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2016年10月 アーカイブ

2016年10月22日

保守主義とは何か

■宇野重規『保守主義とは何か』中央公論新社,2016年.

や、やっと通勤電車の中では仕事関連以外の文章を読める状況になってきました。
アマゾンで安い雑貨を注文するにあたり、送料無料になる2000円にちょっと足りなかったため、何やら各所で評判のよいこの新書を一緒に買ってあったのでした(失礼)。

「右翼」とか「左翼」くらい、「保守」って意味の分からない言葉です。
それが何なのか、何と戦ってきたか(=何でないのか)、今いかにぐじゃぐじゃしているかが整頓されていて、ありがたい本でした。

それにしても、保守主義が「歴史を踏まえた漸進的改善+自由の重視」だと理解すれば、近代科学(社会科学も自然科学も)との親和性がとても高いように思えます。
しかし、通常科学の営みとともにパラダイムを維持しがたくなり、あるとき言葉の意味がぐるっと変わってしまうように、(クリシェとして使われる「時代の転換点」ではなく本当に)時代が変わる瞬間というのもまた訪れるのでしょうか。どうやって?凡人の死骸の集積がティッピングポイントを超えることにより?あるいは天才がひっくり返すのか?

---------以下、メモ。日本の保守主義の章は割愛

▽出発点としてのバーク(18c、英)

(・言葉そのものは1818、フランスでシャトーブリアンによる雑誌「保守主義者」に由来)
・自由の擁護。しかしフランス革命(を主導した急進派)と、その暴力性は批判
・歴史的に形成された政治、制度の安定的作用を「保守」する
・民主化を前提に、秩序ある漸進的改革を目指すべきと考える
・歴史的蓄積をすべて正しいとするのも、丸ごと捨てる(理性の驕り)のも誤り。活用が鍵
・フランス革命は歴史の断絶、かつ抽象的な原理に立つもの、自らの過去への蔑視
・アメリカ独立には宥和的。ただし大英帝国の秩序のもとで

▽反・社会主義としての保守主義

・エリオット。創造の前提としての伝統。芸術における「個性」(独りよがり)の無意味
 ヨーロッパ諸言語のハイブリッドとしての英語。その詩の豊かさ。多様性の重視
 文化を担う「集団」(not個人)、コモンセンス。オーウェルは階級支配の正当化として批判
 →コモンセンスの喪失、イデオロギー同士の裸の衝突が危機を招く

・チェスタトン『正統とは何か』。正統=正気。理性を超えるものを否認する唯物論は「狂気」

・ハイエク(保守主義者であることを否定、ただしバークに共感)←ヨーロッパ個人主義の伝統
 政府が設計した変化を批判
 自生的秩序(市場メカニズム)・法の秩序(進化的に形成されたルール)を擁護
 なぜなら、限られた人が全体を把握することは不可能だから
 (ただし保険によってしか救済できないリスクがあることも認める)
  =社会の複雑性、自由を否定してはならない
  →×保守主義は階層秩序を好み、特定階層から指導者を出す。変化を拒絶
   ○自由主義はエリートの存在は否定しないが、どこから選出するかは予め決まっていない

・オークショットの保守主義:宗教、王制、自然法や神的秩序を切り離す点に特徴
 西欧は変化を求めすぎてきた
 変化は避けられないとしても、適応するくらいでよいのでは
 →統治の本質は、多様な企てや利害を持った人たちの「衝突を回避する」こととみる
 →それに必要な儀式として、法や制度を提供することが統治の役割
 →「人類の会話」。認め合い、同化を求めないこと
  対話を通じて真理を追究するのではない=他人から学ぼうとしない「合理主義者」への批判
  技術知(画一性、完全性)/実践知(経験から学ぶもの)
  統一体/社交体
  共生=リベラリズム=井上達夫/伝統が培った行動規範=保守主義=西部邁

▽反・大きな政府としての保守主義―アメリカ

・マディソン。権力分立←政治的ユートピアの断念
・ただし、20c半ばまで保守主義が位置を占めることはなかった。ニューディールへの合意
・ウィーバー。精神の「重し」となる伝統の不可欠さ
・カーク。超越的秩序、人の多様性と神秘性、序列と階級。自由と所有権。計画的改造への懐疑

・保守主義の精神的背景:宗教的国家+反知性主義(反エリート)
・1950ー60s、ベトナム戦争。ベスト&ブライテストへの懐疑
 →ウィーバー、カークの著作が重みを持ち始める
・政治運動としての保守主義の背景:伝統主義+「リバタリアニズム」
 リベラリズムが「政府の権力抑制」から「大きな政府+自由」へと意味の変化を起こす
 →「小さな政府+選択」がリバタリアニズムに
 →政府不信+強固な個人主義。政府主導の進歩主義的改革へのアンチとしては保守だが……
・フリードマン:経済的リバタリアニズム。ノイジーマイノリティの特殊利益擁護を回避する
・ノージック:保護協会の乱立→支配的保護協会の出現→最小国家。やはり自生的プロセス
  多様なユートピアを許容する。逆にマルクス主義・社会主義は帝国主義ユートピアとして棄却

・ティーパーティー(ロン・ポール~)。小さな政府+個人の自由。ただし草の根で実態は多様
・ネオコン。イラク戦争主導、小さな政府へのこだわりはそう強くない。初期はトロツキストら。特異!
  ゴールドウォーターの敗北→保守の立て直し→ネオコンと合流→保守革命
・ネオコンの特徴:
  国際主義(反・孤立主義。源流がリベラル反共だからか)
  リアリズム。国際社会を道徳的理念の実現の場とみる。各国のレジームチェンジに関心
  社会改革への志向。主な反発対象はリベラルの左傾化か
・帰結:アメリカの分断。大きな政府/小さな政府という争点が、宗教・倫理と連動し左右を分極化
・現代アメリカの保守主義:市場化と宗教化の結合

▽ポストモダン(再帰的近代)の保守主義

・保守の優位
・アメリカ:イデオロギーや経済ではなく、感情の対立か?
・ジョナサン・ハイトの「道徳基盤」:ケア、公正、自由、忠誠、権威、神聖
  リベラルはケア、公正、自由を重視。普遍主義
  保守は六つを等しく扱う。仲間を大切にする
・ジョセフ・ヒース。脳は保守的、漸進的にしか変わらないが、合理的思考=長期的企図も重要
  適応的な改革だけでなく、オーバーホールが必要な時もあると主張

・保守主義:楽天的な進歩主義を批判するものとして生まれ、発展していった
 →進歩主義の旗色が悪くなった現在、保守主義の位置付けも分かりにくくなったのではないか

・何を保守するのか?―伝統や権威。これによってかえって人間は主体的になる
 →伝統や権威は現在、「根拠」を求められ、自明性を失っているのではないか
 →根拠などなくてもいい、は原理主義。これの台頭もポスト伝統的社会秩序の一側面
・一人ひとりが「何かを守る」ことについての考察。開放性と流動性(柔軟性)を伴った保守主義

2016年10月16日

休日というだけの休日

オーストラリアから帰ってきて、次の日からまた余裕なくばたばた働いて、土曜も朝から晩まで働いて、ようやく休みが取れました。

* * *

ずっと毛布1枚で寝ていて、そろそろ寒くなってきたので掛け布団を出しました。(+4点)

* * *

8月終わりくらい?から髪を切っていなかったら頭の横と後ろの髪の毛がうるさくなってきたので、床屋に行きました。2004年2月から坊主で、札幌在任時代には床屋に行ったことはあるがバリカンしてもらうだけのためで、いったいいつぶりにハサミで髪を切ってもらったか分かりません。

床屋で何が起きるかを結構忘れているという自覚はあったため、「横と後ろを刈り上げずに切って下さい」というセリフは口の中で復唱しながら準備していき、うまく言えましたが、

  「もみあげ、どうしますか」

と準備してないことを聞かれて

  「えっ、どうしましょう……」

と慌ててしまいました。
床屋に行かなかったこの10年余り、どれだけこういうことを考えずに楽をしていられたことでしょう。

ともあれ、横と後ろがすっきりしました。 (+3点)

* * *

確か夏の初めくらいに買ったオリーブの鉢植え、葉っぱが全部枯れてしまったので、枝をおおかた切って葉っぱが全然ない状態でベランダのエアコン室外機の上に放置していました。そのうち処分かなと思いながら。
そうしたら、いつの間にかまた葉っぱが出てきていました。
161016olive.jpg
これから冬なんですけどね、地中海の植物は耐えられるのか。 (+3点)

* * *

オーストラリアに一緒に行った若い同僚が熱烈に押していた「君の名は」を見てきました。
こそこそ仕事のメールを返しながらでしたが、現実を2時間ほど忘れられました。
半分弱はうちの近所で物語が展開してました。 (+2点)

* * *

明日は月曜日です。 (-50点)

2016年10月10日

オーストラリア出張

うっかりスキューバダイビングと潜水士の免許を持っていることが会社にばれた関係で、上旬はオーストラリア東海岸の北部に出張していました。
ほぼ仕事ばかりしていたのですが、直接、仕事の内容になることを除いて印象に残ったものを。

前半はグレートバリアリーフにあるリザード島にいました。
161010sesuna.jpg
1日2便、6席のセスナがケアンズとの間(240km、片道1時間)を行き来しているだけで、他にこの島に来る手段は、現地で働いている人によると「プライベートボート」のみとのことです。まじ?
161010gbronboard.jpg
道中もきれいです。

宿泊施設が、国立オーストラリア博物館管轄の海洋生物学の研究拠点と1泊10数万円するリゾートしかない(ただしキャンプサイトはある)ということで、滞在者はみんな院生以上か金持ち、という変な島です。
こちら、その研究拠点Lizard Island Research Stationです。
161010lirs.jpg
景色は素晴らしい。アボリジニが成人のための儀礼を行う島だったのだと、研究施設に住み込みで働いている考古学者の卵が教えてくれました。
161010lizard1.jpg
島の中心にあり、東半分を一望できるCook's Lookという359mの山に登りました。
161010cookslook.jpg

後半はケアンズをベースに仕事。
ケアンズって確か学生のときに旅行して以来なので、16年ぶりです。「意外と田舎だなー」と思った印象はあるものの、まったく街の様子を覚えていませんでした。
半袖半ズボンで暑くもなく寒くもなく(夜は若干涼しすぎるかな、くらい)、いい気候です。コンパクトで歩きやすいのもいいですね。

おいしかったもの、すべて中心部から徒歩10分以内:

(1)船着き場の奥にあるシーフード、Prawn Star
ボートがそのままレストランになってます。在住10年の方に教えていただきました。
161010prawnstar1.jpg
80ドル(≒6400円。リーズナブルなんであろう)の盛り合わせがこれ。
161010prawnstar2.jpg

同僚と白ワイン飲みながらいただきました。美味美味

(2)Cafe Thailandd
地元の方と、最初はベトナム料理を食べに行こうということで歩いていたのですが、あいていなかったため、えいやで入った同じ並びのお店。
161010cafethai.jpg
ビーフサラダ、焼きめし、焼きそば、鶏の唐揚げ、春巻き、海鮮と野菜炒めをシンハビールで。ここは何を食ってもうまかった。4人で飲んで満腹まで食って3000円/人くらい。

(3)上記タイめし屋の隣にあるジェラート屋さん、Gelocchio
161010gelocchio.jpg
地元の方のおすすめ。観光地なのにうまああい。弊管理人はパッションフルーツ。他の方はピスタチオ(いい香り)、レモン(何かのハーブと合わせてある。酸っぱい!)、名前忘れた現地の果物(この歳まで食べたことない味)。

私物のカメラでとったサンゴ礁は、あまりすごさが伝わらないな。
161010gbr.jpg
でまあ実際、沖縄でもいいかな、と思うくらいでした。もちろん地形の変化も生物の種類もGBRは豊かですけど。
透明度も15-20mで、そんなにいいわけではないです。それはそもそもサンゴが育つのは栄養豊かな暖かい海で、サンゴも動物なのでいろいろ排泄物を出したりするからのよう。これは現地熟練ガイドの方が「ぶっちゃけ実際どうでした?」と切り出したあとに教えてくれたことです。
こちらは今回利用したポートダグラス。
161010pd.jpg
仕事終わりに、地元のブルワリーでビール飲み比べとかしてしまいました。
161010pdbeer.jpg
アメリカの資本が開発した街だそうで、こぢんまりしたアメリカって感じ、らしい。
ケアンズは日本企業が結構お金をつっこんだが、最近はだいぶ手を引いてしまったとのこと。

とまあ、なんかすごく楽しそうな日記になってしまいましたが、滞在時間のほとんどはここに書いてない仕事に費やしており、その仕事は体力的に結構きつかったです。
仕事でないと絶対行かない場所に行く貴重な機会でしたし、他部の若い同僚の熱心な仕事ぶりも参考になりましたが、弊管理人にとっては比喩的にも描写的にも「自分の意思とは関係なく、流れに逆らって泳ぐことを強いられる」毎日でした。指も手のひらも切り傷多数で温かいシャワーが痛い。素潜り苦しい(そのあとスキューバをやったらすごい楽だった)。おまけにヘルペス出た。疲れすぎて眩暈がします。海嫌いになりそうだった。

今年は11月いっぱいまでこんな調子が続きそうなのでもう無理ですが、来年からは他人の都合に左右される仕事は可能な限り「決然と断る」を実践していきたいとの思いを何段階も強くしたものです。

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