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じんるいがく(終)

で、最後は引っかかった部分だけメモりながら土曜を使って一気読み。
400ページに1年かかってしまいました。
でもなんか教科書1冊走り抜けた達成感はある。

去年、(1)のエントリーに書いた「グローバル化によってフロンティアが消滅したら文化人類学はどうやって食ってくの」というお節介な心配には19章以降で少し(少しね)答えてくれたように思います。

あと最後の最後でsociologismという言葉があるってのを知った。
そのSociologyを次は読んでみようかなと。
16年ぶりくらいのメンテということで。

今回読んだ本はこちら。
■Eriksen, T. H., Small Places, Large Issues: An Introduction to Social and Cultural Anthropology (4th ed.), Pluto Press, 2015.

* * *

19. Anthropology and the Paradoxes of Globalisation

・文化帝国主義、グローバル化、植民地主義、国際貿易、宣教師、技術、移動手段の高度化、国民国家の覆い→20世紀前半の文化人類学者は既に「未開」の文化の消滅を懸念
・1960-70年代のurgent anthropology:消え去る前に記述せよ、という緊迫感
・近年の懸念:社会間の接触の増加による複雑な関係が生成していること

▽それからどうなった
・植民地時代に研究された人たちは今、グローバルな経済、文化、政治の一部に
・国家が暴力を独占することで征服されることはなくなった
  が、採掘産業やプランテーション、宣教活動の侵入などが問題に
・アザンデに広がる賃労働者化、しかし魔術などの制度は残存
・ヤノマミは居住地内での金発見でグローバル経済に包摂
  先住民としてのヤノマミを世界に伝えるプロのスポークスパーソンも登場
  ただし多くは今も採集民(貨幣経済の重要さは増しているが)
  はしかの蔓延など困難も
・フランス統治下のマリでドゴンは敵のフラニから守られていた
  が、干ばつや人口増加に悩まされた
  現在はほとんどマリの国家に包摂され、通学やワクチン接種、仏語教育も享受
  イスラムによる文化変容も重要→ムスリムのフラニと平和的接触が可能に
・スーダンのヌアーとファー:内戦の影響
・トロブリアンド諸島では近代化により政治組織、経済、アイデンティティの政治に変化
  一方、親族システムや交換システムはいまだに機能している(重要性は低下したが)
・巨大なシステムとの接続でどうなったかがローカルの研究のスタート地点に
  →グローバルなシステムのさまざまな地点、レベルでの歴史的展開が主要課題

▽世界文化?
・文化的エントロピー(マリノフスキー)、文化グローバル化、クレオール化、雑種化、西洋化
  →「グローバル時代」にどうアプローチしたらいいのか
   グローバルとローカルの関係にどうアプローチしたらいいのか
・グローバル化:みんな同質になったのではなく、差異の表現方法が変わったとみるべき
・近代:WWI後、資本主義、近代国家、個人主義が人間存在にとって意味するところ
  →WWII後にその拡散は加速する
・最近数十年は、人、もの、アイデア、イメージの流れが全球スケールで加速
  時空間の圧縮(ハーヴェイ、1989)
  →空間が諸文化のバッファとなりえなくなった
・文化人類学も理論、方法の水準で複雑な課題に直面することに

▽近代化とグローバル化
・近代社会はそれぞれ違いがあるが、近代性には普遍性がある
  国家と市民権
  法制定権力や暴力の国家独占(ただしボコ・ハラムのような抵抗例も)
  賃労働と資本主義、資本が国土に縛られなくなる。半面、「南」の経済的従属
  貨幣=市場経済→持続可能な生産の優先度が下がる
  政治と経済が抽象的なグローバル・ネットワークに組み込まれる
  →どの個人もネットワークに決定的な影響力を行使できなくなる
  →単純な因果関係が描けなくなる(バタフライ効果)
  グローバルとローカルの接続(気候変動、原発事故)
  国連やNGOの道徳、政治的影響、ただしサンクションを与える力はまだ弱い
  AIDSの拡散にもグローバル化が顕現している

▽グローバル化の諸側面
・脱埋め込みDisembedding。距離が問題にならなくなる。社会生活が場所と切り離される
・加速Acceleration。輸送や通信が速く、安くなった。「遅れ」が意図せざる結果に
・標準化Standardisation。標準化と比較可能性。英語、モール、ホテルチェーン
・相互接続Interconnectedness。人々のつながりが濃く、速く、広く。国際ルールの要請
・移動性Mobility。あらゆるものが動く。移住、出張、国際会議、ツーリズムの増加
・混交Mixing。文化間の接点が増え、大規模に、多様に
・脆弱性Vulnerability。国境の希薄化と国際協調の重要性。病原体、テロリスト、温室ガス
・再埋め込みRe-embedding。上記諸傾向への反発。道徳コミット、アイデンティティの政治
  加速化にはスローカルチャー、標準化には「一点もの」、相互接続にはローカリズム、
  文化的純粋性の追求、脆弱性には自己決定、国境管理の再強化
  国際貿易の深化は都市スラムの拡大、移住は文化的再活性化も伴う
  →グローバル化はこのように弁証法的なプロセスである

・「ワールドミュージック」:非欧州の音楽家を欧州でフィーチャー、スタジオや電子楽器使用
  オーセンティックとは何か?という問い、欧州の音楽家が演奏した際の著作権、
  アフリカ音楽に対するJBの影響、「ワールドミュージック」内部の差異の不可視化
  実際はアフリカで聞かれていない「ホンモノのアフリカ音楽」、強く政治的な歌詞

▽グローバルな過程をローカルに受け止める
・ある地域でのイベント(米大統領選、オリンピックなど)は即座に世界で言及される
  が、拡散されない地域もある
  受け止め方もさまざま。Vogueは熱帯とパリで違う読まれ方をする
  南→北、という情報の流れもあり

▽ツーリズムと移住
・旅行、出張の増加
  →ホテル、空港、ビーチは文化と文化を架橋する「第3の文化」か?
  文化を観光化するサブサハラ
・移住をみる視点
  (1)ホスト国でのマジョリティとマイノリティ
  (2)ホスト国、母国での文化・社会組織
  (3)視点間の比較。ホスト国には「必要悪の労働者」、本人・本国には「外貨の源」
・どちらにしても誰もが「グローカル」
・「西洋文化」という言葉ももう不正確
  7~10億の人は一つにまとめられないし、他地域にも「西洋っぽい都市」はみられる
  →「近代」のことか?
・移住と文化アイデンティティ
  Nevis研究:移住先でのアイデンティティ確立
  純粋性、本来性authenticityの希求
  ポスト伝統(ギデンズ)時代、伝統はなくなるのではなく選択し、擁護するものになる

▽流離exileと脱領土化
  悪魔の詩:移動の途上。いかに世界や真理が違った場所では違って見えるか
・アパデュライAppadurai(1990)によるグローバルな文化流動の5側面
  (1)ethnoscape。人々の布置
  (2)technoscape。技術の布置
  (3)finanscape。資本の流れ。以上がインフラ。ただしどう動くかは予測しがたい
  (4)ideoscape。イデオロギーやメッセージの布置
  (5)mediascape。マスメディアの構成
 ポイントは脱領土化。
・帰結
  (1)流離する人口の増加
  (2)意識的な「(居)場所」の構築(自明でないからこそ)
    ロンドンでのNevisのようにネットワークあるいは結節点として構築されるかも
    意味づけも誰が見るかによって変わりうる(Rodman,1992)
  →遠隔ナショナリズム(アンダーソン)

▽人類学の帰結
・「伝統」と「近代」を経験的な意味で使えなくなった(●分からない)
・「社会」や「文化」が閉じたものとして扱えなくなった
・システム全体を描くことが難しくなった代わりに、フットボールやツーリズムなど個別の現象を分析する面白さが出てきた
・フィールドワークに加えて、幅広い文脈(統計、報道など)を参照する必要が出てきた

▽モダニティの土着化Indigenisation?
・マクルーハンの「グローバルビレッジ」:調和的というより、紛争を孕んだものとして描出
  相互行為と匿名性、ミクロとマクロの水準の混合
 →グローバル化の中心的なパラドックス:世界は小さくかつ大きくなった
 →民族・文化的断片化と近代的均質化の同時進行(フリードマン)
・サーリンズの「モダニティの土着化」。ナショナリズム、伝統主義
  cf.ソロモン諸島での母系→父系社会への移行。そのほうが土地所有権と整合する
  (Hviding,1994)

▽2つのローカライズ戦略
・フランス出稼ぎのコンゴ人les sapeurs:お金をためてフランスで服を買い、故国で消費を誇示。もともと権力のない出自だが、グローバルな消費文化を利用して地位を誇示する
・アイヌ(Sjoberg,1993)。日本政府に先住民族として認められるために、文化をコモディティ化・観光化し、(グローバルな)マーケットで価値のあるものとして売り出した

20 Public Anthropology

・アカデミアの外に向けた人類学
  一般向けの出版、政策提言、国際的な対話
・20世紀の制度化、WWII後の研究人口増→アカデミアへの引きこもり、自律
  ただ、ボアズのように人種差別的な偽科学批判をした人も
  多くの一般向け著作を残したマーガレット・ミードも
・イラク、アフガン侵攻のための「便利な」学問と見なされた経緯
  米軍やNATOにはエンベッド人類学者
・では、一般の人とのかかわりで何を目指すべきか?
  文化・グローバル化批判?研究対象の擁護?
  ハーバーマスの「3つの知識」:技術的、実践的、解放的
・ex.ノルウェーのrussefeiring(卒業生のどんちゃん騒ぎ)に対する新聞コメント
  →自分で組織する「通過儀礼」だとの説明
・ex.ノルウェーロマに関するコメント
  →賃労働を忌避するノマドの文化からの説明
→わからないものを文脈に位置付ける。道徳的な判断をするものではないが
・ex.移民政策
  →入ってくる側の視点から見たらどうか、という説明
→議論を方向付けはしないが、方法的文化相対主義からより多角的な検討を可能に

Epilogue: Making Anthropology Matter

・フィールドで道徳的に許されないことを見たら、それを外に伝えるべきか?
  たぶん、してもいい。ただし論文とは別の形でやる手はある
・自分の参加している社会を観察する:sociologism
  何でも社会学や人類学の枠組みで理解してしまう傾向
  芸術、文学、愛、美などを純粋な社会的産物として見る
  →世界は興味深い/深くない「現象」の束になってしまうのでは
・人類学は「他者」を扱うが、それは自己を反省的に眺める契機でもある
・単純化ではなく、より世界を複雑にする仕事なのかも
・人生の意味を教えてはくれないが、人生を意味あるものにするさまざまなやり方を教える
  答えをくれないかもしれないが、大きな疑問にかなり迫った感覚を与えてくれる

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2017年07月01日 19:48に投稿されたエントリーのページです。

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