「性差別主義者でなければ皆フェミニスト」「フェミニズムを勉強することは大切ですが、生半可な勉強ではフェミニストと名乗ってはいけないということはありません」(p.10)という戸口の開放から入る。実際は奥深いし、貫徹するのは大変なのだけど、ぶん殴っといて「何で痛いか分かるか!?」と凄むみたいな本ではなかろうと俄然読む気が起きたのでした。
環境問題とかもそうですけど、歴史は繰り返す系の分野だと「いきさつ」を知っておくというのは大事だなと思います。相変わらずぼこぼこ浮上する問題たちの解決モデルをあらかじめ手近に引き寄せておけること、歴史を背負った用語とバズワードを見分けられること、カリカリしがちな人たちとお話できるようになること、あたりか。ブックレットくらいの大きさですが、知らないことがいっぱい書いてあって、弊管理人にとってはためになりました。
会社の図書室の新着本をかっさらうという最近のパターン。つまり買ってない。しかしこれは買って持っておいてもよかった。ごめん。このタイトルからすると続編が出るのだろうか。
■北原みのり編『日本のフェミニズム since1886性の戦い編』河出書房新社, 2017年.
▽原点:東京基督教婦人矯風会(矯風会)
・矢島楫子ら56人で1886年設立
・公娼と妾の廃止、禁酒を要求
・シスターフッド:慈愛館を設立(1894年、大久保百人町)。遊郭から逃げる娼婦の隠匿、就職支援、シングルマザーの自立支援など実施
・現代からは「性産業で働く女性を見下した保守的な運動」との批判あり(ex.雑誌「婦人新報」に「醜業婦」という表現も)
1. 日本のフェミニズム
・定義:「社会的、政治的、経済的に両性が平等だと信じる者」(アディーチェ)、「性差別主義的な抑圧をなくすための戦い」(フックス)、「性差別主義者以外」(三浦まり)
・第1波:男女同権を目指す。財産所有、政治参加、離婚、親権……
明治時代には議会傍聴、政治結社への参加を解禁する法改正を要求
大正以降は政治参加、選挙権(衆議院通過したが貴族院で否決)
→選挙権は1945年に実現(ただし植民地出身男性からは剥奪)
1946年に39人の女性代議士誕生(だが2017.10でも47人)
・廃娼運動:貧困と性差別の凝縮。国家建設と軍事化から生成
1956年、売春防止法で一応の成果
しかし売春の恐れをする女子の補導、保護更生。買春の責任は不問
・第2波:1970年代。ウーマン・リブの時代
男性支配の社会構造(家父長制)からの解放。「個人的なことは政治的なこと」
性規範の変革・性解放もテーマ
中ピ連。ピンクのヘルメット、ミニスカ。「嘲笑」というバックラッシュ形態の顕在化
リプロ。1972-1974年、経済理由の中絶禁止、障害を持つ胎児の中絶を可能にする「胎児条項」を入れる優生保護法改正の動きへの抵抗。女性団体、障害者団体の抗議で阻止
1975年、世界女性会議(メキシコ)
1977年、アジアの女たちの会(日本人男性による買春観光への反対)
※1973年、第1回日韓教会協議会での「キーセン観光」告発~慰安婦問題へ
・制度化(第3波):1980~1990年代
1979年、女性差別撤廃条約の採択
1985年、日本が批准→雇均法、家庭科の男女共修、国籍の父母両血統主義化
1986年、土井たか子が社会党党首
1989年、マドンナブーム。自民も野田聖子を擁立(女性代議士がいなかった)
1995年、第4回世界女性会議(北京)、北京宣言と北京行動綱領
1999年、男女共同参画社会基本法
2001年、内閣府に男女共同参画局、DV防止法(議法)
・バックラッシュの時代
1997年、「つくる会」~歴史修正主義
慰安婦問題(1991年、金学順)ではアジア女性基金めぐり運動も割れる
※慰安婦制度は公娼制度が基礎なので、日本フェミの核心的論点といえる
ジェンダーフリー(北京会議~)批判。内閣府の使用差し控え、図書撤去
・現在
2016年、トランプ当選~ウィメンズマーチ
痴漢、セクハラ、女子力、保育所、家事育児分担
憲法24条改正(家族制度の強化)、少子化対策、2017年性犯罪の厳罰化後も残る課題
2. 廃娼運動
・戦前日本の人身売買。家の没落→遊郭への身売り→借金返済(年季明けへ)
娼妓(政府公認、遊郭で売春する女性)、性病検査義務づけ(客を守るため)
芸妓(三味線や歌、踊りが本業だが売春もする)
・借金返済はなかなか進まない(吉原では3/4が店の収入とも)
1900年、廃業の自由を認定。しかし借金返済は残った
森光子(遊郭から脱出、廃業達成)『光明に芽ぐむ日』(1926年)
・近代には遊郭は「貸座敷」へ。娼妓が場所を借りて自前の商売をする体裁に
・1886年、矯風会→1894年、慈愛館
・地方矯風会も順次設立、1920年代には廓清会と帝国議会、地方県会に廃止請願
・1916年、大阪飛田の遊郭建設に大阪支部(林歌子ら)が反対運動(失敗)
・1920年代は公娼制度批判が高まった(男の浪費批判)が、遊郭での買春も大衆化した
・1921年、婦人及児童の売買禁止条約。21歳未満の女性の売春勧誘禁止。日本は違反
・1931年、国際連盟の東洋婦女売買調査団による追及。政府は「自由意思による」と反論
・日中戦争以降、日本軍「慰安所」設置
3. 売春防止法
・1945年8月18日、内務省刑保局長「占領軍の駐屯地に性的慰安施設を」
→芸妓、娼妓らに米兵の相手をさせる慰安所整備(東京に25カ所)
※「防波堤」論。援助交際擁護にまで引き継がれる
・1946年1月、GHQが「公娼制度廃止に関する覚書」を政府に送付
「公娼はデモクラシーに違背する」→娼妓取締規則の廃止
ただし次官会議は売淫禁止の例外として「必要悪としての特殊飲食店」を設定
→「赤線」の誕生
一方で特殊飲食店外の街娼を「闇の女」として取り締まり強化
→17カ所の自立更生施設。後、売春防止法下で婦人保護施設に
・1947年1月、ポツダム政令勅令9号「婦女子に売淫させた者」への処罰
ただし占領終了で無効になる恐れあり
→1951年、矯風会などが「公娼制度復活反対協議会」、96万人の署名
1953年、市川房枝ら超党派議員団。労働省で売春実態調査も
買春処罰を盛った売春禁止法案作成、しかし否決
1956年、閣法で売春防止法。人権への言及と買春処罰は削除、業者や街娼は処罰
→公娼制度の終了
・残った課題:
売春防止法では「性交」を禁止。風営法では「性交類似行為」を容認
世界では買春防止法に変えていく流れ
社会問題を背景にした売春に対応できず。2014年、女性自立支援法(仮)の要求も
4. リプロ運動
・Reproductive Health + Reproductive Rights。すべてのカップルと個人が、子どもの数、出産感覚、時期を自由かつ責任を持って決定でき、そのための情報と手段を得ることができるという基本的権利と、最高水準の性と生殖に関する健康を享受する権利のこと
・第2波の時期、女性の自己決定権が強く主張されるようになった
・近代以降
女性の性と生殖は国家権力、家父長制による管理対象とされてきた
1880年の旧刑法、1907年の新刑法でも人工妊娠中絶の禁止(男性は不問)
産めない女性への離婚言い渡し、未婚=処女思想
1936年、女優・志賀暁子の堕胎裁判
1941年、人口政策確立要綱。1夫婦に5人の子が目標。産めよ殖やせよ
・戦後。食糧難、住宅難
1948年、優生保護法。「産むな殖やすな」への転換。堕胎の容認(経済条項)、
中絶の増加
1948年、助産婦が国家資格化。1952年の受胎調節指導員→避妊指導の普及
1954年、加藤シヅエら「日本家族計画連盟」。避妊と性教育
・高度成長期。労働力不足
1960年代末~「中絶は犯罪だ」
1972年、優生保護法改正案。経済条項の削除、胎児条項の新設
1972年、中ピ連でピル解禁訴え
・「優生(不良な子孫の出生防止)」部分の削除
1994年、カイロ会議で国際的非難
1996年、優生保護法→母体保護法。優生部分の削除
現在、NIPT→中絶(新たな優生思想)、自己決定論→自己責任論、「産む機械」
2003年、少子化社会対策基本法。少子化は「未曾有の事態」
性教育の停滞←→2013年「女性手帳」(不発)、婚活、妊活、卵子の老化……
※堕胎罪は存続。中絶は悪、との視線も
※過去の不妊手術について国は「適法に行われた」
5. レズビアン運動
・1970年代、女性同性愛は「異性愛に向かう仮の姿」「女として成熟すれば治る病気」
「女郎グモ」「化け物」
・1971年、鈴木道子「若草の会」。出会いの場(1986年閉会)
・1980年、相良直美事件。アウティング
・バブル時代、新宿二丁目への集積
・田中美津ら、リブ新宿センター。レズビアン・フェミニストも
おしゃれは「男への媚び」。ノーメイク、ショートヘア、Tシャツ、ジーンズ
女性ジェンダーの拒否
・国際女性会議→ダイク・ウィークエンドへ
・1990年代には、若者やトランス女性から「女らしくて何が悪い」と反発も
・1991年、ゲイ・ブーム
・1994年、パレード。G/Lの諍いで1996年頓挫
・Lの出会い系ポータルBravissima!、L&B向け『アニース』
・性指向の一形態であり、人権問題としての差別という理解の普及
・2003年、性同一性障害特例法→戸籍変更が可能に(これはTの話か)
・沈黙しがち、忘れられがちな運動
6. 80年代の「性の自己決定」
・1986年、西船橋駅ホーム転落死事件
ストリッパー女性にちょっかいを出した高校教師が抵抗され線路に落下し死亡
・1987年、池袋事件
買春男性がナイフで脅した女性に反撃され死亡
・1988年『働く女性の胸のうち』
「三多摩の会」によるハラスメント、性虐待の調査結果
・1992年、ゆのまえ知子「夫(恋人)からの暴力調査研究」
→2001年、DV防止法に
・「セックスワーカー論」からの反論。「性産業従事者への差別をフェミニストが助長」
・風俗は女性の最後のセーフティネット?
7. AVの中の性暴力
・2008年『ひとはみな、ハダカになる』―AVがごく普通のセックス?
運動vs「表現の自由」
→PAPS(2009年)。「AV出演強要」の相談。性暴力ではない?ファンタジー?
・作品の過激化、視聴者が「楽しむ権利」、出演者の「自己責任」論や違約金
・AV出演強要:意に反した出演、販売(ネット流出)、生産現場での性暴力、噂の拡散
コラム:2017年刑法改正
・強制性交等罪の創設:「女性器への男性器挿入」(旧法強姦罪)からの拡張。肛門、口への挿入も。男性の被害者も。(挿入するのが手指や異物の場合は見送り)
・法定刑の引き上げ:3年→5年以上の有期懲役。酌量減刑がなければ必ず実刑
・監護者強制性交等罪の創設:教師、スポーツ指導者、同居の親など、加害者が優位な立場にある場合、「逆らえない」ことで「暴行または脅迫」が成立しにくかった。改正で、影響力に乗じてわいせつ、性交等をすると強制わいせつまたは強制性交等罪と同様の処罰に
・今後の課題:
・本人の同意がないわいせつ、性交があっても、暴行や脅迫がなければ強制わいせつ罪、強制性交等罪が成立しない「性交同意年齢」(13歳)は据え置き
・暴行・脅迫の要件が厳しすぎ。裁判もそうだが、起訴の可否判断にも影響する