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アニマルウェルフェア

■佐藤衆介『アニマルウェルフェア―動物の幸せについての科学と倫理』東京大学出版会、2005年。

仕事で行き当たった本です。

アニマルウェルフェア(Animal Welfare)は動物福祉とか家畜福祉などと訳されていて、今年をはさんで±5年ほどの日本の畜産業にひとつの潮流を作る考え方ではないかと思います。
簡単に言うと、家畜、ペット、実験動物、動物園の動物など人間と関わって生きている動物の感じる肉体的、心理的苦痛を軽減すべきであるということ。

畜産に限っていえば、欧米諸国では動物に苦痛を与えないような飼い方のガイドラインが作られたり、そうした飼い方で飼われた動物の肉や卵に認証制度を入れたりといった動きが起きています。それを野菜でいう有機野菜のように高付加価値の商品として国や地域の内外で流通させていこうという流れができてきています。

この考え方については「家畜のストレスが少ないと病気に強くなる」とか「乳の質がよくなる」などの科学的サポートと、「生き物である以上それをむやみに苦しめるべきでない」という倫理的サポートが混在しているように見えます。この本は前者にも言及はしつつ、主に後者に立って家畜福祉の考え方を正当化しています。「どうせ殺すのになんの福祉か」といった素朴な疑問にも答えられる内容になっていると思います。

尻尾を切る、歯を削る、飼いかごに入れる、繋いで育てる、親子を離す、高栄養の餌ばかり食べさせる。そうした飼い方がストレスを与え、どういう行動を発現させるか。それをどうやって避けるか。基準を作りどう評価するか。なぜ西洋でそうした家畜福祉への運動が起きたか。動物への共感は文化差があるのか。などなど検討しており、とても考えさせられます。

国内では現在は限られた規模、限られた畜産家が実践するのみの家畜福祉とはいえ、たとえば欧米からの倫理上の圧力が強まったら、あるいは家畜福祉の基準をクリアした高付加価値の畜産物が流入したら、それが国内市場でも受け入れられ始めたら。横目で外国の動きを気にしつつ、しかしなんとなく避けて通れない問題に成長する気もする。というわけで農水省や畜産技術協会などが勉強会や和製の基準作りを進めています。この本が出てからの動きです。ご興味があれば同協会のHPなどへ。

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2009年07月12日 18:00に投稿されたエントリーのページです。

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