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2000年11月15日

なぜ人を殺してはいけないか、について、なんだかそれが随分難しい問題のように思っていたのですが、まったくクリアな回答が思いつきました。3年もかかるなんてノロさもいいとこですね。

なぜ人を殺してはいけないか。それは「自分が殺されたり自分が殺してほしくない人が殺されたら嫌だから」という人が多いからでしょう。そして、これもはっきりしておかねばならないのですが、何かをしては「いけない」ということの含意は、それをすると咎められる(法律的に・道徳的には問わず)ということでしょう。つまり、多くの人が多くの場合「人を殺してはいけない」と考えるからこそ「人を殺してはいけない」がルールとして保たれており、そしてそれにもかかわらず人を殺すと、ルールの保存のために咎められるということ、回答はそれだけで十分だと思います。言っときますけど、これは単に「だって大切な人を殺されたら嫌でしょう?」と諭すことを提案してる訳ではありません。頼むから最後まで読んで下さいね。

さて、筑紫哲也が困った(と言われる―僕はその日のニュース23を見てなかったので)質問は「なぜ人を殺してはいけないかわからない」というものだったので、以上でひとつの(あくまで可能なうちのひとつの)回答が示されました。では、これがどうして雑誌で特集が組まれたり本が出たりするほど大きなテーマになったのか?…それが不思議ですよね?ね?

それは「なぜ人を殺してはいけないか」と「なぜ人を殺さないのか」というふたつの異なった問題(しばしば、もっと迷惑な社会学者によって「なぜ『なぜ人を殺してはいけないか』と問われるのか」という第3の問題も。でもこれについては今日は論じません)が混同されていたからではないかと気付きました。

おそらく「なぜ人を殺してはいけないかわからない」と発言する子は、「あなただって、自分が殺されたり大切な人を殺されたくないでしょ?」という大人の回答に満足せず「でも、僕は自分が殺されるのも怖くないし、大切な人だって殺してしまうかもしれない」と言うでしょう。そこで大人の側は、はたと「それって、私の回答の根拠が崩れてしまったことになるのかしらん!」と焦るのですが、ここで気付かなければならなかったのは、「僕は自分が殺されるのは怖くないから他人だって殺すかもしれない」という子の回答は、「あなたは人を殺してはいけない」への否定ではなくて、「あなたは人を殺さない」への否定になっているということです。その証拠に「人を殺してもいいんです」ということは一言もいわれていない。「あなたは人を殺さない」に対して「いや、殺してしまうかもしれない」という答えが返ってきたら、精々答えられるのは「うーん、そうかもね」くらいのものでしょう。しかし、問う側も問われる側も、回答された質問が当初きかれた質問とずれていることに気付かないとき、大人の側は「そうかもね」と言うことが「人を殺してもいいかもね」と言うことのように思えてしまい、狼狽する。それが問題を複雑にした構造です。

「人は人を殺してしまうかもしれない」というのは、おそらく誰もが同意することでしょう(現に殺人事件やら事故やらが起こっていることを否認するのは相当の勇気がいるでしょう)。しかしそれは、「人を殺してはいけない」というルールの存在のおかげで人を殺すことに相当の不都合を自分が背負わされるにもかかわらず、そのことを考慮せず・あるいは考慮してもなお、人を殺してしまうことがある、という以上のことを語っているわけではありません。

「(ほかの誰でもなく)僕が人殺しをしちゃうかもしれない」という子どもの切迫した予感の吐露に大人が狼狽するのはごく自然でしょう。それ自体は(誰かが人殺しをするかもしれない、というのとは違って)新奇な事態だからです。しかし繰り返しになりますが、それは「自分や自分の大切な人が殺されるのが嫌だと多くの人が多くの場合に思うから」という以外に「なぜ人を殺してはいけないか」を基礎付ける特効薬のような理由を探さなければならないんだ、という狼狽ではありえません。

というわけで気が済みました。さっさと寝ようっと。

(20001114-5)

[当時話題になった問いでしたねえ。問われたのは97年かな。自分の答えは「オメーが人を殺しちゃいけない理由がわかろうがわかるまいが、現に多くの人が、自分や家族が殺されるのがイヤだと思っていてそれがルールになってる以上、殺したら罰せられるからな。覚えとけ」ってことだったみたいですね。身も蓋もないが、問題を切り分けると確かにこういう答え方になる気が今もする。―2006/6/29]

投稿者 b-men : 2000年11月15日 00:00

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