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LGBTを読みとく

この週末やたら自宅で本を読んでいたのは、土曜は天気がよくなく、日曜は午後、自宅に配管清掃が回ってくるのを待機している必要があったためです。あまり雨の降らなかった梅雨もそろそろ終わりかな。

* * *

最先端やってる研究者にテキスト書く時間なんかねえんだよというお声も遠雷のように聞こえる昨今、それでも多分にマニュアルとかFAQ的な要素を含んだ新書を書くって偉いと思います。丁寧にやるかわりにパンピーにとっては結構なところまで行きますから、手をつっこんだ以上はついてきなさいね(にこり)というドS理学療法士のリハビリみたいな本ですが、ついていく価値あり。ほぼ知っていることでも、きれいに整理されていくというのは貴重な経験です。会社の図書室みたいなところに新着本として入っていたので手に取りました。つまり買ってない。ごめん。

分からなかったのは、人格としての同性愛という考え方ができる以前に「自分は同性愛者だ」と考える人がいなかったというのはいいとして、(1)それ力んで説明することで何を救おう/何と戦おうとしていたのか(2)そんでは「同性愛行為は前々からあった」という言い方ならいいのか、ということ。鮮やかだなあと思ったのはHIV/AIDSの問題とポスト構造主義がどうクィア・スタディーズを形成したかという説明と表。

■森山至貴『LGBTを読みとく』筑摩書房, 2017年.

▽とりあえずの分類

・個人の性別/性的指向sexual orientation(恋愛感情や性的欲望の向き先)が:
  女性/女性=レズビアン(女性同性愛者)
  男性/男性=ゲイ(男性同性愛者)
    *容貌、性格が「男性的」か「女性的」か、とは無関係
  性的指向が両性に向く=バイセクシュアル(両性愛者)
    *性的指向が1つとは限らない
    性愛に性別が関係ない=パンセクシュアル、を含む

・セックス(生物学的性別)/ジェンダー(社会的に割り当てられた性別、性差)
 /性自認(自分の性別に対する認識)
 を導入した上で:
    トランスセクシュアル=セックスと性自認の不一致
    (狭義の)トランスジェンダー=割り当てられた性別と性自認の不一致
    トランスヴェスタイト=容姿に関する割り当てへの違和
      *性自認は問題ではない。常に異性装しているとも限らない    
  これらをまとめて「(広義の)トランスジェンダー」と呼ぶことがある
      *性別の社会的な割り当てにはセックスも入るとの考え方→6章で

・LGBTの中でオーバーラップが生じるケース
  性別×性的指向×性自認で考えると、「トランスジェンダーの同性愛者」の存在も見える

・LGBTに含まれないケース
  性的指向が向く性別がない=アセクシュアル
  性自認(?)が男性でも女性でもない=Xジェンダー
  生物学的性に男性/女性が分けられる、との「性別二元論」にも疑問符を付けておく

▽前史 ★行為→人格

・中世キリスト教世界:生殖に結びつかない性行為(ソドミー)の禁止
・産業化→未来の労働力である子どもの保護→「悪い」性行為への厳罰化傾向
 その一つとしての「男性間の」性行為の厳罰化
  1871 独・刑法175条
  1885 英・改正刑法(ラブシェール条項)、ただし「放埒さ」への戒め
・性科学による「同性愛homosexuality」という言葉の提出と同性間性行為の医療化
  独刑法175条(非道徳的な「行為」を罰する)への反対の立場
  →男性間の性行為や親密関係(愛)を指向するという「人格」の治療を目指す
・この時点で「同性愛者」のアイデンティティを持つ個人が誕生
 また、この時に女性同性愛者も「発見」される

▽運動史

・ホモファイルhomophile運動(1950年代~、西側諸国)
  反ナチ、反マッカーシズム
  典型的な男性/女性らしさをもって既存の社会制度に取り入る「同化主義」的傾向
  医師、性科学者の権威を利用
  同性愛者のコミュニティ発展に貢献
・ゲイ解放運動(1960年代~)
  ストーンウォールの反乱(1969)*有名だが最初、というわけではない
  専門家の権威より、経験に根ざした反差別運動
  ただしこの時期、フェミニズムによるレズビアン差別など男女の状況には差異も
・レズビアン/ゲイ・スタディーズ
  担い手は同性愛の当事者(後のクィア・スタディーズとの違い)
・HIV/AIDSの問題(1980年代~)
  多様なマイノリティに及ぶ問題
  アイデンティティ×抵抗だけでは感染症に対処できないとの認識
  (他方、日本ではアイデンティティ醸成とコミュニティ深化を惹起)
・ポスト構造主義
  二項対立と脱構築(デリダ)
  網の目としての支配、その大規模さ(フーコー)
・HIV/AIDSの経験+ポスト構造主義からクィア・スタディーズへ

▽日本

・女性
  同性愛概念の輸入(1910年代)
  女学校での女性同士の親密関係(エス、おめ)、心中事件→問題の認識
  恐らくこの時代に自分を「同性愛者だ」とアイデンティファイした人もいたはず
  ただし成長過程で一過性に起きるものと考えられ、社会問題としては受け流された
  「レズビアン」という言葉はキンゼイ報告(1950年代)から
    その後、人格としてのレズビアンが根付く
・男性
  明治期の「学生男色」は鶏姦(当時違法)がなければ容認
  同性愛概念の輸入→「変態性欲」としての問題化、「悩める同性愛者」の源流
  キンゼイ~1960年代「ホモ」発明~1970年代「ホモ人口」で「集団」としての厚みを認識
・1990年代以降
  92 東京国際レズビアン&ゲイ映画祭
  94 パレード、全国キャラバン
  97 アカー「府中青年の家裁判」
  
▽TG史

1910 ヒルシュフェルト「トランスヴェスタイト」(異性装で性的興奮を得る者)の発明
  ただし同性愛とは未分化
1952 デンマークのヨルゲンセンが性別適合手術を受ける
  →同性愛とは違う「トランスセクシュアル」の顕在化
  医者、性科学者の権威による権利擁護の進展
1966 コンプトンズカフェテリアの反乱
*TGでもやはり男女格差、フェミとの関係の問題に留意
1980 DSM-IIIにGID掲載(cf.同性愛の脱病理化)
1990年代 GIDの周縁化、病理化への抵抗としてTG概念が普及。日本でも

▽クィア・スタディーズ

・3つの視座
  (1)差異に基づく連帯
  (2)否定的な価値付けの引き受け→価値の転倒
  (3)アイデンティティの両義性と流動性
・5つの基本概念
  (1)パフォーマティヴィティ
    バトラー。言葉の意味は使用の累積から産出される→本質への疑義
  (2)ホモソーシャリティ
    セジウィック。女性差別やホモフォビアを伴う異性愛男性間の紐帯
    →男性中心的な社会を維持する機能
  (3)ヘテロノーマティビティ
    ホモフォビア(反差別、ではあるが社会の問題を個人の心に矮小化する)
    →ヘテロセクシズム(異性愛を中心に据えた社会構造への注目)
    →ヘテロノーマティヴィティ(「正しい性」を頂点にした序列化への批判)
      →多様な「正しくない性」の連帯が可能に
  (4)新しいホモノーマティヴィティ
    ドゥガン。市場と消費に迎合した「裕福な同性愛者」の一人勝ち批判
  (5)ホモナショナリズム
    プア。国家が同性愛者を是認する見返りに、国家による他の差別を認める危険
    ピンクウォッシュ、イスラモフォビア批判

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2017年07月02日 14:58に投稿されたエントリーのページです。

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