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プロタゴラス

■プラトン(中澤務訳)『プロタゴラス―あるソフィストとの対話』光文社古典新訳文庫、2010年。

この文庫、評判いいようです。新書がなんだか興味の惹かれないタイトルばかりになってきてしまった今、読んどかないと始まらないけど訳文が古かったりやたら格調高かったりしてイマイチ手が出なかった古典を「読みやすく」訳し直す、というのは商売的にもいい着眼だと思う。

さて、サンデル先生が東大に来る!とかいって見に行く市井読書家よろしく、プロタゴラスが近所に来てる!といって興奮するミーハー坊っちゃんのヒポクラテス君(同名だが医者のほうではない)に連れられて、プロタゴラスに会いに行ったソクラテスが「徳(アレテー。知恵、節度、勇気……など人間の持ちうる美点)は他人に教えてあげられるものなのか?」をめぐって論戦を繰り広げる様子を描いたもの。

ただし、読み通しても、当初の問いに対して「これが決定版」という答えは書いてありません。

当代一流のソフィスト(弁論の先生=金をもらって徳を教える商売の人)であるプロタゴラスと、「徳を教えてあげよう、なんて軽々しく言うのってなんかウソくさい、自分には知らないことがあるということをちゃんと分かっているのが本当の知識ちゃうんか」というひねくれソクラテスが論争をし、最後はソクラテスがプロタゴラスを黙らせちゃう。ところがソクラテスが至った結論は「徳は教えられる」という、当初の考えとは逆のものだった、というどんでん返し。

この過程を辿りながら、現代の読者たちは「この部分ってごまかしてない?」「あ、変な議論が挟まった!」などと思わずツッコミながら読んでしまいますが、その「読み考える過程」がまさにソクラテスの考える哲学というもののあり方を体現してしまう、というトリック。それを楽しむ本なのだと思います。トリビアのようなものを得るのではなくね。

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2011年03月09日 22:52に投稿されたエントリーのページです。

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