■伊福部昭『音楽入門』全音楽譜出版社、2003年。
ゴジラのテーマでおなじみ、しかし実は現代日本の代表的な作曲家の一人、伊福部昭氏が1951年(!)に書いた入門書です。
が、これがまたすごい。
音楽は音のみで美しくあるべきだとするのが氏の主張なのですが、そのため小林秀雄のようにごてごてと文学的な修飾を尽くして評論したり、音だけで訴えかけきれないものを表題に託したり、情景など音楽の外にあるものを写し取ることに価値を見出すことを徹底批判します。一方で音をばらばらに配置したり数学的に配置したりする実験もまた、数(あるいは乱数)その存立を頼っているために批判の対象になる。
そして全球化する西洋音楽の進出に対して、民族音楽の素養をまずつけることを主張してます。それは、排他的な民族主義なのではなくて、国際社会に漕ぎ出す者にアイデンティティクライシスを起こさないための智恵を授けているようにも見える。
一見すると頑迷なおっさんのわがまま音楽批評のようにも見えますが、最後につけられた解説によれば、これは全て敗戦後の日本の軽薄な西洋音楽受容を批判したものだという。釧路生まれ、独学で音楽を勉強しながら北大農学部を出て勤めて賞とって音大教授になって学長にまでなっちゃう異色の人っぽい、とんがった感じが随所に見られる本です。こんな啓蒙書、本当の入門者が読んでもわかんないと思うけど(笑)
岡田暁生さんが「新しいクラシックとはジャズだ」と文庫に書いてて「へー、そうだねー」と思ったのですが(→『西洋音楽史』)、50年前に同じこと言ってました、伊福部氏が。やっぱり古典は読むもんだな。