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平和のための戦争論

■植木千可子『平和のための戦争論』筑摩書房,2015年.

毎日のことにかまけていて集団的自衛権と安保法制のことを見聞きする機会を持っていませんでした。そのため、2014年7月の解釈改憲から1年以上のビハインドがあります。そこで、夏休みの旅行の移動時間を利用して基礎的なところだけ新書で読んでおこうと思い、荷物削減のために電子書籍を購入しました。
持ち運びがかさばらないのと、タブレットでもスマホでもそのとき手近な機器で読み続けられるのは便利です。一方、読み終わったあとにぱらぱらめくってさらうのが依然やりにくいと感じるのと、機器を落っことさないか、いつも頭のどこかが緊張しているのがちょっと。

で、本書は大変遅ればせながら読んでよかったです。
この辺分かっておかないと、叫んでる人の中でまともなのは誰か、まともな人はどうして叫んでいるのかを分かる足がかりが得られません。

-----以下、メモ-----

【2014年7月の閣議決定】

・集団的自衛権行使の容認の閣議決定が2014年7月に行われた
・内容は3つ
 (1)有事でも平時でもない侵害(グレーゾーン事態。離島への上陸など)への対処
  *いつグレーゾーンか?いつそこから有事になるのか?手続きは?
  *グレーゾーンで武力行使が認められるか?警察権に基づいて自衛隊が出せるか?
 (2)国際的な平和協力活動(駆けつけ警護。基地を出て自他国NGOなどを警護)
 (3)武力行使に当たりうる活動(日本と密接な国がやられたら日本も危ないとき)

・それ以前は、日本が戦争するのは、日本が直接攻撃された場合の反撃に限られていた
・武力行使の旧「3要件」
 (1)日本に対する急迫不正の侵害がある
 (2)排除のために他に適当な手段がない
 (3)必要最小限の実力行使に留まること
・新3要件の(1)
 (1)日本への武力攻撃、または日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃
  によって日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求権が覆される
  明白な危険がある

・集団的自衛権の行使により、日本は攻撃されていなくても戦争に加わることになる
・参戦するか、しないかの判断を迫られる局面が来る
 *「憲法解釈上できるけど、やりません」という選択肢を取るか?という局面も
 *ex.中国とフィリピンが南シナ海で紛争を起こしたら、関与すべきか?
・この転換は、孤立主義から国際主義(自国以外の地域での虐殺や人権侵害に介入する)への転換と見ることができる
 →助けてもらうためだけでなく、助ける義務も生じる

・必要性
 (1)紛争地域から避難してくる日本人などを守れない
 (2)アメリカが困ってる時に守らないと日本が困っても守ってくれない=味方を作ること
  *ただし、恩義に感じてくれるか?/戦争参加で事態改善するか?に注意
 (3)協力が増強する
  ・国際社会では軍事的貢献が評価される。cf.湾岸戦争
  ・平時の情報収集、共同訓練等
  *ただし、これが有事の際の政治決定を縛る危険性も
  *抑止につながるかもしれないが、対抗措置を生む危険性もある

【背景】

・米国が考える冷戦後の世界秩序
 (1)民主主義の拡大
 ←ドイルの民主平和論。民主主義国家同士は戦争をしないという歴史的事実
 (2)米国の覇権維持
 90年代初頭の米国は、日本が依存から脱却して独自の安保政策を進めると予想していた
 →日米安保の再定義
 軍事的には、コモンズ(海、空、宇宙、サイバー空間)の支配
 →コモンズの安全により国際システムが安定する+米国依存が実現する

・しかし、アフガン、イラク戦争による財政疲弊などでアメリカの力は低下している
・一方で、中国が台頭。国民が政府の決定を縛れる仕組みになっていない
→台頭国は現状維持に協力するか/挑戦するかの選択に直面する
→両国とも核保有していることに注意。これまでと違う覇権交代になるかも

・「厳しさを増す日本の安全保障環境」:実はそう厳しくない、そこが厳しい
 (1)北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルの開発はどうか?←軍事バランスは韓国が優位
 (2)中国の軍備増強は?←まだ日米を脅かすほどではない
 *世界も脅威とまでは見てないかも。日本-(歴史+領土問題)の立場を想像せよ
→米国に日本を守る自明の理由を欠く
→米国の日本防衛へのコミットメントが減ると周囲から見られてしまう危険も増す
→日本側から同盟をつなぎ止める努力。また、米国の力の低下に対する補填

・大前提:紛争予防が目的であること
 作用がどんな反作用を呼ぶか?
 行動の結果、安全になるか?
 →日中関係に割かれている労力は適正か?

【戦争が起きる/戦争を予防する仕組み】

・楽観:戦争は両当事国が「(短期で)勝てる」と思ってしまうことで起きる
 (1)予測が間違っている←軍事的な力の見積もりは難しい
 (2)わざと間違える←負けるかも、という予想が認められない組織。1941日本
・焦り:先手必勝/早い者勝ちに見えてしまうと、状況が不安定化しやすい

・戦争の予防:水晶玉効果。未来がくっきり見えるようにすること
 →割に合わない=代償が大きい、と事前に分かること
・抑止
 (1)懲罰的抑止=攻撃したらひどい目にあうぞ
 (2)拒否的抑止=攻撃しても守りが堅いから無駄だぞ
・ただし、抑止力の増減や、抑止の成功は見えない
 (侵入されなかったのは番犬がいたからか、いい人だからか?両方の混在があり得る)
 失敗して初めて抑止が効いていなかったことが分かる
・抑止の成功の条件
 (1)報復や拒否する能力があって、それを使う意図がある
 (反面、強化していくと妥協しにくくなる。対立が深まる可能性も)
 (2)能力と意図があることを、正しく相手に伝えられる(交流やホットライン大事!)
 (3)状況に対する認識を両者が共有している
 (越えてはいけない一線がどこかが共有されている。湾岸戦争勃発ではミスあり)
・確実性は:核抑止>通常兵器による抑止>小規模侵害(離島への上陸など)の抑止
・抑止が相手を怯えさせて安全保障のジレンマに陥る可能性もある

・安全保障のジレンマ
 軍備を強くする→対抗措置(相手の軍備増強、同盟)を誘発→状況が不安定化
・ジレンマ激化の条件
 (1)攻撃が防御に比べて有利、早い者勝ち状況
 (2)攻撃と防御の区別がつきにくい(多機能な戦闘機の増機)
 (3)地理的条件。陸続きのほうがジレンマ起きやすい
 (4)もともと不信感がある
・日米中でジレンマは実際に起きた
 米国90年代の日本脅威論、日本の同盟不要論→日米同盟の漂流
  →同盟管理者の努力→96年の安保宣言、97年のガイドライン見直し
   →台湾海峡危機にバッティングし中国を刺激「敵はウチか!?」……

・「リベラル抑止」:軍事力と相互依存を組み合わせた抑止
 戦争をすると損だという状況を友好関係の維持によって作り出す
 ←貿易、留学生や観光客の往来、技術革新、環境問題やテロ対策など共通の問題……
・「英独は貿易のお得意さんだったが、第1次大戦は起きたじゃないか」
 ←当時と現在の違いは、国際的な貿易協定(長期的な枠組み)があること。
  制度化によって水晶玉がクリアになる。担当者が決まることも良い

【日本の選択肢】

(1)現状維持
 ○ 変化に伴う不安定化を引き起こさない
 × ジリ貧。世界が全般的に不安定化していったら……

(2)非軍事的国際主義:防衛政策はこのまま。民生的協力活動やODAの増額
 ○ 変化に伴う不安定化を生まない。国内的支持も得られやすい
 × 即効性がない。長期に予算をつけられるか。各地が不安定化すると継続が難しくなる

(3)軍事的孤立主義:防衛には積極的に軍事力を使う。他国やPKOには原則非関与
 ○ 他国の紛争に巻き込まれない。米国への依存度減。シグナルは明確
 × 軍事増強で周辺の警戒を呼ぶ。歴史認識の和解などに相当のエネルギー要する

(4)積極的軍事的国際主義:安保理決議に基づいて積極的に軍事力行使→集団安全保障
 ○ 米国の停滞を補填しつつ安全保障のジレンマを回避。日本も守ってもらえる
 × 集団安全保障の確立までには不確実性が大きい。防衛費が多大になる

(5)限定的軍事的国際主義:国連決議に基づき、民族浄化など相当ひどい件に限って関与
 ○ (4)に比べてコストが安い。他国との協力も促進
 × 防衛費は増。日本防衛に直結かは疑問。周辺諸国の理解必要。世論は支持するか?

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2015年09月13日 17:13に投稿されたエントリーのページです。

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