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じんるいがく(9)

3カ月くらい空いてしまった。

* * *

17 Ethnicity

・「エスニシティ」の流行は60年代、ナショナリズムは80年代に、グローバルは90年代
・tribeからethnic groupへの移行も起きている(ethnic groupはどの社会にも存在)
・現代の紛争のほとんどはエスニシティや宗教が背景にある
・紛争でなくても、日常生活の至る所にエスニシティが影響を及ぼしている
・人類学では、マジョリティもエスニックグループと呼ぶ
・「あちらとは違う」という感覚があれば、そこにエスニックグループがある

▽もう少し特定を
・文化的に客観的な違いや集団間の隔たりがあるほどエスニシティが重要になる、というのは誤り
・文化的に近く、日常的な接触がある際に重要な意味を持つことがよくある
  ほとんど同じ人たちこそ、わずかな違いに敏感になる(cf.ベイトソン(1979))
  ←「違い」があるためには、何か共通性を持っていないといけない
・「文化的特徴」がエスニシティを作り出すわけではない。複数の文化の「境界」を見よ(Barth, 1969)
  →エスニシティは個人や集団の中にあるのではなく、「関係性」にある
・エスニシティの条件:
  メンバーや部外者による一般的認知
  文化的な特徴が宗教や結婚制度など何らかの社会的慣習に紐付いていること
  共通の歴史を持っているという認識(Tonkin et al. 1989; Smith 1999)
  起源の神話を共有していること

▽社会的分類とステレオタイプ
・分類が有効であるためには、アクターがそこに何らかの有用性を見出す必要がある
・ステレオタイプは、慣習的に存在すると思われている集団の特徴を単純化したもの
  労働者、女性、王族、など……
  道徳観と結びつくことが多い(ヒンドゥー教徒は自己中心的だ、など)
  →それが境界を強化し、自己イメージを明瞭化し、支配―被支配関係を再生産する
・混血はアノマリーとして迫害されがちだが、当事者が二つの属性を戦略的に使い分けることも

▽状況とエスニシティ
・人は状況により××族の人として振る舞ったり、雇用者として振る舞ったりする
・どう見られるかを巡るネゴシエーションも起きる
  eg.英国でバラモン出身のインド人がジャマイカ出身者と同じカテゴリに入れられるのを拒否
  →カテゴリー化への異議申し立てや、ステレオタイプへの挑戦を試みる
・二項対立化(サーミ/非サーミ)、補完化(どっちもノルウェー語を喋るよね)
  =dichotomisation and complementarisation
  二項対立では、相手を劣ったものととらえやすい。スティグマ化(サーミは不潔)
  補完化は学校で教えこまれたりする。同化への試み(外ではノルウェー語を使う)
→エスニシティは「関係性」や「プロセス」の中で顕現する

▽エスニック・アイデンティティ(象徴)と組織(政治)
・エスニック・グループが歴史的連続性を持つとというイデオロギー
  →エスニシティが「自然なもの」「長い歴史をもつもの」との印象を与える
・こうした信念には政治的な側面もある=組織
・ただし、「われわれ感覚」の強さや、グループが何を成員にもたらすかはさまざま
・日常からエスニシティを発露しているか、年に何度かのお祭りでだけ出すかもさまざま
・アイデンティティと組織のどちらがより基底的かも論争あり(Cohenは後者)
・政治・経済的な競争下ではエスニシティが重要性を増す
・Handelman(1977)によるエスニシティの強度の4段階
  (1)カテゴリー:起源神話の共有によるアイデンティティ形成。外では影響力なし
  (2)ネットワーク:エスニシティを媒介にした人間関係。仕事や住居、結婚相手の斡旋など
  (3)アソシエーション:目的をもった組織の形成
  (4)コミュニティ:明確な領域を基盤とした集団。分業や政治がエスニシティに基づいて動く

▽エスニシティとランク
・エスニシティだけでは集団内の位置は分からない。性別、年齢、階級などで内部は分化してる
・セグメント化されたアイデンティティ(1人の中に同心円状、またそれを横断する多くの属性がある)

▽「過去」のイデオロギー的使用
・共通起源の神話→現在の意味づけ、政治体制の基礎、アイデンティティの基礎となる
・現代でも同じ。口承ではなく記録によるが、多様な解釈を許すもの
・過去は特定の現代の見方を正統化するために操作される(ホブズボーム)
  ←「意図的」な伝統の創造。スコットランド高地の伝統など
・過去は多様に描ける。ナポレオン戦争を英/仏の子どもに教える際の違い。北米先住民の描写

18 Nationalism and Minorities

▽ナショナリズムと近代性
・ナショナリズム:文化的境界と政治的境界の一致を志向するイデオロギー(ゲルナー)
 ウェーバーなどは近代化、個人主義、官僚化によって取って代わられる旧習とみた
 が、逆に近代の産物であった(フランス啓蒙主義、ドイツ・ロマン主義時代)
・伝統と伝統主義は別もの、と考えるのが有用
 ナショナリズム=古い文化的伝統を強調する伝統主義
  だが本当に「古い」「伝統」というわけではない。ex.ノルウェー・ナショナリズム1850~

▽ナショナリズムと工業社会
・ゲルナーによると、産業化に伴って人々が親族、宗教、地域社会などの「根源primordialities」から切り離され、それを機能的に代替する社会の組織原理としてヨーロッパのナショナリズムが要請されたとする
・ナショナリズムは抽象的なコミュニティを前提にしている(顔の見える関係でなく)
 →想像の共同体。マスメディア、特に印刷メディアの発達が重要な役割を果たしている
  標準化された言語と世界観、教育→国民国家
・ナショナリズムは感情的な動員が可能な点で、イデオロギーより宗教や親族関係に近い
・エトニという古い共同体に根ざしているとの主張もあるが、シンボルの意味は昔は異なった

▽国民国家
・指導者は権力構造の維持と国民の基本的欲求の充足を達成する必要あり
・ナショナリズムに基礎を置いている
・暴力、法、秩序維持、徴税の権限の独占
・官僚機構、教育システム、共通の労働市場、国語
・多数の人々の動員(ヤノマミはせいぜい数百人。国家は何百万人)
・民族的多元主義は初期のほうが問題にならなかった

▽ナショナリズムとエスニシティ
・エスニックグループが自分の国を持つ権利を要求する→ナショナリズム(伝統的定義)
・ただし実際は、
  グループが「共通の意思」を持っているわけではない
    1人を見ても場合により民族/国民アイデンティティを使い分けている
  ナショナリズムは多数派のエスニックグループのイデオロギーであることも多い
  日常の用法では両者は混同して使われている
  民族と国家の範囲は多くの場合一致してない→マイノリティ問題が生まれる

▽マイノリティとマジョリティ
・権力と権力格差に注目したエスニシティ研究の代表例2つ:移住労働者、先住民
・「エスニックマイノリティ」は単に少数なだけでなく、政治的従属も含意する
・「マイノリティ」かどうかは場合による:
  (1)シク教徒はインド全体では2%だが、パンジャーブ州では65%
  (2)国家を作ることでマジョリティになれる
  (3)ハンガリー人やジャマイカ人は英国ではマイノリティだが、別の地域ではマジョリティ

▽権力の非対称性
・Copperbelt(2級市民としてのアフリカ鉱山労働者)の例
・Tambiah(1989)による現代社会のタイポロジー
  (1)マジョリティが90%以上を占めるほぼ同質な国(日本、アイスランド、バングラデシュ)
  (2)75-89%の大マジョリティ国(ブータン、ベトナム、トルコ)
  (3)50-75%+複数のマイノリティ(スリランカ、イラン、パキスタン、シンガポール)
  (4)ほぼ同規模の2グループ(ギアナ、トリニダード・トバゴ、マレーシア)
  (5)どの1グループもドミナントでない多民族国家(インド、モーリシャス、フィリピン)
・ただし社会の安定度、民主化の度合い、人権状況は上記分類と対応しない
  (モーリシャスは第3世界の中では最も安定度が高い部類に入るなど)
・民族問題は市民権、キャリア機会の不均衡から生まれるのが典型的

▽マイノリティに対する3つのアプローチ:隔離、同化、統合
・隔離:マイノリティを劣るものととらえ、物理的に切り離す(アパルトヘイト、北米の諸都市)
・同化:マイノリティの融合→消滅。イングランドにおけるノルマンの吸収
  強制される場合も、マイノリティが選択する場合もあり
  起こりやすい場合(米国の旧移民)も、起こりにくい(身体的特徴が顕著な黒人)場合も
・統合:アイデンティティを保ったまま、共通の制度に参加
・ほとんどの場合はこの3つのブレンド
・マジョリティが占有するもの:政治権力、言説、言語、コード、キャリア
  →労働市場などでマイノリティが不利になる
  ex.在ドイツのソマリア人は4言語使えても、ソマリア、スワヒリ、イタリア、アラビア語では
  労働市場で有利になれない

▽移民
・貧しい国から豊かな国への移民研究は主に3つの焦点:
  (1)受け入れ国側での差別の諸相
  (2)マジョリティと移民の文化の関係
  (3)アイデンティティ維持の戦略
・マジョリティ/マイノリティ関係の違い(Wallman, 1986)
  東ロンドンのBowでは緊張関係、南ロンドンのBatterseaではもっと緩い
  Batterseaでは個人が多様なグループに所属、職場も地元以外、流動的
   =オープンで不均質な社会
  境界を越える手段がたくさんある=「ゲート」と「ゲートキーパー」が多数存在する
  →架橋的な人間関係がコンフリクトを抑制する
・個人の視点から見ると、文化的コードを切り替えながら生きている
  受け入れ国側の人と接するときはエスニックな面を抑制、同郷人とは逆に
・Vertovecの造語「スーパー・ダイバーシティ」
  特に南北の「北」諸国での移民カテゴリーの多様化
  ジェンダー、年代、教育程度の多様化、受け入れ条件の多様化、経路・制度の多様化

▽「第4世界」―先住民
・近代と国民国家に直面→脆弱な立場に
・全ての住民が地球の先住民である以上、「先住民」は価値中立的には語り得ない
  →国民国家と潜在的に対立する政治的主体としての位置付け
   ただし、領土要求のプロジェクトが出てくることは少ない。人数的にも分化の程度でも
  最も先鋭的な対立が起きるのは土地の権利をめぐって
・先住民が可視化されるには、文化的変容が不可欠であるというパラドックス
  リテラシーを身につけ、メディアの扱いを覚え、政治に精通することで可能になる
  運動も「人権」概念に立脚し、国連の枠組みのもとで行われる
・文化/文化的アイデンティティ、伝統/伝統主義

▽民族の再活性化ethnic revitalisation
・しばらく眠っていた文化的象徴や習慣の再興。ただしオリジナルとは違ったもの
  伝統ではなく「伝統主義」。ex.トリニダードでのヒンドゥイズム
・近代国家のもとで起きる

▽アイデンティティの政治
・グローカルな現象。特定の地域、集団で起きるが、文化や権利に関するグローバルな言説に依拠することが成功の条件
 ex.ヒンドゥー・ナショナリズム
  「ヒンドゥーらしさhindutva」の登場は1930年代だが大規模な現象になったのは80年代
  90年代には政党BJPの台頭←「世俗国家だ」とする批判
  カーストや言語的な分離が、かえってヒンディーを分断する可能性も
・特徴
  外部との違いは強調され、内部の多様性は捨象される
  「被害者」として歴史を解釈
  文化的な継続性と純粋性が強調される
  混交、変容、外からの影響は無視される
  結束強化のためには、内部の非成員が悪魔化される
  集団を越えた結びつきが批判される
  過去のヒーローが近代的ナショナリストとして意味づけし直される
・対比を通じたアイデンティティ形成
  ナショナリズムやマイノリティ問題は近代の産物だが、伝統社会にも見られるのがこれ
・エスニックグループも国家も永続的なものではないことに注意

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2017年07月01日 09:56に投稿されたエントリーのページです。

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