■ピーター・シンガー(山内友三郎他訳)『グローバリゼーションの倫理学』昭和堂、2005年。
Singer, Peter. One World: The Ethics of Globalization, New Haven: Yale University Press, 2004.
英語圏では名の知れた功利主義系応用倫理学者、といったらいいでしょうか。
某オセアニアの大学で哲学の授業を取っていたとき、特によく出てきた名前です。オーストラリア出身の方だというところまでは知っていましたが、だいぶ運動もやった方だというのは訳者解説で初めて知りました。うん、確かに米ブッシュ政権に対する痛烈な批判や、具体的な提言をつけて章を締めくくるところなんかはその片鱗が見えますね。それだけにYes We Canが出てくる前に読めばよかった(3年くらい本棚にしまったままなぜか手を付けてなかった)。
環境問題のコストは誰がどう負担するべきか。WTOは不平等を促進するか。主権国家への人道的介入はどういう条件のもとで許されるか。途上国援助をしぶることは正当化できるのか。諸問題が国境を越える時代の倫理学を構想する。答えの出ている問題もあるし、出ていない問題もあります。政策学のテキストかと思うくらい網羅的に資料を読み込んでいる部分もある。かと思うとヘアもカントもノージックもウォルツァーも出てきます。
おそらく史上もっとも出来の悪い大統領が去った今、シンガーは何を言うのか。アップデートしてほしい本ではあります。そのわりにあんまり強烈な印象の残る本ではないのはなぜかな。