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小胞体

ちょっと必要がありまして……

■森和俊『細胞の中の分子生物学』講談社、2016年。

▽1950~60年代:細胞生物学第1世代(クロード、ド・デューヴ、パレード)
 =1974ノーベル医学生理学賞受賞
・タンパク質を合成するリボソームが2種類あることが判明
 (1)細胞質にいる「遊離リボソーム」
  →合成したタンパク質は細胞質に放出され機能
 (2)小胞体の膜の外側に付着する「小胞体膜結合性リボソーム」
  →合成したタンパク質は小胞体内に入り、ゴルジ体を通って細胞外に分泌

▽1970年代:第2世代(ブローベル、1999医学生理学賞受賞)
・タンパク質を構成するアミノ酸の配列には、機能配列の末端に「シグナル配列」がある
 →シグナル配列を荷札として識別タンパク質が結合、翻訳停止
 →正しい小器官(この場合小胞体)の識別タンパク質受容体がキャッチ
 →シグナル配列が切り取られる(核行きだと切り取られない)
 →翻訳再開、小器官内にタンパク質が入る
 =働く場所に届けられるという「シグナル仮説」
 →すべての小器官についてこれが正しいことが示された

▽1980年代:第3世代(シェクマン、ロスマン、2013医学生理学賞受賞)
・タンパク質が小胞体に入った後
 →小胞体内で立体構造をとる
 →「小胞輸送」でゴルジ体へ
 →ゴルジ体で仕分けされ、最終目的地のリソソーム、細胞膜、細胞外へ
 *各移動の際は小器官の膜がちぎれてできる袋(輸送小胞)に入って運ばれる
 *ゴルジ体を出た小胞のv-SNAREと目的地のt-SNAREが結合するので迷子にはならない

タンパク質の折りたたみ
・アンフィンゼン(1972化学賞)のドグマ「タンパク質は勝手に最適な形になる」
・タンパク質濃度の高い細胞内では、タンパク質「分子シャペロン」が折りたたみを助ける
・2種類のシャペロン
 (1)結合・分離型
 (2)閉じ込め型(シャペロニン):容器状で、中に隔離して構造をとらせる
  →シャペロニン研究のハートルとホルビッチは2011ラスカー賞
*形がおかしくなると→異常プリオン
  スクレイピーの研究でプルシナーが1997年医学生理学賞

不良タンパク質の処理、二つの分解系
(1)ATPを使わない分解処理
 リソソーム(40種類の分解酵素を持ったゴミ処理場、ド・デューヴが発見、ATP不使用)
*オートファジー
 オートファゴソームにリソソームが融合、酵素が流入
 新生児は飢餓状態の中で自食し生き延びている

(2)ATPを使う分解処理
 ユビキチン(APF-1とも)が付着(ハーシュコーら、2004化学賞)
 =プロテアソームが分解(田中啓二、ゴールドバーグ)
 プロテアソームがユビキチンを把持
 →タンパク質をひもに戻す
 →ユビキチン外す
 →分解

▽1980年代後半~:第4世代(ゲッシングら)
・小胞体で正しい構造をとったタンパク質だけがゴルジ体に行けることを発見
・正しくないタンパク質は細胞質に排出され、プロテアソームが分解(小胞体関連分解)

・小胞体ストレス応答(メリージェーン、ジョーが1988命名)
 タンパク質がリボソームから小胞体に入ってくる
 →シャペロンが高次構造形成を手助けする(90%は成功)
 →異常タンパク質が増えるとシャペロンが増える(転写誘導)
 →修復を頑張る
・応答に必要なもの:森がすべて解明
 (1)センサー
 (2)シャペロン転写を働きかける「転写因子」
 (3)センサー(小胞体)と転写因子(核)を取り持つ仕組み

1989 メリージェーンとジョーが酵母にも小胞体ストレス応答があることを報告
1992 森、シャペロンの転写調節因子を酵母で決定
   酵母遺伝学。ランダムに傷を付けて小胞体ストレス応答ができないものを選抜
1993 森、IRE1の機能喪失がセンサーだとCellで報告
   (ピーター・ウォルターも同着)
1996 ウォルター、転写因子HAC1報告
1997 森、スプライシング後のHAC1タンパク質が転写を実行するという解釈を発表

・つまり
 構造異常タンパク質が小胞体に蓄積
 →センサーIRE1を介して情報が核へ
 →転写因子HAC1がシャペロン遺伝子の転写を活性化

*場所によってストレス応答が違う
 細胞質に構造異常タンパク質が蓄積した場合、修復のためシャペロン動員
 小胞体に蓄積した場合は小胞体ストレス応答
 ミトコンドリアでのストレス応答→詳しく分かってない

▽ヒトでは
1998 カウフマンとロンが独立にヒト遺伝子内にはIRE1に似たものがあると報告
   (HAC1はヒトにはない)
   吉田らが転写調整配列を発見、さらに転写因子ATF6とXBP1も発見
1999 ロンが第2のセンサーPERKを発表
   土師がATF6を第3のセンサーと特定
   =ヒトはIRE1、PERK、ATF6という三つのセンサーがある
2001 吉田がヒトXBP1が酵母HAC1に相当すると発見、Cellに発表
   (ロンはNatureに一歩遅れて出した)

酵母とヒトの違い
・酵母はセンサーがIRE1しかない
 →小胞体シャペロンも小胞体関連分解も同時に転写誘導される

・ヒトはまずPERKが翻訳を抑えて既存シャペロンに修復の余裕を与える
 →その後、ATF6が応援シャペロンを呼ぶ
 →だめならIRE1でシャペロンとともに小胞体関連分解を誘導する
 *せっかくATPを使って作ったタンパク質をいきなり分解しない「もったいない」対応

小胞体ストレス応答の不全と病気
・PERKが働かない→質の悪いインスリンが作り続けられる→β細胞の恒常性が崩れてアポトーシス→インスリンが作れなくなる→糖尿病(ウォルコット・ラリソン症候群)
・ほか、肥満、インスリン抵抗性、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS、炎症性腸炎、心不全、心筋症、動脈硬化などにストレス応答が関与していることが判明
・がんでは新生血管できるまで飢餓状態→構造異常タンパク質が蓄積→小胞体ストレス応答を動員して対処。ということは、ストレス応答阻害薬が抗がん剤になるかも

今後
・ヒトはほかにセンサーを5個持っている。それぞれ使い時があるらしい
・臓器・細胞特異性
・どの時点で修復を諦めて細胞死にいくのか?

「三つのハッピーな出会い」―ラスカー賞スピーチ
(1)分子生物学との出会い
(2)小胞体ストレス応答との出会い。地方時代、それまでのテーマをやめて渡米したこと
(3)ワン・ハイブリッド法。エイチ・エス・ピー研究所の由良所長、吉田さんとの出会い

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2019年07月14日 17:50に投稿されたエントリーのページです。

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