■小松美彦、市野川容孝、田中智彦編『いのちの選択―今、考えたい脳死・臓器移植』岩波ブックレット、2010年。
臓器移植に関連する本の中でもこの本は最もコンパクトで情報量の豊かなハンドブックのひとつといっていいでしょう。09年の法改正の過程まで盛り込んだ本自体があまり多くないと思いますし。
脳死は人の死なのか、現行の脳死判定基準はそれでいいのか、臓器移植はレシピエント(移植を受ける人)の命を救うのか、救うとすれば唯一の道なのか。こうした問いにすべて「イエス」と答える声なら関連学会のえらいひとたちのうち誰に聞いても簡単に返ってきますが、逆に、「ノー」とおおっぴらに(←ここ重要)言える人は現場のことをよく知っている医療者の中には少ない。門外漢でその専門性の高い分野についてもの申す人もまた多くない。
そんななかで、「この現在進行形の問題に直面して何も言わない応用倫理学なんて、ねえw」とばかりに哲学、社会学のひとたちが切り込んだ意欲作です。基本的に脳死・臓器移植に対しては慎重・反対の論調ですが、報道、行政、医療の各界でもっとも普段から流通しているのは推進・せいぜい中立の立場からの言説なので、やっとまともにバランスを取れる本が出てきたという感じ。