保守主義とは何か
■宇野重規『保守主義とは何か』中央公論新社,2016年.
や、やっと通勤電車の中では仕事関連以外の文章を読める状況になってきました。
アマゾンで安い雑貨を注文するにあたり、送料無料になる2000円にちょっと足りなかったため、何やら各所で評判のよいこの新書を一緒に買ってあったのでした(失礼)。
「右翼」とか「左翼」くらい、「保守」って意味の分からない言葉です。
それが何なのか、何と戦ってきたか(=何でないのか)、今いかにぐじゃぐじゃしているかが整頓されていて、ありがたい本でした。
それにしても、保守主義が「歴史を踏まえた漸進的改善+自由の重視」だと理解すれば、近代科学(社会科学も自然科学も)との親和性がとても高いように思えます。
しかし、通常科学の営みとともにパラダイムを維持しがたくなり、あるとき言葉の意味がぐるっと変わってしまうように、(クリシェとして使われる「時代の転換点」ではなく本当に)時代が変わる瞬間というのもまた訪れるのでしょうか。どうやって?凡人の死骸の集積がティッピングポイントを超えることにより?あるいは天才がひっくり返すのか?
---------以下、メモ。日本の保守主義の章は割愛
▽出発点としてのバーク(18c、英)
(・言葉そのものは1818、フランスでシャトーブリアンによる雑誌「保守主義者」に由来)
・自由の擁護。しかしフランス革命(を主導した急進派)と、その暴力性は批判
・歴史的に形成された政治、制度の安定的作用を「保守」する
・民主化を前提に、秩序ある漸進的改革を目指すべきと考える
・歴史的蓄積をすべて正しいとするのも、丸ごと捨てる(理性の驕り)のも誤り。活用が鍵
・フランス革命は歴史の断絶、かつ抽象的な原理に立つもの、自らの過去への蔑視
・アメリカ独立には宥和的。ただし大英帝国の秩序のもとで
▽反・社会主義としての保守主義
・エリオット。創造の前提としての伝統。芸術における「個性」(独りよがり)の無意味
ヨーロッパ諸言語のハイブリッドとしての英語。その詩の豊かさ。多様性の重視
文化を担う「集団」(not個人)、コモンセンス。オーウェルは階級支配の正当化として批判
→コモンセンスの喪失、イデオロギー同士の裸の衝突が危機を招く
・チェスタトン『正統とは何か』。正統=正気。理性を超えるものを否認する唯物論は「狂気」
・ハイエク(保守主義者であることを否定、ただしバークに共感)←ヨーロッパ個人主義の伝統
政府が設計した変化を批判
自生的秩序(市場メカニズム)・法の秩序(進化的に形成されたルール)を擁護
なぜなら、限られた人が全体を把握することは不可能だから
(ただし保険によってしか救済できないリスクがあることも認める)
=社会の複雑性、自由を否定してはならない
→×保守主義は階層秩序を好み、特定階層から指導者を出す。変化を拒絶
○自由主義はエリートの存在は否定しないが、どこから選出するかは予め決まっていない
・オークショットの保守主義:宗教、王制、自然法や神的秩序を切り離す点に特徴
西欧は変化を求めすぎてきた
変化は避けられないとしても、適応するくらいでよいのでは
→統治の本質は、多様な企てや利害を持った人たちの「衝突を回避する」こととみる
→それに必要な儀式として、法や制度を提供することが統治の役割
→「人類の会話」。認め合い、同化を求めないこと
対話を通じて真理を追究するのではない=他人から学ぼうとしない「合理主義者」への批判
技術知(画一性、完全性)/実践知(経験から学ぶもの)
統一体/社交体
共生=リベラリズム=井上達夫/伝統が培った行動規範=保守主義=西部邁
▽反・大きな政府としての保守主義―アメリカ
・マディソン。権力分立←政治的ユートピアの断念
・ただし、20c半ばまで保守主義が位置を占めることはなかった。ニューディールへの合意
・ウィーバー。精神の「重し」となる伝統の不可欠さ
・カーク。超越的秩序、人の多様性と神秘性、序列と階級。自由と所有権。計画的改造への懐疑
・保守主義の精神的背景:宗教的国家+反知性主義(反エリート)
・1950ー60s、ベトナム戦争。ベスト&ブライテストへの懐疑
→ウィーバー、カークの著作が重みを持ち始める
・政治運動としての保守主義の背景:伝統主義+「リバタリアニズム」
リベラリズムが「政府の権力抑制」から「大きな政府+自由」へと意味の変化を起こす
→「小さな政府+選択」がリバタリアニズムに
→政府不信+強固な個人主義。政府主導の進歩主義的改革へのアンチとしては保守だが……
・フリードマン:経済的リバタリアニズム。ノイジーマイノリティの特殊利益擁護を回避する
・ノージック:保護協会の乱立→支配的保護協会の出現→最小国家。やはり自生的プロセス
多様なユートピアを許容する。逆にマルクス主義・社会主義は帝国主義ユートピアとして棄却
・ティーパーティー(ロン・ポール~)。小さな政府+個人の自由。ただし草の根で実態は多様
・ネオコン。イラク戦争主導、小さな政府へのこだわりはそう強くない。初期はトロツキストら。特異!
ゴールドウォーターの敗北→保守の立て直し→ネオコンと合流→保守革命
・ネオコンの特徴:
国際主義(反・孤立主義。源流がリベラル反共だからか)
リアリズム。国際社会を道徳的理念の実現の場とみる。各国のレジームチェンジに関心
社会改革への志向。主な反発対象はリベラルの左傾化か
・帰結:アメリカの分断。大きな政府/小さな政府という争点が、宗教・倫理と連動し左右を分極化
・現代アメリカの保守主義:市場化と宗教化の結合
▽ポストモダン(再帰的近代)の保守主義
・保守の優位
・アメリカ:イデオロギーや経済ではなく、感情の対立か?
・ジョナサン・ハイトの「道徳基盤」:ケア、公正、自由、忠誠、権威、神聖
リベラルはケア、公正、自由を重視。普遍主義
保守は六つを等しく扱う。仲間を大切にする
・ジョセフ・ヒース。脳は保守的、漸進的にしか変わらないが、合理的思考=長期的企図も重要
適応的な改革だけでなく、オーバーホールが必要な時もあると主張
・保守主義:楽天的な進歩主義を批判するものとして生まれ、発展していった
→進歩主義の旗色が悪くなった現在、保守主義の位置付けも分かりにくくなったのではないか
・何を保守するのか?―伝統や権威。これによってかえって人間は主体的になる
→伝統や権威は現在、「根拠」を求められ、自明性を失っているのではないか
→根拠などなくてもいい、は原理主義。これの台頭もポスト伝統的社会秩序の一側面
・一人ひとりが「何かを守る」ことについての考察。開放性と流動性(柔軟性)を伴った保守主義