■Sismondo, Sergio, An Introduction to Science and Technology Studies, West Sussex: Blackwell Publishing, 2010.
衆目の一致することっていうのは、たいてい意地悪な(?)人文・社会系の人たちの「それホントはちがうんだよー」というツッコミに晒される運命。(自然)科学はそうしたネタの宝庫でもあるらしく、「科学技術社会論(STS)」という一分野までできちゃったということで、その教科書がこの本。
客観的で普遍的な科学的知識、インパクトの証しとしての論文引用数、再現性が担保されてるとか、科学の世界の議論は公平・不偏だとか、まあそういうクリシェをひっくり返すか、少なくともその文脈依存性や社会的に構築されたもの性を示すため、ラボに実例に分け入っていく――そういうことをやってるようです。パラダイムやANT、観察の理論負荷性などの理論や、研究者コミュニティ、ジャーナル、政策決定といったフィールドの紹介に加えて、黄教授のスキャンダル、薬の治験をめぐる問題、チャレンジャー事故など豊富な事例が盛り込まれ、読む人を飽きさせない構成になってると思います。
STS=科学×(歴史+哲学+社会学+人類学)ってところでしょうか。そもそもが( )の中に入ってる学問の応用みたいな分野なのかもしれませんが、最後の章ではSTSの応用として、開発や投資に対するどんな示唆がありうるのか、考えてます。西洋からみれば科学・技術というのは、植民地を経営してきた軍事や資本の礎であり、アフリカや南米のローカル文化(あるいはローカル科学・技術)の土壌にどう根付かせ"発展"を促すかという、現在にもつながる切実な問題の核であり続けてきたのでしょう。こういう視点って、ちょっと日本から見ると新鮮に感じるところかもしれない。余談ですが、エジンバラ大にはまさに「科学・技術と国際開発」を冠したコースなんかもあるんですね。
ところでこの本、けっこう難しい単語も出てくるので辞書は必須。通勤電車でちょっとずつ読んでた弊管理人は、片手で持った状態で親指で操作できて、6000円くらいで買えてジーニアス大英和が入ってるこの電子辞書(wordtank S502)の威力を思い知りましたとさ。