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遠くに近づく

これもまあ借りて済ますべき「現在地まとめ」みたいな本かなあと思って図書館からさらってきましたが、2年前くらいにずっと読んでたSmall Places, Large Issuesのおさらいプラスアルファとして思いの外面白かったです。

・遠い人たちの近くにおいて、自分と自分が埋め込まれた社会の基底に気付く、
・普段当たり前と思っている二分法の境界線を溶かす。

貸出延長の手続きをしてじっくり……と思ったら次の予約が入っていてできず、駆け抜けてしまいました。下のメモも目に付いたキーワードをすごい恣意的に拾っただけ。最後のほうはすっ飛ばしてます。

■松村圭一郎、中川理、石井美保『文化人類学の思考法』世界思想社、2019年。

[1]自然
未開の科学、認識人類学(エミック/エティック)
コンクリン:ミンダナオ島・ハヌノオの植物分類学
チェンバース:「参加型開発」。土着の知識は科学より当地の生態系に適合的
レヴィ=ストロースの自然/文化の二分法は本当か?
 ←西洋の構築物では?ヴィヴィエロス=デ=カステロの「多自然主義」
多種の生物が織る自然←→地球を守る私たち

[2]技術
道具を作る動物と人の違い:道具使用に意味、意図、表象が絡む
モース:身体技法=目的や状況に応じた身体の使い方
    道具=身体の外側に独立した機能、技術=その構成
    技術の「相互的因果」=石器を「作る」→狩猟社会が「作られる」
ユクスキュル:環世界。誰も「自然そのもの」を知覚していない
ルロワ=グーラン:技術の創出と、それによる身体・社会の変容。進化の同時進行
ラトゥール:特定条件下で姿を現す「科学的発見」、科学者の名声という社会的影響
 自然と社会が同時につくりだされる。対称性アプローチ
 人間と非人間を関係づける実践が形成する社会。自然と社会は独立してあるのではない
 統計学的に構成された身体+その知というネットワーク→医療環境
現代のホモ・ファベル:道具だけでなく環世界もつくりだす(スマホが創る身体、社会)

[3]呪術
機能主義
 タイラー:『原始文化』偶然を因果関係と取り違えること
 フレイザー:『金枝篇』発育不全の技術
  類感呪術=AとBは類似→Aに働きかけるとBに作用(コラーゲン→肌ぷるぷる)
  感染呪術=AとBは結合→Aに働きかけるとBに作用(オヤジのパンツと洗濯すんな)
マリノフスキー:個人の心理的機能=技術で自然を支配できない時、安心のために使われる
ラドクリフ=ブラウン:構造機能主義=社会統合への寄与
レヴィ=ストロース:野生の思考。キツツキ―歯痛、といった個別物を結ぶ秩序の導入
ANT:より多くのアクターを動員する、より長いネットワークが支える「より固い事実」

[4]異世界
妖術や精霊をどう理解するのか:合理性論争(未開の思考との共約可能性)
機能主義:緊張緩和、社会統合、不安の表現
存在論的転回:「彼らは精霊がいると認識」から「彼らは精霊のいる世界に生きている」へ
 →われわれとの差異を乗り越え不可能にする側面も
グレーバー:われわれにとっても彼らにとってもよくわからないまま実践されるもの
 →「かもしれないもの」としての妖術や精霊。感じ方を共有→そう体が動くように

[5]芸術
「何が芸術か」から「いつ芸術になるか」へ
  芸術家、批評家、美術館など「制度」の中で芸術になる
 さらに、非西洋のモノを芸術にする非対称な権力関係の批判へ
 物質文化研究→新奇なモノの収集、「発展度」の測定(進化主義)
ボアズ:未開芸術。どこにもそこなりの美がある
リーチ:審美的気質はどこにもある。が、未開美術で音楽、詩、造形が未分化
木村重信:民族芸術。美意識、社会の凝集したもの。作品と享受者の関係に重点
モース:全体的社会的事実。全体が渾然一体となった贈与交換から芸術は抜き出せない
ジェル:魅惑するものとしての芸術、社会的行為の媒介としての芸術
制度や境界を越えた関連づけ(生の全体性)に私たちを引き込むものとしての芸術

[6]贈与
モース:クラとトロフィーの類似性
 贈与交換:人と人を繋げる、長期的維持、贈り物
 商品交換:人と人を切り離す、短期的・非人格的取引、商品
 贈与に伴う3つの義務(1)与える(2)受け取る(3)お返しする
 贈り物は霊的な本質の何者かを受け取ること
 負債=負い目。返礼へ向かわせる
サーリンズ:3つの互酬性
 一般化された互酬性:近親者、返礼を求めない。
  ★が、社会の階層化をもたらす力。モノを与えることは威信や格差と結びつく
 否定的互酬性:関係の乏しい相手から多く奪おうとする
 均衡的互酬性:同等なものの交換が期待される
神、死者、国家への捧げ物:税、供犠。聖俗を結びつける
グレーバー:『負債論』交換だけではない。収支計算のない「コミュニズム」、優位者と劣位者の間で慣習的で非対称にやりとりする「ヒエラルキー」もある

[7]交換
貨幣:(1)交換媒介(2)価値保存=価値を将来に持ち越す(3)価値基準=価値を表す
 権力による保証
ヤップ島の石貨:交換相手への信用の記憶媒体としての石貨
 信用に基づく交換。監視された台帳に書き込まれる仮想通貨

[8]国家
政府を持たない社会:ヌアーの秩序ある無政府状態、メラネシアの一代限りの実力派リーダー「ビッグ・マン」
ギアツ:バリの「模範を示す国家/劇場国家」
国民国家:言語・歴史・文化の発明、と、サブ国家レベルの「原初的愛着」の葛藤
アパドゥライ:グローバルなフローの中で単一国民国家は無理。草の根グローバリゼーション、ギャングが保持する「部分的主権」

[9]戦争
権力や富の追求
近い集団同士が戦う「ささいな違いについてのナルシシズム」(アパドゥライ):交換するうちに集団感の関係が深まり、融合へ。成員間に命令する/されるの階層が出現してしまう。各集団が自律的であるために相手と一時的に戦争して関係を断ち切る必要あり(クラストル)=★戦うことで自他の境界を作り出す。近いからこそ戦う
暴力の自律的な再生産
エリートの扇動に乗って戦うことをしない(戦闘員にならない)ことを選択する人もいる

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2019年06月15日 11:39に投稿されたエントリーのページです。

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