パロマの湯沸かし器事故の問題は、飛ばし記事や論点の拡散で結構わかりにくくなってきてると感じてます。自分も専門的知識はありませんが、報道などから得た情報をもとに、この問題をメモがわりにちょっとまとめておきたいと思います。
(1)不正改造による事故
ガス器具の動作の制御を行うコントロールボックスが壊れる
→器具が動かなくなる
→修理を依頼する[ユーザが自分でやったケースは現在のところ確認されていない]
→修理した人が、部品の換えを持っていないなどの理由で配線を換えて、コントロールボックスの動作が関係なく燃焼が起こせるようにする
→安全装置が動かないまま運転ができるようになる
→経年劣化でファンが弱ったり、排気口が詰まったり、風の吹き方が悪かったりして排気が戻ってくる
→不完全燃焼が起きる
→COが発生するが器具の動作は止まらない
→事故に至る
これらの機種は1980年、81年に発売されましたが、それまでの機種になかった安全対策が施されているということで当時の家庭用としては最先端の湯沸かし器だったようです。
バイメタルという2種類の金属の熱膨張率の違いを利用した安全装置を導入したわけですね。つまり室内から取り入れた空気を使って燃焼させ、排気を屋外に出すこの器具を使っていて、不具合で生じた熱い排気が逆流すると、排気筒の温度が通常より上がってしまう。
回路の途中に仕込んであるバイメタルは排気筒の中にあるので、そこの温度が上がるとぐにゃっと曲がって回路から離れる。そうすると電気が流れなくなり、ガスの弁が閉まって不完全燃焼が止まるというわけ。
こういうある意味単純な仕組みなので、使ってるところの温度とかバイメタルの位置などの条件によってはすぐに安全装置が働いて器具が動かなくなってしまいます。
もちろん安全装置が壊れた場合にも動かなくなりますけどね。
それで呼び出された修理担当者がもし安全装置を経由しない回路を作ってしまった=”不正改造”した場合。これはせっかくこの機種が売りにしていた安全性を無効にしてしまうことになります。
なんでそんな単純な安全装置を!今の時点から見れば思うかもしれません(今はバーナーの火の色をウォッチしていて、不完全燃焼で炎の色が青から赤にかわると反応するなどいろいろと進んだ安全対策がされているようです)。でも当時の視点にたってみれば、これはものすごく安全性を向上させた、いい器具だったということです。
また、この安全装置が壊れたとか不具合を起こした場合でも、結果は器具の燃焼ができない、というユーザにとっては安全な方向に事態が進むことになります。フェールセーフという考え方で、これはむしろ「安全装置が壊れたことで不完全燃焼が起こっても燃焼が続いてしまう」というような危険な設計とはまったく逆方向の、安全設計だといえます。
では、こういうのはそもそもリコールにならないのか?
排気ファンやガス弁の動作などをつかさどる(=安全にかかわる)コントロールボックス内の「はんだ割れ」が多発していたと指摘されていますが、これは「故障が多い」という品質管理の問題であって、回収するかどうかはメーカーの判断次第です。
上に書いたように故障が(それに対応しようと不正改造されない限り)ユーザを危険にさらすわけではないので、危険回避のために回収をしなければならないということにはならないようです。
だからこそパロマはあえて危険をもたらす「不正改造」を事故の元凶としたし、コントロールボックスの故障については交換や修理で対応していた。それ自体は正しいのではないでしょうか。
ただし、ここで全く落ち度がなかったというとそうでもないと思います。報道によれば発売から2年ほどで故障が相次いだようで、これは品質管理としてはまずい。さらに故障対応として不正改造が行われ、それがもとで事故が起こったケースを把握した時点ですぐに「一般ユーザに向けての広報」をするべきだった。修理を委託していた業者対象には周知をしていたようですが。
この不正改造は電気で動かしているコントロールパネルが無効にされてしまう改造なので、コンセントを抜いても燃焼が続くようであれば改造がされてしまっていることが見抜けるわけです。そういう簡単なチェック方法は、ユーザが事故発生を知って不安を抱けばすぐにできるし、やるであろう方法です。専用の相談窓口を作り、広告を出すことですることで業者の目の届かないところで行われていた改造も発見することができたはずです(結果的にそれが事故を起こさないまま買い換えられていたとしても)。
(2)不正改造がないのに事故が起きている場合
(2-1)使っているうちに生じる事故
使っているうちに室内に置いてある本体の吸気口が、台所で生じる油汚れ、ゴミや虫などによって目詰まりをしていれば、酸素が足りなくなって不完全燃焼を起こすでしょう。これは排気筒内の温度上昇とは全く関係ないので安全装置は働かないままCOが流れ出すケースです。
あるいは点火に失敗したのに気が付かず、ガスが流れ出していても危険は大きいかな。排気筒が外れかかったりしていても健康被害は出そう。
主には保守点検やユーザの使い方の問題ではないかなと思います。
(2-2)未知の欠陥があって生じる事故
パロマが「調査中」「不明」としているいくつかの事故の調査が進んでも、どうしても(1)や(2-1)にあてはまらないケースが出てしまうこと。今の時点ではこれが一番恐い。コントロールボックスなどの中に誰も気付かなかった欠陥があって、そのせいで事故が起きていた可能性。
でもこれまで警察も消防もパロマとともに鑑定・調査し、いくつかあった裁判でも見つからなかったので、可能性は低い気はします。
こうやって見ると、結局、この件で一番まずかったのは(1)で書いたとおり、広報不足。これはパロマと当時の通産省の責任でしょう。
事故が起きた80-00年代の、そのときどきの技術水準と、商品の安全に関する企業や消費者の意識。それを考え合わせて、そのときとしてはできることをしていたのか、そのときとしても甘く見ていたのか。これはもう少し調査が進まないとわからないことですし、そこまで行き着かないうちに下火になると思いますけど。