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脳とセミコン

■池谷裕二『単純な脳、複雑な「私」』講談社、2013年。
職場に転がっていたブルーバックスです。
脳科学の研究者が出身高校でやった講義を書き起こしたもの。

脳(というか意識)は体の隅々まで統括するリーダーではなく、頭蓋骨の中の暗い部屋で感覚器から上がってくる情報をモニタで確認しながら、外で起こっていることをうだうだ想像してはストーリーにまとめる孤独なアームチェア文筆家のようなものらしい。経験の蓄積に基づいて素早く反応を返すような直感的な作業は隣室の秘書「無意識さん」がこちらに相談もせずぱきぱきと片付けてくれる。自分は暗闇で悶々と考えている。世界というのはそうやって作り上げたストーリーのことであって、それ以上ではない。でもそんな仕事ぶりだから、結構間違えたり騙されたりする、そんな愛らしいうかつさも持っている。

脳から見た世界ってどんなものなのか?脳を外から見るとどんななのか?それを実験を通じて明らかにしていくと、これまで数千年にわたって優秀な脳たちが考えてきたいろんなアイディアを考え直すきっかけになる。
自分が正しいと過信しないで、すべては誤っている可能性があるという前提を受け入れよと求める可謬主義も、まあなんか道路の速度規制みたいなもんかと思っていた。けれども、記憶や信念というものがかなり捏造されやすかったり、外部からの入力に引きずられたりしがちなことが実験的にも示されてしまうと、もっと大事にせないかんなと思ったりする。
ヒュームも、脳に与える刺激を工夫すれば感覚から情動から幽体離脱まで作れてしまうことを知ったらドヤ顔して見せるかもしれん。
行動しようとする意志より先に、実は脳が行動の準備を始めてしまっているとなると、自由意志を再定義しなくちゃいけなくなる(実際、本の中ではそれを試みている)。
入力された信号が一定の強さを超えると出力する、そんな単純なデバイスであるニューロンと、それらのネットワークと、たまに生じる入力信号のノイズ。それだけの集積がかくも複雑な「心」を形づくっているとしたら、逆にベンサムが夢見たような「幸福」の測定だってできるような気がしてはこないか。

いや、著者は全然そんなこと言ってませんけど、読みながらいろいろ空想してました。
ひさびさに通勤時間が飛ぶように過ぎる、おもろい本でした。

たまたま今日、某所で理研脳センターの宮脇敦史さんの講演を聴きました。光るタンパク質を使った生体のイメージングをやっている方で、生物の発生の過程や脳の深部の探検など、動画をガンガン使い、アングルをぐるんぐるん変えて見せながら聴衆を引き込んでいく、魅力的な講演でした。
わりと高齢の理系出身者が多い会場でしたが、最後のQ&Aセッションで質問に立ったじいちゃんが「この講演を学生のときに聴けていたら……」と切り出していたのが印象的でした。社交辞令じゃなくて、たぶん本当にそう思ったんだろう、そういう口ぶりだった。
研究に没頭して新しい知識を作り出すのも大切だけど、学生でもじいちゃんでも、誰かの心にイベントを起こすことも意義深い仕事。できる人はやろうぜ、アウトリーチ。そんなことを思いました。

■西久保靖彦『最新 半導体のしくみ』ナツメ社、2010年。
ちょっと必要がありまして一気読み。
半導体って言葉がいっぱい出てきて難しいなあと思っていたのがうまく整理されました。
恥ずかしながら発光ダイオードがどうして光るか、やっと分かった。
本当は「more Moore/ more than Moore/ beyond CMOSって何?」というのが知りたくて手に取ったんですが、そこは特に言及なし。でもま、いいか。

* * *

北海道の3泊4日で食生活が荒れてンコの量が減り、色が黒くなり、水に沈むようになってしまっていたため、帰ってきてすぐに普段より野菜をいっぱい食べて2日半ほどで元に戻しました。緑黄色野菜も大切だけど、キャベツの威力がすごいな。

コメント (2)

okame:

まじですか。
Take care ですね。キャベツさまさま。私もあれから意識して食しております。

管理人:

ですね。野菜重要です。

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2013年09月20日 23:59に投稿されたエントリーのページです。

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