最近読んだ3冊。
■橘省吾『星くずたちの記憶』岩波書店、2016年。
「はやぶさ2が小惑星の石を持ってきたら、太陽系と地球の海と生命の謎が解ける」といろんな人がよく言うけど、なんで???というのを一応分かっとく必要があり、半日ぐらいでざっと読みました。宇宙化学っていう分野ですかね。小さいけどちゃんと順を追って疑問に答えてくれるいい本でした。
▽1 鉱物とは
・原子が3次元的に規則正しく配列した固体物質=結晶。これが発見されると「鉱物」として名前が付く。今5000+種類
・環境(温度、圧力、水の影響など)によって鉱物の濃度が高まる→鉱石になる
・イトカワの岩石:
普通コンドライト(地球上で最もありふれた隕石)と同じ→隕石は小惑星のかけらであることを証明
800度で熱せられていた形跡あり←今のイトカワではそんなに昇温しない。直径20km超の母天体への天体衝突による破片の集合でできたらしい
粒子の表面から0.1マイクロメートルまでは宇宙風化(=太陽風に当たってイオンの結晶構造が乱れている)、太陽風に含まれる希ガス(He,Ne)が数百年分打ち込まれていた=イトカワ表面では今も地質活動がある
▽2 元素の生成
・ビッグバンでクォーク誕生→3つずつ結合し陽子と中性子を形成→「強い力」で結合し重水素やヘリウムの原子核誕生
・恒星の中で水素の核融合→水素を使い果たすと収縮して昇温→ヘリウムが核融合→ヘリウム3つ(質量数4×3)で炭素(質量数12)生成。炭素+ヘリウムで16の酸素
・太陽の10倍以上の質量の恒星ではさらに核融合。Ne,Mg,Si,S,Ar,Ca作られる。ただしNiができると停止。核融合起きなくなると恒星は自身の重力でつぶれ、外層は中心核(中性子星かブラックホール)で跳ね返されて放出。これがII型超新星。作られた元素がまき散らされる。重い星は中心部が高温・高密度になってどんどん核融合が進むため、寿命が短い
・双子の星の一方が寿命を終えて白色矮星に→もう一方が寿命を終えて赤色巨星になると、白色矮星側にガスが流れる→白色矮星の質量増加、チャンドラセカール質量(太陽×1.4)に達すると核融合再開。一気にNiまで合成されIa型超新星に→白色矮星の質量の1/2~1/3がFe,Co,Niに替わって宇宙空間に放出される
・Au,Uなどの元素は作られるのは大量の中性子を一気に原子核に吸収させるような環境。まだ結論は出ていないが(1)大質量星の超新星爆発の最中(2)超新星爆発で中性子星になった双子の連星が合体する際。重力波観測に期待
・これらが材料となって太陽系生成
▽3 ちり
・ちり:1マイクロ以下。星間減光の原因。非晶質ケイ素、かんらん石、輝石、Mg,Si,Fe,Al,Caなどガスになりにくいもの。赤外線で分光観測すると非晶質ケイ酸塩など(ピークの幅が広い)→宇宙鉱物学へ。
・年老いた恒星の周りにあるちりが、新しく生まれる星へ元素を運ぶ。非晶質ケイ酸塩、結晶のかんらん石、輝石、アルミニウム含有の酸化物など。原始惑星円盤にも結晶の輝石やかんらん石がみられる。ただし星間空間には結晶質がほとんどない。なぜかは不明
・プレソーラー粒子は隕石に含まれる。ケイ酸塩、酸化物、炭化物など、1マイクロ以下。由来は大きさや形成時期の違う複数の恒星のものが混ざっている
▽4 太陽系の始まり
・分子雲:超新星爆発の衝撃波などで星間ガスが掃き寄せられると考えられる。ちりの表面に付いた水素原子同士がくっついて分子になる。非結晶の氷も。ちりの上で分子ができ、有機物になる。特に濃いところが「分子雲コア」→星になる
・太陽のまわりの原始太陽系円盤(ガスやちり)で、10kmサイズの微惑星形成→太陽近くでは火星くらいの原始惑星が20個くらい形成→原始惑星の衝突で地球型惑星。太陽から遠いところでは鉱物のちり+氷も材料に地球の10~15倍質量の原始惑星形成→重力でガスを引き寄せガス惑星形成。さらに遠いと原始惑星の形成に時間がかかり、形成したころにはガスが散逸していて氷の惑星に
・隕石
1 石質隕石
1.1 コンドライト(地球落下の86%):溶岩由来組織なく太陽系元素存在度と一致
ケイ酸塩のほか金属の鉄含む。溶けていない小天体のかけら。昔の記憶あり
内部の丸いコンドリュールはケイ酸塩。加熱の形跡だが原因は不明
CAIの形成時期45.67億年を太陽系の年齢とした。太陽酸素の同位体組成と一致
1.2エコンドライト(8%):火成岩、マグマ冷え固まった
2 石鉄隕石(1%):火成岩成分と金属鉄成分の混合
3 鉄隕石(隕鉄)(5%):天体が溶けて金属鉄が中心に沈んだ核に相当
▽5 太陽系天体
・月:親子説(地球から分裂)、兄弟説(地球と一緒に誕生)、巨大衝突説(今これが有力。原始地球に火星程度の大きさの原始惑星が衝突し飛び散った破片から月ができたとするもの)
▽7 はやぶさ2
・目的:C型小惑星の炭素質コンドライト。高温を経験していない(S型のイトカワは800度の加熱を経験)。水との化学反応を経験した鉱物や有機物を含む→生命の材料はばらばらで持ち込まれて地球で組み立てられたのか、ある程度組み立てられた状態で持ち込まれたのか
・炭素質コンドライトは壊れやすい。隕石として大気圏突入をへたものが本当にオリジナルの状態を残しているかは疑問。さらに隕石だとどこから来たかが分からない
・コンドライトの重水素や15Nの濃集した有機物は、低温の分子雲での化学反応の証拠と考えられている。また、プレソーラー粒子がいっぱい入っているかも
・リュウグウの複数地点で採取した石の解析→化学的な多様性があるのかを見る→惑星材料の物質分布は不均一だったのか均一だったのか
・水と生命の由来:重水素/水素比が地球の海水と一緒かどうか。C型小惑星が水の起源だとすると、そこに含まれる有機物は生命材料である可能性がある。地球生命が使っているL型のアミノ酸が多ければ、地球に来る前に既に小惑星の中でL型アミノ酸が選択されていたかもしれない
* * *
■ロジェ・カイヨワ(多田道太郎・塚崎幹夫訳)『遊びと人間』講談社、1990年。
ホイジンガの『ホモ・ルーデンス』読んでから何年も経っちゃったよねと思ったら1年経ってませんでした。で、会津から帰ってくるバスで読み始めて1ヶ月かかった。結果どっちが面白かったかといわれるとホイジンガです。けど、ホイジンガの訳者後書きでクソミソに言われてるほど悪くはなかったと思う。原始社会から近代社会への「発展」を説明するのに使っちゃうのはまあ時代だから仕方ない。しかしいつの間にか何でもかんでも遊びの類型で読み解いちゃってて、うーむいいのかなと思った。
遊びというものの持つ特徴を次のように列挙する:
1 自由。強制されていないこと
2 隔離。時間、空間的に限定されていること
3 未確定。先に結果が決まっておらず、創意が必要である
4 非生産的。富を生まないこと
5 規則。独特のルールに従うこと
6 虚構。日常生活と離れた二次的な現実、または明白な非現実
*ホイジンガにないのは3だけ
次のように分類する。いずれも集団的な行為で、堕落形態もある:
A 競争(アゴン)。サッカー、チェス
機会の平等(ハンデを含む)、個人の能力のみを頼りにする
責任を引き受ける
B 偶然(アレア)。ルーレット、富くじ
遊ぶ者は受動的。力の及ばない独立の決定の上に成立する。勝負の相手は運
規律、勤勉、忍耐の排除。能力以外のすべてを頼りにする。意志の放棄
アゴンとは逆の性質だが、これもある意味平等
動物や子どもとは縁遠い遊びの類型である
C 模擬(ミミクリ)。海賊ごっこ、演劇
自己を他者とすることで世界から脱出する
虚構の世界の受容。第2の現実を顕示すること
スポーツイベントでは観衆が競技者に同一化する=アゴンとの親和性がある
D 眩暈(イリンクス)。急速な回転や落下
*ホイジンガは「偶然」への言及が薄い。「眩暈」については言及がないという
これらは、次の2極とも関係する
パイディア:気晴らし、即興、無邪気
ルドゥス:努力、技、器用、忍耐、無償の困難。制度的遊び
ルドゥスはパイディアに規律を与え、文化的現象にする力となる
で、「原始的な/混沌の社会」(模擬と眩暈)→「計算/秩序の社会(近代社会)」(競争と偶然)という発展モデルができる。
ちなみに意志的/脱意志的 × 計算(個人的)/混沌(集団的) の2軸で振り分けると:
競争=意志的かつ計算
偶然=脱意志的かつ計算
模擬=意志的かつ混沌
眩暈=脱意志的かつ混沌
計算/秩序の社会の中には、競争で勝てない人々のガス抜き、あるいは「解放の遊び」として偶然(くじ、賭け事などによる一発逆転の夢)が組み込まれている。スターを信仰すると同時に、スターに胡散臭さをかぎ取るのも「運」の希求が根っこにあると思われる。また、模擬も演劇として目こぼしされている。ただし眩暈は排撃される。
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■宇野重規『未来をはじめる』東京大学出版会、2018年。
所用で往復した新宿―立川間と待ち時間で。女子中高生にやった出前授業の記録。ヒューム、カント、ヘーゲルの形容とか超絶コンパクトで分かりやすかった。買うほどじゃないかなー、と思って図書館で借りました。そんな感じでした。