■小林和之『「おろかもの」の正義論』ちくま新書、2004年。
カミサマとかエライヒトに「正しさ」の権威付けを求めない場合(=そこからあてのない自由な探求に出発するのが「おろかもの」なのかな)に、「正しさ」というものをどう考えたらよいか。
11章構成で、その多くは脳死・臓器移植、死刑、環境問題と南北問題など具体的な問題を取り上げています。
そのひとつひとつは詰め方に食い足りないところはあるけれども、とても考えさせられ、多くの人にとって新しい視点をもたらしてくれる評論だと思います(非趣味読書のつもりで読み始めてはいないのですが、脳死・臓器移植についてはこれまでのもやもやした感じに言葉を与えてもらった)。
ただ終盤にさしかかったあたりで「ところで、正しさってなんだろう」という疑問をふと抱いてしまう。あらゆる具体例から離れた短いまとめが最後にあったらよかったと思うのですが。
読後感の中にうすぼんやりと浮かぶのは、正しさとは人にやさしくということだ、というような印象です。いや、そもそも「正しいいうのはこういうことだ」ということを指し示す本ではないのでしょうが、正しさということを、この本を通じて少しブレイクダウンすると、そうなるのかもしれない。これが合っているかハズレているかはよくわかりません。
それにしてもこの著者、CiNiiとかAmazonとかで探してもこれっきりまったく文章を発表してる形跡がないんですが、どうしたんでしょうか。ウェブサイトも持っているようだけど出版後に更新止まってるし。