてどういう限界があるのか(リチウムって高いし安定供給できるかは楽観できないでしょう)、といったあたりにももちっと濃ゆく触れてほしかった。
企業研究者らしく、「特許のツボ」的な話にはかなり力が入ってましたし、ははあと勉強になりました。
そういや、なんで旭化成の研究者が開発したのに商業化したのはソニーなのかね。
偉大な開発者が披露する秘話は貴重なんだけど、もうちょっと編集側がサポートして構成や内容を練ればよかったのに、折角なら。55点。

コメント (2)

okame:

仕事読書とはいえ、お疲れ様です。書評がさすがだなあと思いました。冒頭の一般の人がこういった本を買うということは何を得たいと思うのでしょうかね。それが普通の新書を買うような感覚なのかもしれないですし、本当何かを得たくて買うのかもしれないし。不思議です。

管理人:

ああでも、何かの機会に今話題になってるあの細胞って何だろう、ちゃんと知っておきたい、と思うことはありますよね。
仕事読書1冊って、趣味で漫然と10冊読むより肥やしになります。いつも丁寧に読める体力か、ざっと読んで一発で頭に入る知力があるといいんですが。

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2011年10月01日 00:55に投稿されたエントリーのページです。

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