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非線形科学

■蔵本由紀『同期する世界』集英社,2014年.
■蔵本由紀『非線形科学』集英社, 2007年.
■蔵本由紀『新しい自然学―非線形科学の可能性』岩波書店,2003年.

ばらばらに動き始めたメトロノームが、不安定な台の振動を通して互いに歩調をそろえ、最後にはすべてが同じ動きになるという実験画像があります。一つ一つのリズムが相互作用し、マクロなレベルでのリズムを作り出す、集団同期と呼ばれる現象です。
こうした現象は生物にも無生物にも見られます。心臓の心筋細胞は、音頭を取るペースメーカー細胞の合図を受けて心拍を生みますが、この集団リズムが乱れると不整脈となり、AEDでリセットする必要が出てきます。また、ホタルの集団では個体が全体の光り方を見ながら周期を調整し、全体が一斉に明滅するようになります。同期現象を初めて報告した17世紀オランダの科学者ホイヘンスは、壁に取り付けた二つの振り子時計が必ず同じリズムになることを発見したのでした。

一見なんの関係もない自然現象の背後に、共通性が隠れている。そのことは、著者が1975年に作った式によって数理的に把握することが可能になりました。そのアイディアは、「リズム=周期的に継続する運動」の担い手を円運動する粒子に見立て、それらの相互作用を粒子同士の位置関係として表すというもの。いろいろな現象から本質以外の部分を取り除く「縮約」という作業を通じてモデルが作られました。現実から一歩離れる代わりに、現実を貫く共通性のレベルに視点を持っていけるというものです。

ものを分子に、原子に、そして素粒子に分解し、ミクロの世界を調べて、それを積み上げていけばマクロのことが分かる。そういう発想の科学とは違って、複雑なものを複雑なままに、五感で感じられるマクロなレベルをそのままに把握しようとします。それがマクロの世界を知るための方法だといいます。単語や音節のレベルを調べる言語学と、文章を調べる文学、個人の内面を調べる心理学と、集団の行動を調べる社会学など、調べるもののレベルが違えば適した説明の方法も違うようなものでしょうか。

これらリズムの担い手はいずれも、外部からエネルギーを取り入れ、内部で変換し、それを捨てることで同一性を保つ実体たちです。細胞とか組織とか生物は食って代謝して出しているし、メトロノームもぜんまいにためたエネルギーを取り出し、消費して散逸させています。そうした(生き物でないものを含めて)生き生きした実体が自己組織化を起こし、秩序を立ち上げる。イリヤ・プリゴジンの散逸構造論に着想を得た著者の研究が、力いっぱい平易に書かれています。(それでもかなり歯ごたえがあるんだけど。余談ですが、学生時代に読んだ現代思想の本に一瞬出てきたプリゴジンが何を言っていたのか、ようやく分かりました)

ちょっとした必要があって立て続けに3冊読みましたが、弊管理人的には、まずは『同期する世界』を入り口に、『非線形科学』へカオス、ゆらぎ、ネットワークも含めた見取り図を見に行くのがよいと思います。もっと知りたいと思ったら『新しい自然学』で著者の科学論・マニフェストを聞いてみるという感じか。

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2014年09月27日 07:00に投稿されたエントリーのページです。

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