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2006年04月12日

『人間の安全保障』

■アマルティア・セン『人間の安全保障』集英社新書、2006年。

ノーベルを受賞したインド出身の経済学者による小論集。講演で喋ったり、新聞に寄稿した文章なので非常に読みやすいです。

「人間の安全保障」は(自分の理解では)「国」ではなく「個人」の生活に注目し、そこから身体への危険や疾病といったリスクを取り除くことで基本的な人権を守ろうと考えること。
そうした考察のなかで、自分が本来持っている権利を知り、それを主張する言葉を得、あるいはより収入の高い職に就くための手段としての基礎教育の重要性が強調されます。

読んでみると、センは現状から出発して、そのなかのどの部分を改善するかという現実的な発想で語っているように見えます。
まず「民主制とは西洋固有のものではないし、グローバル化も近代・西洋から始まったものではない」と語ることで、西洋至上主義と反西洋原理主義(とでもいうのかな)という「自文化中心主義」のふたつの極端を牽制し、民主制やグローバル化のメリットを強調する。そのうえで独裁や偏った再分配を許すシステムを列挙して攻撃するというやり方。
それから「人権」については、そのための立法ばかりではなく、そもそも問題があることの認知や、火急の問題に対する運動、さらにその理論的基礎付け、自由な討論を通じた「人権とは何か」の検討を主張してます。

偏狭はだめよという可謬主義や、話し合いで決めましょうという討議への信頼は決して目新しい発想ではありませんが、非西洋から見た世界を、例証を含め言葉を尽くして語ろうとしているところがいいなあと思った次第です。ほかにも読んでみよう。

投稿者 b-men : 2006年04月12日 12:58

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