« 連休3日目(水辺) | メイン | 東工大+コメダ »

連休5日目(ポゴレリチ)

100505pogo.jpgイーヴォ・ポゴレリチのコンサートに行ってきました。
曲目は、ショパン/ピアノソナタ第3番、リスト/メフィストワルツ、ラヴェル/夜のガスパール、ほか小品。

1980年のショパン国際コンクールで、独特すぎる解釈で審査員の賛否を分かれさせ、本選前に落選。彼の演奏を買っていた審査員のマルタ・アルゲリッチが憤激してその後の審査を降りた、という有名なスキャンダルを機に名を知られることになった人です(ついでに、その年の優勝者ダン・タイ・ソンが平均して高得点を集めるタイプの演奏家だったことも、ポゴレリチと対照をなしていておもしろい)。

ショパン・コンクールからあと、80年代を中心としたポゴレリチの演奏はyoutubeなどで見聞きすることができますが、いずれも圧倒的な指の回転、爆音と弱音のコントラストや独自の曲運びで存在感を誇示する、まさに誇示する変人系ピアニストだったのではないかと思います。

96年に奥さんを亡くしたのを機に?鬱で何年か演奏活動から離れたあとは、曲のテンポ設定やフレージングをほとんど無視し、あるところではイン・テンポ、別のところでは一音を弾いてほとんど残響が消えるくらいまで次の音を弾かないなど変人度を増しているとのことでした。(youtubeに上がっている99年に米国で演奏したラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の音声を参照)

さて今日。かなり暗くされたサントリーホール大ホール。ステージ上にぼやっと浮かんだピアノに就いた大男は楽譜を譜面台に置いて、次か、次の次の曲の楽譜を床にぽんと投げ、さっさと演奏を始めました。

予想通りの遅いテンポ、というか、もうところどころ和音がただただ連続しているだけの状態になっていました。突然、強い打鍵で内声が強調され、かと思うと靄のかかった夜のように気分の晴れない(でも美しい)ピアニシモでメロディが歌う。ショパンの夜想曲とソナタ、リストのメフィストワルツが終わった段階で1時間半(!!)が経っているのに気付きました。

観客席の自分は、尻をずらして浅く座り、頭を背もたれにつけて天井を仰ぐ。目を閉じる。座り直してポゴレリチを見つめる。そうやって都合3時間ちょいの演奏を聴いていました。(休憩明けには突如、ブラームスの間奏曲がプログラムに挿入されることがアナウンスされました。興が乗っていたんだろうか?)

当初は変人による脈絡のない楽曲の破壊、なのかと思いましたが、いろいろ考えながら聴いていると全然そんなことはない。このとんでもなく意外なテンポ設定とダイナミクスは、聴いている人たちがポゴレリチと「いっしょに歌う」ことを許さない仕掛けなのではないか、そう思えてきます。

つまり、クラシックのコンサートなら、ほとんどの場合、聴衆は自分の知っている曲を聴くわけです。録り直したりつぎはぎしたりしてミスを消し去ったいろんなアーティストのCD録音を聴いた記憶と、目の前で進行するライヴをリアルタイムに照合しながら、いいとか悪いとかここトチったとかここ好きだとかいった、安易な感想を抱かせてもらえる。

それに対してポゴレリチの独特すぎる演奏は、知っているはずの有名な楽曲が孕んでいるハーモニーの全体、そしてメロディの重層性を解体、分解、腑分け(これらは破壊ではない)して示すことで、あるいは「リスト的な和声とはこういうもので、それはショパン的なものとこのように異なっているのではないか?」という仮説を、あるいはその曲が普段見せない相貌の見せ方に関する試論を、聴衆に問い掛けているのではないでしょうか。
知っているはずなのにトレースできない。過去に聴いたその曲の演奏と、目の前で演奏されている演奏のギリギリとした拮抗感が彼の芸当の髄のような気がしました(あるいは、その演奏に触れた人にこうやっていろんな言葉でその感想を表現させるという機能もまた……)。つまり酔狂ではなく、逆にたいへん思弁的な演奏のように見えたわけです。

でも、これはしかし次も絶対行くぞー!という興奮には繋がらなかった。スカルボでは、30年前の映像のシャープな指さばきの影はなかったし、なにより3時間にわたって聴いているなかで、途中から「次はこうなるかな」と展開が読めるようになってきた(つまり意外ではあっても「不規則」ではないわけだ。まさにそのためにこの演奏が思弁的だと思ったんですけど)。いまやダリの絵がどうもわざとらしく見えるように、そのうちポゴレリチも「『変人売り』というキャラ」として馴れられていくのではないかと思う。いや、もう聴衆は馴れているのかもしれない。最後の満場の拍手とスタンディング・オベーションをぼうっと眺めながら、そう感じました。

コメント (2)

e-com:

連休充実してるねーw 4日目はーー??

管理人:

ほんとに納得いくまで遊んだ、今年はw
なんでかと思ったら、去年までは宿直のある地方にいて、定期異動の5月1日前後は人繰りが厳しいのでフルに休めなかったからなのだね。

4日目は体力が尽きたので昼間はゆっくり休んで、夜は友達らと飲み明かしてしまいましたwww

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

About

2010年05月05日 20:07に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「連休3日目(水辺)」です。

次の投稿は「東工大+コメダ」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。

Powered by
Movable Type 3.35