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2006年01月14日

『「責任」ってなに?』

■大庭健『「責任」ってなに?』講談社現代新書、2005年。

「あのときには、ああしかできなかった」と弁明することで責任を回避しようとすることができるのかを、倫理学(と、分析哲学)の手法で検討した本。そういう問いを押し出した時点で責任の回避は「できない」って答えなのがバレバレですが。

ミソの部分は「『役割を果たしているだけの自分』と『そんな状況に追い込まれなければひどいことなんかしなかったはずの、ほんとうの自分』を切り離すことはできないの、周りに流されてやっちゃったアンタもやっぱり他でもないアンタその人です」ということ。(自分なら「もし『役割を果たしているだけの自分』ってのが本当の自分と違うなら、わかりました、本当の自分とやらは免責しましょう、ただし『役割を果たしているだけの自分』さんにはきっちり責任とってもらいますからどうぞ分離して突き出して下さいな」と言うかな)

組織の歯車として粛々とユダヤ人の虐殺を遂行したというアイヒマンの責任をどう考えるかというのは、普遍につながる問題として個人的に抱えていました。ひとつの見方を教えてもらった気がします。

ついでに紹介すると、本ではこのミソの部分に至るまでに、けっこういろんな興味深いトピックを扱っています。
・そもそも「責任(をとる)」って何を意味してるのか(一人の自律した人間として他者とのコミュニケーションを行うこと?)
・自分の意志でやったんだから責任とりなさいよと言われても、「意志」なんてものは環境に対する脳の生体反応なんだから虚構なんです、よって責任なんか取れません、というへそ曲がりにどう応答するか
・ひとつの結果がいろいろな原因から成り立っているけど、それでも、責任は発生するのか
などなど。

最後に戦争責任とか、現代日本の企業社会や学校(いじめ)などを論じていますが、これはまあ余技レベル。基礎倫理に軸足を置きながら応用倫理・事例分析もやってみる、という基本姿勢(?)には共感できます。逆をやったほかの本は「わがまま社会分析」に終わっちゃったのが多い気がするので…

投稿者 b-men : 2006年01月14日 19:40

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