何 か大きな力の前に
何 か大きな力の前に屈する経験というのは、慣れれば大した屈辱を感じずに済むものなのだろうか。あるいは諦めれば何も感じなくなるのだろうか、そしてそうなった時、昔の情けない自分を思い出しても平気になるのだろうか、それとも思い出すこともしなくなるのだろうか。
5つか6つの頃、長野のあるデパートの屋上でやっていたデンジマンショーを見に行った。戦隊ものは好きだった。テーマソングを心地よく耳に受けながら、屋上を吹き抜ける風の薫りを楽しみながら、ショーの進行を見守っていた。敵の怪人が出てきた。手下に命じて、会場の子どもたちをさらわせはじめた。僕はただ見ているはずだった。怪人は僕を指さした。「あいつをさらってこい!」
僕はほかに観客席の中から連れ出された2、3人の幼児たちに混じってステージに上げられ、デンジマンをおびきだす餌になった。怪人は尋問した。「俺たちとデンジマンとどちらが好きだ?」…デンジマンは好きだ。しかしここでデンジマンと答えると、客席に戻して貰えなくなるかもしれない。隣では、怪人を選択した子どもたちが次々と客席に帰っていく。
前後不覚。僕は怪人を指さしていた!…怪人は満足そうな、下卑た笑いを浮かべ、プレゼントを渡して僕を客席に返した。デンジマンは登場し、怪人は成敗された。そのあと、赤いのと握手したりサインをもらったり、付添の母親と食事をして帰ったが、詳しいことは覚えていない。上の空だった。ただ、至近距離で見た怪人の高笑いだけが残っていた。…(961015)
[なんか原風景です。今読んでもしんみりします。時々やたら跳ねっ返りなのはこの体験が効いてるのはたぶん間違いない。―2006/6/29]