■友野典男『行動経済学―経済は「感情」で動いている』光文社新書、2006年。
情報も時間も限られた中でいろんなことをサクサク判断していかなきゃいけない、というのは生きるにおいてよくあることです。人は自分の経験や現状に引きずられ、冒険を避け、ずるい人にイラっとしたり、いいことをして良い気分になったりしながらいろんな選択をこなし、多くの場合はそれでうまくいき、しかし時々間違えたり騙されたりするわけです。
そうした心の構造がわかってみると、感情を持った「現実にいる人」というのが、ただ自分の利益を最大化しようと行動するだけの「経済人」とどれほど違うかが定量的にわかってくる。
多くのトピックと例示を使って、心理学と経済学の幸せな結婚を垣間見せてくれる、そんなよくできた本です。
ふむふむと読んでいると、政策的な含意もいっぱい浮かんでくると思います。
人の心に損失を利得より過大評価するという傾向があるとすれば、私刑を許すと必然的に復讐の連鎖を引き起こすことがわかりますし、年収350万円が400万円になる人生が、年収500万円が450万円になる人生よりうれしいなら、なんで超低成長時代が落ち着いた気分ではなく悶々とした気分を蔓延させるのか腑に落ちる気がします。
閑話。
いつかの集まりで、社会学の人がうっかり「経済学は合理的なプレイヤーを想定していますが、実際はもちろんそうなってなんかいないわけで」と口走ったところ、経済学の人が「そんなことくらい社会科学の女王たる経済学は既に織り込んでます」とツッコムというアレレなやりとりがあり、かばんの中に読みさしのこの本を持っていた自分は梅干しを食べたような顔をしながら見ておりましたのでした。休題しないまま終わり。