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排除型社会

■ジョック・ヤング(青木秀男他訳)『排除型社会―後期近代における犯罪・雇用・差異』洛北出版、2007年。
Young, Jock. The Exclusive Society: Social Exclusion, Crime and Difference in Late Modernity, London: SAGE Publications, 1999.

「安定的で同質な(そして安定性と同質性を求める)包摂型社会」から「変動と分断を推し進める排除型社会」への移行と、排除型社会を「犯罪」の観点から照らし出そうという試み、ですかね。

個人主義と市場の浸透が進んだ20世紀の後半3分の1の時期。経済的には成長が終わって格差や所得の不公正分配が進み、社会的には規範が不安定になったり小集団ごとに分かれるようになったりして、社会の見通しがきかなくなったという。

そのなかで、メディアなどを通じて広がる「努力と成功」みたいなイデオロギーと不公正分配が結びつくことで「相対的剥奪」の感覚が蔓延し、あるいは入り組んだ小集団の中でアンダークラスなど弱い立場の人々を道徳の欠如などと結びつけ、それをわれわれとは違う本質を持った人々と決めつけ(悪魔化し)て排除する、そうした背景を排除型社会の犯罪は持っているとみる。

そうした犯罪問題の病巣を叩こうにも複雑に入り組んだ社会の中でそれは特定しにくいためか、あるいは特定できたとしても叩けないほどがっちりと根を張っているかしているためか、結果として犯罪に対する反応は、リスクを回避するための計算と設計を施す「保険統計的」な態度になってくる。

結局、筆者が最後に描く処方箋は、上のような分析結果のそのまま逆をいくものになる。
個人や集団の本質化を解除し、アイデンティティが流動し・溶け合うものだととらえること。リスク計算と排除ではなく、分配の公正さを回復すること。「昔はよかった」と包摂型社会に戻ろうとすることではなく……

・500ページ以上あるんですけども、訳がいいのでガツンガツン読めます
・「それって新しいのかね」という疑問はあり(でも、相対的剥奪ってこうやって使うんだー、と勉強になった)、また「実証もあんましないよね」という気もしますが、評論としてはとても根底的・多角的に考えてあって面白いです
・9.11以前に書かれた本なので、このあと続編的な本に進みたいと思ってます

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2009年06月05日 10:09に投稿されたエントリーのページです。

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